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2章 9話 暗殺者vsメイド

 薄暗いはずの路地が、雷鳴と共に一瞬にして光に包まれた。その光を直視したせいで、何も見えなくなる。


「な、なんだ!?」


「雷よっ!!」


「目がぁぁぁぁ、目がァァァァっ!!」


 こんな間近で落雷。そんなこと滅多に経験することではない。オレと同じように、目をやられたやつが大勢いるみたいだ。周囲はパニックになり、一瞬にして騒然とする。


 しかし、オレも、周囲にいた人間も光にやられた目がすぐに回復する。そして回復した目で、改めて落雷のあった場所を見る。

 その光景をみた周囲の人々は、蜘蛛の子を散らすように、悲鳴を上げながら逃げていく。

 落雷によって周囲は焼け焦げ、物が焦げた嫌な臭いが立ち込る。

 そこはレオスの住処への裏口と言われていたところで、今やその影は見るまでもない。


「うっ……」


 焼け焦げた臭いをかいでしまい、気持ち悪くなる。


 そういえば、たしかあの周囲にはたくさんの人が通っていたはずだ。

 さっきの落雷を見て逃げ出した奴が大半だろうが……この臭い。おそらく……


「ウプッ……」


 ただの布や木が焼け焦げた臭いなら、こんなに不快になることはなかった。


 ()()()()()()()


 臭いのもとを想像したら、吐きそうになってきた。


「大丈夫かい?」


 アリアが優しく背中をさすってくれた。


「あ、あぁ……悪い、大丈夫だ」


 吐きそうになったのを堪え、顔を上げる。今は吐いてなんていられない。改めて、裏口のところを見る。


 砂埃と煙が立ち込める中、そこにいたのは二人の女の子。


 一人は、薄汚いローブを纏い、額からは冷や汗が流れし、いつもとは違って、遠目からでも険しい顔が見て取れる。片手には逆手に持ったナイフ、もう片方の手は地面に手を突き、今にでも突進しそうな体勢だ。

 対するもう一人は、感情を顔に出さずに自らが着ているメイド服についた埃を華奢な手で軽く払い落としている。


 そこに立っていたのはあの薄い水色の髪をしたメイドとマリアだ。


 どうやら、少し目を離した間に何かが起こったようだ。会話の流れか、それとも何か別の出来事か……原因なんてわからない。


 ただ、様子から見て察するにレオスに飛んできたナイフはマリアの使っていたナイフで、それがはじかれてどちらかが魔法で応戦したということぐらいしかわからない。

 でないと、あんな何もないところに雷が落ちるわけがない。


「……何をする……人間」


「お前……いったい何者だ?」


 周囲に人がいなくなったことで、さっきまで聞こえなかった二人の会話が聞こえるようになっていた。

 マリアの声から、怒りのような物を感じる。オレの喉元にナイフを向けていた時よりも、はるかに怒気が含まれていて、もはやそれは殺気と呼べるレベルのものだった。


 短い付き合いだが、割と感情が表に出やすいマリアから今まで見たことがない、初めて見た感情なだけに驚きを隠せない。

 当然だといえば当然だ。マリアは暗殺者。他の感情はともかく、殺気なんて一番隠さないといけない感情だろう。

 そんなマリアが、あれだけ感情的に怒り、それも殺気を放っている。この状況がただ事でないことは確かだ。


「人間に名乗る名前……ない」


「チッ……“ライズ・ディ・ウル・スピード”」


 マリアが呪文を唱える。さっきの戦闘で見せた魔法“ライズ・ディ・イル・スピード”に似た呪文だ。

 白く輝く魔法陣が、マリアを中心に回転している様子は変わらない。しかし、さっきより魔法陣がひと回り大きくなっている。

 そんな魔法陣がマリアを中心にしてしぼんでいき、その魔法陣が消える。


 魔法陣が消えたその瞬間に、マリアが駆ける。壁、地面、また壁。上へ、下へ、右へ、左へ、前へ、後ろへと、縦横無尽にメイドの周囲を駆け巡る。

 それは、もはや高速で駆けるというより、跳躍に近い。着地したであろう場所は砕け、大きな音が遅れてやってくる。

 マリア自身のスピードで、周囲には不規則な風が起こる。その跳躍で周囲に立ち込めていた砂埃が晴れていく。


 時折、その中心に立っているメイドに切りかかるが、メイドは何食わぬ顔でよけたり、手刀で攻撃をそらしたりと、あのマリアの高速の攻撃をすべて捌いている。

 不思議なことに、背後からの攻撃すら大きくかわすこともなく避けている。


 アニメでよく見る光景だが、実際に見てみると、なんでアレ躱せんだよって思うよね。いや、マジで。


 おそらく、マリアはさっきの偽物との戦闘でも同じようなことをしていたのだろう。

 それが今通じないということは、今度の相手がさっき偽物と比べ物にならないほどの手練れだったということだろう。


 とはいえ、それはそれで気になることがある。


「なんで見えてるんだ……さっきの闇魔法使わないのか?」


 さっきの偽物には使用していた闇魔法。たしか“エリア・ロウ・ディ・イルセンス”だったか。

 その魔法を使って、あのメイドの感覚を衰えさせれば、簡単にあのメイドを組み伏すことも出来るはずだ。


 今、オレの目にマリアが見えているということは、少なからずその魔法は使ってないはずだ。

 もしかしたら、今は相手が一人だから、そのメイドにだけ闇魔法をかけているのかもしれない。

 しかし、もしそうであるならば、あのメイドがマリアの速さについていけてる理由が説明できない。


「なぁ、アリア……」


「むむむ……」


 アリアに解説を求めようとしたが、アリアも目の前の戦闘を見て難しい顔をしている。

 眉を八の字にして、口に手を当てて、何かを観察しているようにも見える。


「もしかして、あの子……」


「あぁ、機工族だろうな。それにしても妙だけどよ」


 アリアの思考が終わり、アリアの中で一つの推論ができたんだろう。アリアがボソッと何かを呟いた。

 そんなアリアを見ていると、背後から聞いたことのある声がする。

 口調は男なのに、声の質はまるで女の子。そのミスマッチな声がする方へ振り返ると……


「うわぁぁぁっ!!」


 そこには、レオスが身をかがめながらオレの後ろにいた。


「なんだよ、あんちゃん……んな大きな声出すなよ……」


「い、いや、お、お前!! えっ、何、何、どうなってんの!?」


 目の前で起こっているメイドとマリアの戦闘に気を取られて、ちゃんと確認したわけじゃないが、額にナイフが刺さって即死じゃないわけがない。

 なのに、こうして目の前で話している。相も変わらず、額にナイフがズブリと刺さったままで……


「死体がしゃべった!?」


 そんな叫び声が、狭く薄暗い裏路地に響き渡った。




誤字脱字の報告、感想評価お待ちしています。


次回投稿は、7/22の18時頃を予定していますー

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