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2章 5話 あっけない結末

 マリアがアリアの命令に二つ返事で了承した。

 どこからともなく取り出した2本のナイフを逆手に持ち、肩の力を抜いて、目を閉じている。


「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」


 大きく深呼吸するマリア。


「おい、おめぇら!! やっちまえ!!」


 チンピラたちがオレ達に襲い掛かろうと、掛け声を合わせて狭い路地をかけてくる。


「おい」


 マリアはそんな奴らのことをすでに意識をしていないようで、慌てる様子もない。

 ゆっくりと目を開いたマリアは背中越しにオレに話しかけてきた。


「よく見ておけ」


「お、おう……」


「“ライズ・ディ・イル・スピード”」


 マリアが呪文を唱え始めると、マリアを中心にリング状の幾何学模様……俗にいう魔方陣と思われるものが、クルクルと回転しながら地面に描かれる。その魔法陣は薄暗い路地を白く照らし、マリアの周囲の空気が変わったようにさえ思えた。

 そして、マリアがその呪文を唱え終わると、回転を止め、アリアを中心にしぼむように消えてしまった。


「お前、付与術師か!?」


 チンピラがそんな問いかけするが、マリアはそんな言葉に聞く耳を持たず、軽くジャンプしながら、ステップを踏んでいる。


「さぁな」


 マリアがそう答えた瞬間、不意にマリアの姿が消える。


「うっ……」


 その直後、一人のチンピラがうめき声をあげながら、膝から崩れ落ちた。


「な、なんだ!?」


 マリアの姿もなく、音もなく。ただ、チンピラが倒れる音と、チンピラたちが倒れる時のうめき声が裏路地に響き続ける。

 一人……また一人とうめき声を上げながらチンピラたちは倒れていく。


 時々、マリアの姿が見えたと思ったら、チンピラの背後だったり、裏路地の壁の上の方だったりと一瞬の間に様々なところに現れる。

 “よく見ておけ”と言われたが、時々見えるだけなので、よくわからない。

 どういう意味でその言葉を言われたのか。そんな言葉の意味を考える間もなく、観察する暇も与えてくれない。


 ただわかるのは、この状況を作り出しているのはマリアだということだけだった。


「わかったか?」


 いつの間にかオレの背後に立っているマリアがオレに問いかける。


「全然わからん」


 音すらなくそこに立っているのは、恐怖でしかない。

 心底、こいつが味方でよかったと思った。あの朝、アリアが目を覚まさなかったら、オレは死んでたんだなと再び、あの時の幸運を噛みしめる。


「まったく……」


 マリアがため息をつく。


「て、てめぇ……いったい何しやがった!?」


 チンピラがオレの後ろに立っているマリアに向って声を荒げる。

 そうはわかっていても間にオレが立っているせいで、オレに向って叫んでいるようにも見える。


「はぁ……そんなこともわからないとは……お前たちは本当にあの“銀龍の拳”か?」


「て、てめぇ……っ!!」


 マリアはわざとらしく、チンピラを挑発する。

 それすらもわかってないのか、チンピラは顔を真っ赤にして挑発に乗ってしまう。

 チンピラは背中に背負っていた大きな戦斧を構える。


 ひとまず“銀龍の拳”とか名乗るなら武器を使わず拳で戦えよ……とかいうツッコミは置いておこう。


 黒光りしたその斧の切れ味は、おそらく言うまでもないだろう。生身の人間が触れたら、怪我で済まないと思う。

 しかし……


「はぁ……そろそろ仲間を引き連れて逃げればいいものを……」


 マリアはそんな戦斧を意にも介してないようで、ため息をつきながら再び姿を消してしまった。


「消えっ……」


 そしてチンピラたちにとっては、またしても悪夢が始まる。

 残っているチンピラもまた一人、また一人と倒れていく。チンピラたちが意気揚々と絡んできたのはもはや昔。今やどこから襲われるかわからない恐怖で混沌と化している。

 戦々恐々となるチンピラたち。声も様々に周囲も警戒していたが、次第にその声の数も減ってくる。


「はぁ……はぁ……クソッ!!」


「お前で最後だ。言い残す言葉はあるか?」


 ついぞ最初にオレたちに絡んできたやつだけが残った。いつの間にか、マリアはそいつの背後から首にナイフを当てている。


 このチンピラだって十二分(じゅうにぶん)にマリアのことを警戒していたはずだ。仲間をこれだけやられて暢気に構えていられるほど馬鹿ではないだろう。

 警戒していたはずなのに、その警戒をかいくぐってマリアはチンピラの背後に入り込んだ。

 マリアの技量は、オレはもちろん、チンピラをもはるかに超えている……そう感じることしかできなかった。


「お前……いったい何者だ?」


 チンピラも観念したのか、脱力し戦意喪失している。


「さぁな。私が答えたところで何になる?」


「それも……そうだな」


 どうやら、マリアの辞書には“冥土の土産”という言葉は存在しないらしい。

 マリアの言葉を聞いたチンピラは、寂しそうな声で呟いた。その呟きが終わった瞬間に、マリアがそのチンピラの首筋にナイフの峰の部分をたたきつけ、チンピラの意識が刈り取った。


 よく漫画で見る首トンを華麗に決めたマリアは、倒れるチンピラを見下ろし、何を思ったのか……何も思わなかったのか、よくわからないがどこか哀愁の漂う表情をしながら、自らのナイフをローブの中にしまい込む。


「ふぅ……終わりましたよ、師匠」


「うん、お疲れ」


 その裏路地に立っているのは、アリアとマリア、そしてオレの3人だけ。それ以外はすべてマリアの手によって処断されてしまった。

 こうして、チンピラ登場という久々のテンプレ展開はあっけない結末で幕を閉じた。




誤字脱字の報告、感想評価お待ちしています。


次回は7/18の18時頃を予定しています。

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