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2章 3話 ようこそ、ルナボアの街へ

「改めて……お久しぶりです、アリアさん」


 扉の壊れた部屋から移動させられたと思うと、さっきの部屋とはまるで違う応接間のような部屋に通された。

 さっきまでいた衛兵のおっさんは、オレたちをこの部屋に案内した後、どこかへ行ってしまった。

 要するに今この部屋にいるのは、オレたちとこのコペラという女性の4人だけになる。


 この女性、どこの誰かは知らないがただ物ではないはずだ。

 一見すると、このメンツと話しているのが信じられないくらい整った服装をしている。薄い紫色の長い髪と合わさって、とても落ち着いた大人の女性を感じさせる人だ。

 年齢はおそらくオレよりも……いや、おそらくオレの倍くらいは生きていそうだ。


「急にごめんね。ちょっと野暮用でさ」


「そうですよ。これでも私、仕事中でしたのよ。お仕事を放りだしてきたので、後でカミルに怒られてしまいます」


「あぁ。あのインテリ眼鏡君か。神経質っぽそうだもんね、あの人」


 カミルというインテリ眼鏡……恐らく秘書か執事かそのあたりなんだろう。

 お偉いさんと聞いてたんだが、そんな人がいきなり仕事をすっっぽかしたんだ。そのカミルってやつの苦労も忍ばれるなぁ……

 この一瞬で“落ち着いた大人の女性”というイメージが揺らいだ。仕方ないだろ、そんな人がいきなり秘書を置いて仕事を放り投げたりしない……と思いたい。


「本人の前では黙っててくださいね。気にしてるみたいですし」


「うん。わかった」


 お偉いさんのはずなのに、アリアのタメ口をそのまま聞き流しているところを見ると、相当親しい間柄なんだろう。

 アリア自身も数少ない味方とか言ってたし間違いないだろう。


「それで、野暮用というのは、そちらの御仁のことですか?」


「そうそう。ちょっとした諸事情と……あと冒険者ギルドに登録して身分証を作ってあげようかと思ってさ」


 相手のお偉いさんは、視線をアリアからオレに移す。


「……あなた、名前は?」


「オレか? オレは、葛城裕斗だけど……」


「カツラギ=ユート……ユートなんて家名聞いたことありませんが……」


 やっぱそこで引っかかるの?

 もうこの際、名前はユートで通した方がいい気がする。家名があるからって、いちいち疑われたらたまったものじゃない。


「まぁ、いいでしょう。申し遅れました。私はコペラ=シオン。シオン伯爵家当主で、このルナボアの領主を務めております」


 目の前のお偉いさんが自己紹介をする。


「……なぁ、アリア」


 その自己紹介を聞いて、隣に座ってるアリアを肘で小突く。


「なんだい?」


「なんでここで領主なんてのが出てくるんだ? オレたち、もしかして捕まるの?」


 確か、アリアって敵が多いとか言ってなかったっけ?

 そんな奴が街のトップと面会してていいの? 仲良さげにしてていいの?


「何言ってるんだい。ちゃんと“偉い人に頼む”って言ったじゃないか」


「だからって、なんで領主なんだよ!!」


「なんでって言われてもねぇ……」


 アリアの肩をガシガシと揺らす。

 首をガクンガクンと揺らしながら、アリアも返答するが、いまいち要領を得ない。


「あら……カツラギさんは私のことお嫌いでして?」


 今にも“およよよっ”とか言いながら泣き真似をしそうだ。

 大の大人にそれをやられると困る。どうしていいのかわからないからやめて欲しい。


「いや、そんなことないが……って、こんな口調じゃまずいか」


 アリアと親しげにしてようが、オレにとっては初対面で街のお偉いさんだ。

 媚びを売るわけじゃないが、偉い人にこの口調はまずいだろう。

 とはいえ、敬語とか苦手なんだよなぁ……変なところでボロが出そうで怖い。


「いえ、構いませんよ。アリアさんのお知り合いということですし」


「それじゃ、遠慮なく。あと、葛城じゃなくて裕斗の方が名前なんだ。呼ぶならそっちで頼む」


「かしこまりました、ユートさん」


 相手から、許可をいただいたので一安心だ。とはいえ、変な発言はしないようにしないとな。気を付けよう。


「マリアもこれくらい柔軟に対応してくれたら私としても助かるのですが……」


 オレの次はマリアに視線を向ける。


「いえ、今の私はここを拠点にして活動してますから。そんな街の領主様を相手にそのようなことは出来ません」


 マリアはオレの時とは違って、しっかりとした口調で話している。その辺の区別はちゃんとしてるんだな……


「その割には、公務に出ている私のもとにすぐに駆け付けましたよね?」


「えぇ。緊急を要する案件だったので」


「どうやって、私の公務のスケジュールを知ることが出来たのでしょう? 知っているのは、カミルとごくわずかの部下ぐらいだったはずですが……」


「机の上にあからさまに、資料を出してたらわかりますよ」


「ねぇ、もしかして勝手に私の執務室に入ったのかしら?」


「えぇ。緊急を要する案件だったので」


 黙って話を聞いていたが、それってもしかして……


「えっと……勝手に執務室に入られると困るのだけど……」


 やっぱりそういうことだよね?

 どうも、マリアは領主の館に不法侵入していたらしい。


 優雅に紅茶なんか飲んでるけど、それどころじゃないよね?

 口調以前にもっとやばいことやらかしてるやつが近くにいたよ。


「大丈夫です。机の上の資料以外触れてませんので」


「そういう問題じゃないんだけど……もういいわ」


 それでいいの?

 オレとしては領主の館の執務室に忍び込んだ方法を聞きたいんだけど。さすがに領主の館の警備がザルなんてことはないと思うし、マリア自身の技量なんだろうけど、それでも気になる。

 闇ギルドに入ってたって話は聞いてるけど、そこでの経験とかそういうことなのかね。


「それで、ユートさん。あなたは何者なんですか?」


 そんなことを考えてると、話題がオレの方へと帰ってきた。


「えっと……言わないとダメ?」


 どうせ信じてもらえないと思うし、アリアにも口止めされてる。とはいえ……


「そうですね。私はこのルナボアの領主です。民を危険にさらす可能性は、出来る限り排除しなければなりません」


 デスヨネー


 ここで、はいそうですって言うのは領主失格だろう。


「この子は、訳アリでね……ボクが面倒みるから、キミの街に危害を加えることは絶対にさせない。ボクの首をかけていい」


 返答に困ってると、アリアが代わりに返答してくれる。

 ただ、アリアが首をかけるって言うのは、この場では冗談じゃすまないと思うんだけど、大丈夫なのか?


「アリアさん……あなたそこまで……」


 アリアが黙って頷く。


「はぁ……そこまで言うのであれば、わかりました。ユートさんの紹介状を書きましょう」


「オレとしてはありがたいけど……その、いいのか? こんなに簡単に信じて」


 ここで認めたら、さっき否定した意味がない。


「えぇ、構いませんわ。私はあなたを信じているアリアさんを信じたまでです」


「はぁ……」


 しかし、その返答も的を得ない。


「ユートさん。あなたはこの幸運とアリアさんの言葉の真意をしっかり受け止めねばなりませんよ」


「というと……」


「お前、話を聞いていたのか?」


 首をかしげていると、マリアが口をはさんでくる。


「なんで、罵倒されてんの?」


「師匠には敵が多い。それはここでも同じということだ」


 無視かよ!!


「それは聞いた。で、だから、どうしたんだよ」


「要するに、師匠には多額の賞金がかかっている。それも地方都市くらいなら買い取れるレベルでな」


「……アリア、お前何したんだ?」


 地方都市が買えるレベルの賞金ってことは、十中八九、国単位で動いてると思うんだけど、国に喧嘩売ったの? 政府の旗でも燃やしたの?


「ボクは特に何も。ボクはボクの正しいと思ったことをしたまでだよ」


 特に何もしてないやつが賞金なんてかけられてたまるか。


 まぁ、いいや。短い時間しか見てないけど、アリアのことは信用していいと思ってるし、オレからしたら恩人のアリアが正しいことをしたっていうなら、それを信じることにする。


「んで、そんなヤバいやつを街にいれていいのか?」


 一応確認。大丈夫だとは思うけど、話を聞いてる限りオレよりアリアを中にいれたらまずい気がしないでもないんだけど、そこんところどう思ってるんだろうか。


「本来であれば、是が非でも止めるべきでしょうけど……アリアさんに限って言えば、昔からの付き合いですから問題ありません」


 なんだろう。気のせいかな……

 いい言い方をすれば、情に厚い。悪く言えば、感情で仕事する人。こんな人に領主を任せて大丈夫なんだろうか、心配になってきたのはオレだけだろうか……


「もちろん、目立たないようにしていただきますけどね」


「あぁ、わかってるさ」


「もちろん、あなたも目立つ行動はお控えくださいね」


「わかってるし、するつもりもないけど……そんなに目立ってるの、オレ」


 わざわざ口にして注意されると、嫌でも気になってしまう。確かに、着ている服はおかしいって言われたら否定できないけど、そこまで言われるようなことか?


「そういうわけじゃないですよ。ユートさんが目立って、周囲にいるアリアさんまで目立っては元も子もありませんから」


「なるほど。了解した」


 要するに、アリアが見つかったら騒ぎになるから、周囲にいるお前も気を付けろってことね。


「それでは……」


 目の前の領主様、もといコペラさんがゆっくりと立ち上がろうとしたその時……


「コペラ様ーーーー!!!!」


 部屋の外から、今度は若い男性の声が聞こえる。どこかで聞いたことのあるようなイケメンボイスだ。元の世界なら声優で成功するタイプの声だ。


「あっ……」


 そして、目の前のコペラ様。わかりやすく焦ってらっしゃる。


「見つけましたよ!! 公務中に黙っていなくなられると困ります!!」


 ノックもせずに、勢いよく扉を開け入ってきたのは、オールバックの短い金髪の男で、漫画の中でよく見る、いかにもインテリヤクザがかけているメガネの軍服の男が入ってきた。


 もしかしなくても、こいつがカミルと言われていた人だろう。言動からしても間違いない。


「ごめんなさい。謝りますから~」


 目の前で涙目になる領主様。嫌な予感が当たった瞬間だった。


「いなくなられた鉱山の視察の方は、途中から私が代務で終わらせてまいりました」


 うわぁ……もろ公務中じゃん。


 鉱山ってことは、さすがに街の外だよな。それも、それなりに郊外の。

 近かったら、視察なんてする意味もあまりないと思うし。


 この人、アリアに会うためにそんな所から来たの? というか、どうやって来たの?

 オレとアリアが外で待ってたのって、長くても2時間くらいのだったはずだ。時計なんてないから、あくまで体感だけど、あながち間違ってないはずだ。

 マリアが屋敷に行って、そこから鉱山に行って、そこでコペラさんと一緒に帰ってきたってことだから……車も電車もない世界で、どうやって時間内に帰ってこれたの?


 薄々感じてはいたけど、もしかしなくても、この二人ってすごい人なの?


「今、屋敷の方にソレイル王国の方から使者の方がお見えです。今すぐお戻りください!!」


「わかったから、引っ張らないでってば」


 もはや、領主とその部下という関係はどこへ行ったのか。

 ただただ駄々をこねる先輩社員を強引に仕事させようとしているやる気満々の新入社員に見える。

 その新入社員が、なまじ有能で言ってることが正しいだけあって、先輩の立つ瀬がなさそう。


「いえ、どうせこのままだとご客人に街の案内まで始めるでしょう。立場というものを考えてください」


「うっ……」


「皆様、ご迷惑をおかけしました。ここの担当者には先程、そのままお通しするように伝えておきましたので」


 このインテリ眼鏡君、マジで有能だな、おい。惚れてまうやろ。


「行きますよ、コペラ様」


 カミルさんはコペラさんの首根っこを掴んでずかずかと部屋を立ち去ろうとする。


「あぁんっ……な、なら、せめて……」


 カミルさんに引っ張られながら、コペラさんがオレの名を呼ぶ。


「ユートさん」


「んっ……」


「ようこそ、ルナボアの街へ♪」


 引きずられながらも、笑顔でそう告げてどこかへ行ってしまった。

誤字脱字の報告、感想評価お待ちしています。


次回投稿は、7/16の18時頃を予定しています。

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