2章 2話 コペラ=シオン
あの後、アリアと気まずい空気になって、何も話すことなく時間がたった。
「さてと……次はボクたちの番か」
「そういえば、紹介状間に合わなかったけど、どうするんだ?」
当初の予定では、オレたちが行列に並んでる間に、マリアがアリアの知り合いであるコペラと呼ばれる人から紹介状をもらってくるという話になっていた。
しかし、行列の方が思ったより早くなくなって、マリアが戻ってくる前にオレたちの番が来てしまった。
「まぁ、ないものは仕方ない。ここはボクに任せてよ」
「んじゃ、よろしく」
アリアが任せろというんだ。元々オレにはどうしようもないから、任せるしかないし、その言葉に甘える。
「次」
不愛想な小太りの門番らしき男が、次のオレたちをせかすように順番が来たことを知らせる。
「お前ら、中に入れ」
そういって、ある個室に通される。アリア曰く、ここで紹介状のチェックをされる待合室みたいなものらしい。
紹介状をうけとった衛兵は、その紹介状が本物か、本人に確認を取りに行くことになっているらしい。
電話もない世界では、人力になりどうしても時間がかかる。それを見越して紹介状を書いた本人も時間を合わせて、この門のところに来ることが慣習になってるみたいだ。
だからか、門の近くは無駄ににぎわっており、屋台まであるのか、食べ物のいいにおいがする。
とはいえ、今のオレ達には関係ない。なぜなら……
「それで、紹介状は?」
「ない」
そう、その紹介状がない。
とはいえ、なんでこいつはこんなに堂々としてんだよ……少しは、申し訳なさそうにしろよ……
「はぁ!? じゃあ、何しに来たんだよ」
「ある人に会いに」
オレ達を部屋に通した男に対し、アリアは淡々と質問に答える。
おっさん面の男が面倒そうな顔で質問を続ける。これが仕事なんだろう。面倒そうでも、ちゃんと応対をするようだ。
「なら、そいつからもらってないのか?」
「その子はあまり人前に滅多に出てきてくれない。だから、ボクたちがこうして遠路はるばる会いに来たってわけさ」
「紹介状もなしにか?」
「そうなるね」
「あのなぁ……アポなしで来られるそいつの身にもなってやれよ」
「アポ取りに行くなら、その時に用事を済ませればいいじゃないかな」
どちらの言い分もわからないではないから、口をはさめない。
元いた世界なら、メールやら電話やらで会う約束をしてから行くのが常識だろうけど、この世界にそんなものはない。郵便とかそういうものがあるのかわからないが、基本は直接アポを取るしかないわけだが、そうなったらその時用事を済ませたらいいだろっていうアリアの主張も間違ってないように思える。
「そういう問題じゃなくてだな……まぁいい。身分証は? ギルドに確認とってくるから発行したところ言え」
おっさんも諦めて、紹介状じゃなくて身分証が見つからなかった時の対応をし始めた。
どっちにしろ……
「ない。ボクたち二人とも、ね」
オレたち、身分証持ってないんだよな……
オレはもちろん、アリアも。アリアは更新してなかっただけだが、期限が切れてるのなら持ってないも同じだ。
「はぁ……お前ら、とっとと帰んな。俺だって暇じゃねぇんだ」
さすがに、諦められた。まぁ、当然だな無理なものは無理。このおっさんの言ってることは間違ってない。
というか、単純に街の外で紹介状が届くのを待ってればよかった話じゃないのか?
「今、冒険者の知り合いが、街にいるある人に紹介状を書いてもらいに行ってるんだよ。だから、ここで少し待たせてもらえないかな?」
「はぁ……いいか、嬢ちゃん。ここは待合室……って言っても問題ないかもしれねぇけどな。とにかく、待合室じゃねぇんだ。人待ちするだけなら、門の外でやりな」
さすがに、おっさんもイラつき始め机を指先でトントンと叩き始めた。まぁ、やってることはクレーマーだからな。理解できる。
そもそも、悪いのはオレらなわけなんだし、ここは言うことを聞いて……
「ここか!?」
「違う、違う。一番奥の部屋だ」
そんなことを考えてると、部屋の外が何やら騒がしいことに気付いた。
なにやら、男と女が言い争いをしている。というか、この声……
「ったく、それならそうとさっさと言え」
「あのなぁ……そもそも、ここはほいほいと歩き回られたら困るんだが……」
「うるさい。一番奥だな」
「あぁ、そうだ。わかったら少し落ち着け」
足と度がどんどんこちらへと近づき……
「師匠ーー!!」
部屋のドアが大きな音を立てながら、開いた……というより、吹き飛んだ。
「はぁ!? ちょっ、だ、誰だお前!!!?」
「マリア、遅かったじゃないか」
入ってきたのはマリアだった。
もしかして、この扉吹き飛ばしたのキミ? キミ、女の子だったよね?
どうやって、この扉吹き飛ばしたの?
「これでも、急いできたんですからね。急いでコペラ様のお屋敷にお伺いしたのですが、留守だったので……」
「じゃあ、もしかして紹介状はないの?」
そうなったら、オレたちは引き下がるしかないし、マリアもこんなに暴れたんだ。最悪、衛兵に囲まれて捕まるとかも全然ありうる。
「そんなわけないだろう。コペラ様からちゃんといただいてきた」
「留守だったのに、どうやってもらったんだ?」
「本人を見つけたに決まってるだろう」
もしかして、街中探しまわったの? 外から見た感じ、結構広そうだったけど、マジでやったの?
「はぁ……もういい。それで、紹介状はもらってきたんだな?」
「あぁ。これで師匠は中に入れるんだな?」
そういって、衛兵に手紙のようなものを渡す。洋画でよく見る割印もちゃんと入ってる。
しかし、マリアが渡したものは1通。しかも、さっき“師匠は”といった。
「あれ、オレは?」
「さすがに見ず知らずの人間の紹介状は書けないとのことだ」
言われてみればそうだ。アリアとコペラというやつが知り合いでも、そいつの紹介だからといって、見ず知らずのやつの紹介場をかくのはデメリットがでかすぎる。
「んじゃ、オレはどうやって街に入るんだよ」
「それは……」
マリアが話そうとしたところに、衛兵のおっさんが口をはさむ。
「お前……これは偽物じゃないだろうな?」
おっさんの手にはアリアの紹介状だと思われる紙切れ。それをひらひらとさせながら、そんなことを聞いてくる。
「本物に決まってるだろう。そもそも、それを確認するのがお前たちの仕事だろう」
「ったく……それもそうなんだが、あまり信じられなくてな」
おっさんは頭をポリポリと掻きながら、話を続ける。
タバコとかあれば、刑事ドラマでよく見る光景だ。まぁ、疑われてるのがオレたちという時点で不快感しかないわけだが。
「何がだ」
「あの、コペラ=シオン様がこんな薄汚れた奴の紹介状を書くなんて到底思えないし、その手紙を持ってこさせたやつも……なぁ」
アリアやマリアの姿を見ながら、そんなことを言う。
「私が、なんだと?」
「要するに、こんな薄汚れた奴の言うことを簡単に信じられねぇって言ってんだよ」
確かに二人の姿は決して立派なものだとは言わないが、それだけで疑われるようなほどのものなのか?
まぁ、アリアも偉い人って言ってたし、衛兵のおっさんも知ってるくらいなんだから、有名人なのかもしれない。
「悪かったな。私は冒険者なんだ。どこかのお嬢様じゃないんだから、着飾る必要なんてない」
「なおさらだ。一介の冒険者にお会いになる方じゃない」
「まぁ、それは一理ある」
いや、肯定しちゃダメだろ。どうやって会ってきたんだよ、マジで。
「しかし、それ含め、確認するのがお前たちの仕事だろう。こんなこと何度も言わせるな」
「はいはい。わかったよ、一応聞いて来てやる」
おっさんも正論についに根負けして、渋々といった感じで部屋を出ようとする。
「それには及びませんわ」
その時、不意に部屋の外から新たな声がする。その声が、女性の声だとわかる。
振り返ると、そこにはドレスで着飾ったいかにも貴族と言わんばかりの女性が立っていた。
「やぁ、久しぶりだね。コペラ」
誤字脱字の報告、感想評価お待ちしています。
次回は7/15の18時頃を予定しています( * ॑꒳ ॑*)