2章 1話 ルナボア
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「うん、いいよ」
「ここか?」
「うん、ここがルナボアの街だね」
オレの目の前には、王城かと疑いたくなるような、大きな門があり、堀があり、どこまで伸びているかわからないほど、ただただ長く、高い壁が広がっている。
そんな壁の中にポツンと空いた穴。俗にいう門の近くの待機列にオレたちは並んでいる。
「うん、そうか……じゃねぇよ!! お約束は!? テンプレ展開は!?」
思わず、周囲の目なんて気にせず、アリアに大声でツッコむ。
「キミ、何を言ってるの?」
アリアが、不審者を見るような目でオレを見る。
ちなみに、マリアは冒険者ギルドの登録証を持っているので、この入国審査の待機列をスルーして既に街の中に入っている。
なので、今この場には、オレとアリアの二人だけだ。
「ここまで結構、お約束展開というか、テンプレ展開多かっただろ!!」
「それなら、ここは街に行くまでの間に盗賊に襲われるとか、モンスターに襲われるとかあるだろ、普通。そんなの一切なかったぞ!?」
「そんなこと言われてもなぁ……」
そう、ここまでくる旅路、約1日ちょい。野営の間も含め、何一つトラブルらしいトラブルが起きなかった。
強襲イベントも、女の子のお色気シーンとかも一切なく、淡々と歩き続けていただけだ。
話したことも、ほとんどオレが元いた世界の話だ。マリアも最初は驚いていたが、アリアの恩人のあの人の話をマリアも知っていたみたいで、あっさりと受け入れてくれた。
「もしかしてキミは、盗賊とかモンスターに襲われることに快感を覚える……えっとなんて言ったっけ?」
「オレはマゾじゃねぇ!!」
いきなり、人を変態にしないでいただきたい。言ってることは間違ってないと思うけど、それだけで判断しないでいただきたい。オレは断じて変態ではない。
小さい女の子を連れているが、決してロリコンでもない。
総じて、オレは断じて変態ではない。
「そうそれだ。マゾっていうやつかい?」
「今否定したよな!?」
断じて、オレは変態ではない。大事なことだから二回言ったぞ。
「だったらなんで? 平和でいいことじゃないか」
「いや、それは何というか……」
お約束展開というのは、それはそれで重要なものがあったりするものだ。
異世界召喚された主人公が、自らの能力を自覚するとか、隠された能力が発揮されるとか……アニメに毒され過ぎな気もするが、こういうイベントは意外と重要だったりするのに、それがなかった。
魔法、モンスター、魔王とかが存在している異世界に召喚されて、美少女に拾われた。ここまではテンプレ展開そのものなんだから、そこはお約束を守れよ、こんちくしょう。
「それに、キミ。もし襲われたとして、どうするつもりだったんだい? キミ、戦えないでしょ」
「それも、そうだけどさ……」
もしかしたら、戦えるかもしれないじゃん。やってみないとわからないじゃん。それがお約束ってやつじゃん。
「もしかして、盗賊に襲われたら、ボクとマリアを盗賊に売って……」
「ちげぇよ!!」
アリアが少し後ずさりながら、そんなことを聞いてきたので、またしても大声で否定する。
「そうだよね……ボクはともかく、マリアはおっぱい大きいし、可愛いし、綺麗だし、盗賊に売りつければ、あっという間に娼婦の完成だしね……」
「あのなぁ……そんなことしねぇし。というか、それを言うなら、お前だって上玉だろ?」
呆れ果てながらも、アリアの想像を否定する。
少しだけ、マリアの娼婦姿を想像したのは黙って置こう。
「ボクがぁ? ないない。ボクに娼婦としての価値はないよ。ほら、ボクはこうぺったんこだし」
アリアが自分の胸のあたりをさすりながら、自分のことを卑下する。
たしかに、アリアはいわゆる幼女体型だけど……
「ないのもステータスっていうやつもいるし、あんま関係ないんじゃねぇの、その辺」
「それに、アリアだって、顔もいい方だと思うし、その髪だって綺麗なんだから、清楚系で売り出せば意外といけるかもよ」
「…………えっと、その……」
「んんっ……どうかしたか?」
「えと、その、何でもない!!」
「何言ってんだ?」
フードの上からでもアリアの顔が真っ赤なのがわかる。元々色白なこともあり、すごくわかりやすい。
んで、なんでこうなっ………………
「ちょっと待て!! 違うぞ、そういうことじゃねぇぞ!!」
もしかして、今アリアの中で、オレがアリアのこと口説いてたことになってんのか!?
「ち、違うのか!? 今のは嘘だったのか!?」
アリアが早口でまくし立てる。
「い、いや、違わないけど!! 違わないけども!!」
人がテンパってると、つられてテンパる現象って何て言うんだろうな。
要するに、オレもアリアにつられて、テンパっている。
アリアの言う“嘘”と言うのが、綺麗云々の誉め言葉の方のことを言ってるのか、口説いてるように見えたことを言ってるのかわからないから、安易に否定も出来ないし、肯定も出来ないし、ちょっと待ってくれ、少し考える時間をだな……
「あの~、すみません」
二人してテンパっていると、後ろの女性が控えめな感じで声をかけてきた。
「あっ、はい、なんでしょう」
こういうテンパってる時に第三者の介入は助かる。ナイスだ、お姉さん!!
「前……」
お姉さんが、オレたちの前の方を指さす。それにつられて、オレとアリアの視線も指の先へ向く。
そこには、さっきまでひたはずの人がいなくなっていて、すっぽりとなにもない空間が出来上がっていた。
「前、開いたんで、進んでもらってもいいですか?」
「「あっ、はい、すみませんでした……」」
ホント、すみませんでした。
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