1章 幕間 アリアの秘密
時は少しさかのぼり…………
「ハァ…………ハァ……ッツ、ゲホゲホッ!!」
もう……行ったかな……
ユート君とマリアには準備するから小屋の外で待ってるように言っておいた。ある意味じゃ、それも正解。そして不正解でもある。
マリアはこの辺の事情を知っている数少ない人物の一人だから、その辺は察してくれたんだろう。何も言わずにユート君を連れて出て行ってくれた。
口を押えていた手のひらを見ると、色白の手に真っ赤な血がべっとりと付着している。
「はぁ……はぁ……そろそろ、薬でごまかすのも、限界かな」
薬の副作用で、ボクの体はもうボロボロだ。そもそも、この薬は人体に与えるものじゃない。この副作用は承知の上だ。むしろ、今までよく死ななかったものだ。
「魔力欠損病……魔術師のボクがそんな病気にかかるなんてね、お笑い者だよ」
魔力欠損病。魔力を調整する機能に異常をきたし、魔法が上手く使えない病気だ。原因も治療法も不明。精神的なものが原因なのか、魔法そのものに原因があるのか、それすらもわからないし、治癒魔術も効かない。まさに、魔法使い、魔術師にとっては天敵ともいえる。
ボクは運よく、魔力を調整しなくても火と風の系統の基礎魔法に関しては調整なしに使うことが出来る。治癒魔術は、昔から苦手だったし、ちょっと無理して使ったところで、あまり出来が変わらない。
ボクを助けてくれたあの人……世間じゃ勇者とか呼ばれていたユーキと旅をして、アレクを倒したとき以来だから、この病気との付き合いも10年になる。
「ボクとしては、それ以外が上手く使えないのが問題なわけで……もう超級は使えないだろうなぁ」
元々、基礎魔法に関しては、適性関係なしに超級まで使うことが出来た。
うぬぼれるつもりはないけど、超級同士での複合魔法が出来たのも、ボクだけのはずだ。
そもそも、超級まで至れる魔法使い自体少なかったし、それが複数使えるとなると、歴史に名を遺すレベルだしね。
「いや……超級魔法よりも、こっちか……」
ボクを魔術師たらしめる固有魔法……これが使えない方が問題だね。
「この薬で……一体、いつまで人の姿でいられるのかな……」
元の体が嫌いというわけではない。それでも、元の体では不都合なことも多い。
「まったく……悪趣味な輩もいたものだ」
元の体は、高値で取引されるはずだ。元々数の少ない種族だ。
最近じゃ、闇オークションで取引されたなんて情報も聞かない。
今ボクが死んだら、オークションでいくらつくかもわかったものじゃない。買い取られたところで、碌な使われ方をしないだろう。
死んだあとの体を、下手にいじくられたくもないしね。想像したところで、嫌な気分になるだけだ。
「とはいえ……出来るのであれば、もう少し……生きていたいな…………」
ユート君にあんな発破をかけちゃったんだ。ボクが簡単に死んじゃったら、カッコ悪い。
それに、あの人……ユーキとの約束、なんだから…………
「うっ……」
ちょっと血を吐き過ぎた。死にそう。気持ち悪い……
落ち着くまで、少し待たせちゃうことになるな……
あの二人、上手く……やって、る……かな……
そうして、ボクの視界が暗くなり、机の冷たい感触がほほに引っ付いた……
誤字脱字の報告、感想評価お待ちしています。
これで1章が終わりとなります。次回以降は1日1話ペースでしばらく投稿していきます。
次回は7/13の18時頃と考えておりますのでよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)