1章 14話 出発
「ゴメンね。待たせちゃった?」
「……………………」
30分以上待たせたアリアが小屋から出てきた。実際には、もっと待たされたはずだ。
魔法のレクチャーの間にどれだけ時間が過ぎたかわからないが、それなりの時間がたっているはず。
流石に、真っ白なワンピース姿というわけではなく、その上からローブを羽織ってるし、フードまでかぶってる。
綺麗な銀色の髪もローブの中に全て隠れてしまっており、遠目から見たらだれかわからないだろう。
ただ、それ以外はさほどの変化は見られなくて、これなら10分そこらで準備できそうだよなって思ったりしてしまう。
そんなアリアの第一声がこれ。間違ってはいないんだけど……ねぇ?
まぁ、女の子の準備には男のオレにはわからない何かがあるのかもしれないしな。
この世界にももしかしたら、化粧とかあるのかもしれないし…………まぁ、昨日今日と、この小屋の中で化粧道具なんて見た記憶はないんだが。
隣のこいつがだんまりなのは少し気になるが、問い詰めても仕方がない。そういうものだと割り切るしかない。
「いや、そんなことないぞ。さっきまでこいつに魔法について教えてもらってたし、気にすんな」
とはいえ、そんな本音なんて言えるわけもない。オレは適当に誤魔化す。
まぁ、待ってる間のこいつとの話は有意義だったと思うしな。
オレに適性のある魔法って言うのも知れたし。選択肢があるというだけで、これからどうするかも見えてくるじはず。
「へぇ〜……いつの間に仲良くなってたんだい?」
ニヤニヤとオレたちを見ながら、そんなことをつぶやくアリア。
フードで目元が暗くなってるためか、すごく怪しい雰囲気を出すがツッコまないことにしよう。
「仲良くなどなってませんよ。こいつがあまりにも無知であきれてただけです」
「まったくだ。何がどうなったら、そうなるんだよ」
二人して、即否定するが、アリアはあまり信じてない様子だ。
確かに、最初に比べれば、こいつの印象も変わっては来ているが、それでも仲がいいかと言われたら、ノーだ。初めの印象が悪すぎた。
「そうなのかな? 勘違いとは言え、殺されそうになった相手とそんな会話が出来てる時点で、仲良くなってると思うけど」
……なるほど。そういう見方も出来るのか。アリアの言うことも一理ある。
普通、殺されそうになった相手と会話……しないよな?
そんなこと経験もないし、ドラマとかでも話してるイメージはない。
漫画とかだと、昨日の敵は今日の友とか言いながら、殺し合いをしても、翌日には酒を酌み交わしてたりするけど、今回の場合は一方的にオレが殺されそうになっただけだから、関係ないか。
「まぁ、ボクとしては、キミたちにはぜひとも仲良くなって欲しいんだけどね」
「もしかして、わざと二人っきりにしたのか?」
「さぁ、どうだろうね」
アリアは、背を向けながら、笑ってはぐらかした。確信犯だな。
もしかして、やたら準備に時間がかかったのは、そのためか?
問い詰めたところで、答えは返ってこないんだろうが。
「とはいえ、ボクにも孫弟子かぁ。そんなものが出来るとは思ってなかったし、ちょっとだけ感慨深いものがあるね」
「し、師匠!! 私は、こんな奴……」
こいつがオレの師匠?
「なんだ、お前。そんな目で見るな!!」
どんな目をしてたんだろう?
それはともかく、オレとしてはこいつに教わるのはアリだと思ってる。こいつの教え方上手かったし。ある程度、適性もかぶってるみたいだから、詳しいことも聞けそうだしな。
「いいじゃないか。ボクだって、最初はキミを弟子にするつもりなんてなかったんだから。もちろん、ユート君が嫌だというのであれば話は別だけど」
オレ次第と言われても……
「こいつの意思など関係ないです。私が嫌なんです」
やっぱり、こいつが拒否してくるんだもんなぁ〜
この手の話は、お互いの了承があってからじゃないと。
「頑なだなぁ〜。いい加減、弟子の一人や二人取ったらどうなんだい? 時々、来てるんだろ、志願者」
「そうですけど……」
歯切れが悪い。何か思うところでもあるんだろう。本人がどう思ってるのかわからないが、才能なら十分あると思う。能力じゃなくて、何かしらの事情があるんだろう。
「……まぁ、いいけど。キミの人生だ。キミの好きにすればいいよ」
アリアもそれ以上は強く言わない。
「ユート君。キミも魔法を使いたいのなら、精進することだ。自らの師を求め、師を追い、師すら追い越す勢いで学びたまえ」
つまり、師は目標であり、それを越えるように努力しろってことね。
師匠かぁ……
そんなもの、創作物の中でしか見たことがないオレとしては、あまり実感の湧かないものだ。
でも……ああいうのも悪くないのかもな。とはいえ、オレの事情を考えると、師匠になってくれる人なんて限られてくるとは思うが。
「おう」
「こんな基礎中の基礎も知らないやつに魔法使いになれますかね」
「さぁ。そんなことわからない。未来は無数に存在しているんだからさ」
「それもそうですけど……」
「キミだって、最初はボクのこと魔法使いじゃなくて…………」
「し、ししょーー!! ストップ、ストップです!! それ以上は言わないでください!!」
アリアが何か話そうとすると、大きな声でアリアの言葉を遮る。
こいつの過去は聞いたけど、こいつにとって何か都合の悪いことをアリアは知ってるようだ。
気にはなるが、さっき話さなかったということは、聞かれたくない話なんだろう。
「そうかい? とにかく、キミだって最初から魔法使いになろうとしたわけじゃなかっただろ? それと一緒さ」
「そうですかね……」
「そうだよ。ユート君が何を目指そうと、何になろうと、それはユート君の人生だ。ボクたちがとやかく言う問題じゃないよ。ボクたちは、それを手助けする、それだけの話だよ」
「……師匠。いい話風に収めようとしてますけど、さりげなく“ボクたち”って言いましたよね?」
「ぎくっ」
アリアだけ一瞬時間が止まったかのように、すべての動きが止まった。
というか、さっき漫画の中でしか聞いたことのないようなセリフが出てきたぞ。
「つまり、師匠の中では、私を巻き込むのは確定事項なんですね?」
「それは、そのぉ……」
どうやら、図星だったみたいで、アリアが言葉に詰まる。
「……まぁ、いいです」
そんなアリアを見ながら、呆れつつ、荷物をまとめだした。
「あっ、いいんだ」
「何を言ってところで、師匠は師匠の好きにするんでしょう?」
「酷いなぁ〜。ボクがそんな極悪非道に見えるのかい?」
アリアは苦笑いをしながら、質問を質問で返す。
「違いますか?」
「違わない。キミにも迷惑かけるよ」
「はぁ……そう思うのなら、巻き込まないでくださいよ……」
「善処する……と言いたいけど、今回はキミがまいた種だから、キミにはとやかく言われる筋合いないと思うけどなぁ」
そういえば、こいつがオレを殺そうとして、オレが今後の安全を保障するために“契約魔法”なる魔術を使える奴のところに行くために街に行くんだったな。
「うっ……こほんっ。そ、それで、師匠。準備できましたか?」
うわっ、あからさまに話そらしやがったコイツ。
「あぁ、準備万端。いつでもオッケーだよ」
とはいえ、アリアもこの流れに乗るようだ。まぁ、正直このまま続けても不毛でしかないからな。当然っちゃ当然の流れだろう。
「では、行きましょうか、師匠。あぁ、お前は来なくていいぞ」
野良犬を追い出すように、シッシッと手でオレを追い払おうとしている。
嫌そうにしながら、荷物を背負い、ゆっくりと歩き出す。
「そんなわけないじゃないか。キミもいつまでもそんな所に座ってないで、行くよ」
アリアがそれを否定しながら、それに続く。
「あ、あぁ」
そして、オレもゆっくりと腰を上げ、先を行く二人を追いかけるように歩き出す。
まぶしい日差しの中、オレの――
オレの異世界での冒険が今、始まった――
「ねぇ、キミ。なんか物思いにふけってるようだけど、ただ街に行くだけだからね? わかってる?」
「うっせぇな、わかってるよ!! ほっといてくれよ!!」
自分でも赤面していることが分かった。恥ずかしい!!
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次回は7/12の18時頃を予定しています。