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1章 13話 魔法の適性

「そういえば、魔法ってどうやって使うんだ?」


 アリアに聞いても良かったが、未だにアリアが出てくる気配がない。

 ばをもたせるためにも、こいつに聞いてみようと思った。


「そんなことも知らないのか?」


 呆れた顔で馬鹿にされた。

 仕方ないだろ、元いた世界に魔法なんてなかったんだから。


「悪かったかよ」


「あぁ。よくそんな知識で今まで生きてこれたな」


「だから……いや、別にいいや。それで、どうするんだよ」


 そういえば、異世界から来たってこいつに説明してないな……まぁ、いいや。

 この世界には、生活魔法なるものがあるんだったな。つまり、戦闘を生業にしてないやつでも簡単な魔法なら使えるってことだ。

 それすら使えないと言えば、不審がるのも無理はない。


「断る。そもそも、私がなんでお前に教えてやらないといけないんだ?」


 デスヨネー。そういうと思ってましたよ、こんちくしょう。

 とは言え、何の対策もなしにこんなこと言ったわけじゃない。


「……そんなこと言っていいのか?」


「な、なんだ」


「魔法について教えてくれないなら、お前が今朝のこと反省してないとか、ここでお前に襲われそうになったとか、あることないことアリアにチクってやる」


「ちょっ、ひ、卑怯だぞ!!」


 “虎の威を借る狐”作戦。

 まだ数時間しかはなしてないか、恐らくこいつは大事なもののためなら何でもするタイプだ。

 要するに、師匠が絶対のこいつには、効果てきめんだと思う。


「卑怯で結構。オレは魔法が使いたい。出来ればルーラを使いたい」


「ルーラ?」


「アリア曰く、転移魔術」


 魔法のある世界なんだから、魔法を使いたいと思って何が悪い。

 もちろん、無茶をするつもりはないが、簡単なものでも足掛かりをつかめれば何か変わるかもしれないしな。


「そんなもの覚えて、貴族にでも召し抱えられたいのか?」


「そんなんじゃねぇよ。ただ、出来るだけ楽したい主義なんだよ」


 聞いた話、ここからルナボアって街まで歩いて1日はかかるらしい。

 そんな距離を毎度毎度歩いてられるか。


 しかし、それは無理だとアリアに言われている。

 とは言え、可能性が皆無というわけじゃないらしいから、期待はしてないが、聞くだけ聞いてみただけだ。


 答えは知っての通りだったけど。


「生憎だが、固有魔術のことを聞きたいのなら、他を当たれ。私は固有魔術を使えないんでな」


「そうなのか?」


 アリアの弟子ということらしいから、てっきりこいつも何かしらの固有魔術を使えるものと思っていた。


「当たり前だろ。まともに使える人間など3000人に1人いればいい方だ」


「でも、アリアは血縁で引き継ぐことがあるって言ってたぞ」


 まともに使える人間ってことは、まともに使えないやつもいるんだろう。もしかしたら、固有魔術を使えるけど、知らないってやつも多そうだ。

 とはいえ、血縁でも引き継ぐというのであれば、もっといそうなものだが。


「確かに、親から子へと引き継ぐことはある。しかし、引き継がない場合だって当然あるに決まっている。むしろ、引き継がない場合の方が多いといってもいい」


「そうなのか?」


「普通に考えれば簡単に思い至りそうなものだが……」


「考えてもみろ。例えば、父親が固有魔術を使えたとしても、その子には父親の血のほかに母親の血も流れる。言い方を悪くすれば、固有魔術を使える父親の血に、母親の血という不純物が混ざることで固有魔術が使えるかどうかわからくなるということだ」


 不純物という言い方は引っかかるが、言いたいことは何となくわかった。


「もちろん、それでも偶然固有魔術が使えるようになる場合よりかは、可能性としては高いがな」


「へぇ〜」


「本当に何も知らないんだな」


「悪かったな」


「そうだな。だから、哀れなお前に少しだけレクチャーしてやる」


 そう言って、オレの隣でめんどくさそうに立ち上がる。


「どういう風の吹き回しだ?」


「いいだろ別に。気まぐれで、暇つぶしだ」


「はいはい、そうですか」


「それが教えてもらう立場の人間の言葉か?」


「すみません」


 確かに、これから教えを乞う相手にこれは失礼だったな。


「まったく……まぁ、いい。お前は、魔力を感じることは出来るのか?」


「魔力を感じる……?」


 そもそも、魔力ってどうやって感じるんだよ。

 雷とかだと、視覚と聴覚、場合によっては触覚で感じることもあるだろう。

 風とかだと、聴覚と触覚といった具合に、五感で感じることは出来る。

 それじゃあ、魔力はどうやって感じるんだ?

 五感じゃない、第六感で感じろとか言われたら無理だぞ。


「そこからか……まぁ、いい」


 目の前で頭を抱えられた。

 そこまで酷いのか、オレの状況。


「今から、魔力をお前の中に流す。まずはそこからだ。もし、感じられなかったら、お前には素質がないから諦めろ」


 どうやって感じるかもわからないのに、感じられなかったら即失格って酷くね!?


「辛辣だな」


「当たり前だ。あくまで気まぐれでやってるだけだ。素質のないものにレクチャーをしてやる義理もない。それで、準備はいいか?」


 まぁ、それもそうか。

 授業でいきなり小テストがあったうえに、平均点割ったら授業を受ける資格がないから廊下に立ってろって言われるくらいの理不尽さがある。

 とはいえ教師と違って、こいつは何の対価もなしにレクチャーしてくれるんだから、無理強いすることなんてできない。


 さすがに、気持ち云々じゃなくて、オレの技量の問題で教えてもらえないって言うのであれば“虎の威を借る狐”作戦を使うのは申し訳ないしな。


「準備って何すればいいんだよ」


「リラックスしてればいい。何か感じたら、声をかけろ」


「あぁ」


 オレの額に手を当て、目を閉じ集中している。

 つられて、オレも目を閉じる。


 少ししてから、何やらもやもやとしたものが額のあたりから流れ込んでくるのがわかった。


「なんか……来た。これが、魔力ってやつか」


「そうだ。そのまま、もう少し……」


 そう言って、再び黙り込む。

 さっきは温かい何かだったが、今度は氷水に浸かっているような感覚、そう思ったら、不意に何も感じなくなったり……


 そのまま、オレたちの間に沈黙が流れる。

 しかし、オレの五感はフル稼働しているといった何とも不思議な時間が続いた。


 これが、本当に五感で感じているのか、それとも魔力を流し込まれているからなのかよくわからない。どっちにしろ気持ち悪い感覚だ。


「……これで終わりだ。魔力を感じれたのはわかったが、どう感じた?」


 その掛け声とともに、額から手が離れる。


「えっと……温かい何かが来た後に、冷たい何かが流れていくような感覚が来て…………あとは、身体が軽くなったり、重くなったり、そんな所か」


「ほう……」


「それがどうかしたのか?」


 確かに不思議な感覚ではあった。

 そもそも魔力とやらを流しているだけなのに、こうも色んな感覚が襲ってくるものなのか?


「いや……お前、魔法使いというより付与術師を目指した方がいいんじゃないか?」


「どういうことだよ」


「今、お前には私の魔力を流し込んだ。私の魔法の適性は、風と雷、水、氷、光、闇だな。あと治癒魔術にも多少の適性がある。適性の説明もした方がいいか?


「出来れば頼む」


「まず、世界中には魔素と呼ばれる魔力の素となる物質がある。この魔素は呼吸、食事……要するに生きていれば勝手に体の中に取り込まれる。そして、取り込まれた魔素をエネルギーとして使用できるように変換したのが、魔力。ここまではいいか?」


「あぁ」


 ここまでは、よくファンタジーでよくある設定だな。


「それでだ。魔素というのは、自然のどこにでもある。それも空気中にだって含まれてる。しかし、それを変換した魔力というのは、変換した者によって少しずつ変化していく。そうした変化によって、使える魔法も少しずつ変化する。それが適正というやつだ」


「えっと……」


「要するに、声が一人一人違うように、魔力も一人一人違うということだ」


 そこまでは何んとなーく理解した。


「魔力にも個性が出るって言うのはわかった。それで、使える魔法にも変化が出るって言うのはどういうことだ?」


「例えば、そうだな……」


「私の魔力を10、お前を15、師匠を30とする」


「それは、魔力の強さとかそういうやつか?」


「全然違う。仮のものだ。そんなもの関係ないし、魔力の強さ云々など一目見てわかるようなものでもない」


「そうなのか」


「そうだ。話を続けてもいいか?」


「あぁ」


「っと、この話をする前に、お前算術は出来るのか?」


「算術? 算数のことか?」


「算数とやらが何かはわからんが、倍数と言ってな……」


「あれだろ。2で割り切れたら2の倍数とかそういうやつ。馬鹿にしてんのか?」


「それがわかっているやつが、なんで魔法の適性云々のことを知らないんだ。常識だろうに……」


 そんな人を馬鹿にしたような目で見ないでくれません?


 オレだって人間なんだから、そのうち泣き出すよ?


「いいか。魔法を使うためには、呪文という媒介を通す必要がある。ただし、この呪文を通すためには条件があったりする。

 例えば“魔力の番号が2の倍数であること”とかな。この場合、私と師匠は条件達成。必要な魔力を通せば、魔法を使うことが出来る。

 魔法の階級が上がるごとに条件が増えていく。例えば“2と3、両方の倍数であること”とかであれば、この場合お師匠様しか使えない」


「でも、それって魔法を使うための条件、みたいなものだろ? 適性云々って関係なくないか?」


「それはこれから話す」


「さっき言った“2の倍数であること”これが条件の魔法を、お前が使いたいとする。

 お前の番号は15だ。2の倍数じゃない。お前ならどうする?」


「どうって……」


 無理な話だろ

 そのたとえ話で言うと、おそらく魔法を使えるかどうか、すなわち適性ってことなんじゃないのか?


「答えは簡単だ。この番号に1を足して16にしてしまえばいい」


「なんだよそれ、卑怯な……」


「なんだ、魔法の発動条件以外のルールを用意したつもりはないぞ」


「それを世の中、屁理屈って言うんだよ」


「そんなこと今は関係ない。ひとまず、話を続けるが、これで晴れてお前も魔法を使えるようになった」


「そうだな」


「そんな、あからさまに不貞腐れるな」


「だってよ。それがありだったら、適性もクソもねぇだろ」


 それが許されるなら、すべての人間がすべての魔法が使えることになる。適性もクソもあったものじゃない。


「それがそうもいかなくてな。まず、この魔法を使うために私とお前では過程が違う」


「そうか?」


「あぁ。私はそのまま魔力を通すだけでいいのに対して、私の場合“1を足す”という行為が間に入る。つまり、お前は私よりより苦労するってことだ」


「でも、多少苦労すれば、使えるようになるんだろ? やっぱり意味ねぇじゃねぇか」


「この“1を足す”という行為。問題があってな」


「どんな」


「さっきの例えの中で言ったお師匠様しか使えない魔法の話を覚えてるか?」


「“2と3、両方の倍数であること”ってやつか?」


「その魔法を私たちが使おうとするには、単純にそれぞれに2と3を足せば事足りる、というわけにはいかなくてな」


「違うのか?」


「さっきの“1を足す”という行為だが“2を足す”という行為は出来ない。常人にはな。普通の人間であれば“1を足す”という行為を複数回しなくてはならない」


「なんでだよ」


「今のは、わかりやすく言ってるだけで、実際はそうはいかない。簡単な行為でも同時には行えないだろう。お前は、右を見ながら左を見れるか、という話だ」


 ……どこかで見たな、そのくだり。


「“2を足す”という行為が出来ない以上“1を足す”という行為を複数回重ねるしかない。しかし、その回数も多ければ多いほど、時間も労力もかかってくる。

 その行為を2回でいい魔法と3回もしないといけない魔法ではどちらに適性があるかなど明白だろう」


 この説明を聞けば、理論上すべての人間がすべての魔法を使える可能性があるってことだよな。

 そう思えば、夢があるじゃねぇか。だって……


「そのほかの魔術もそれに当てはまるのか?」


「そうだな」


「なら、だれでも固有魔術とか使えるようにならないか?」


「理論上は出来るが……それは無理だ」


「なんで」


「さっきの番号の話に戻すが、固有魔術の場合、条件が“30であること”といった感じで、番号が特定されてると思えばいい。まぁ、実際は1万いくらという膨大な数字だと思ったほうがいいがな。

 “1を足す”という簡単な行為でも、そこまでやり遂げるのは至難の業だし、そもそも使えるようになるまで何年という月日が流れかねない。しかもそこまでしてやっとたった一つの魔法が使えるだけだ」


 なるほど、要するに理論上、出来はするが現実味はないし、誰もやりたがらないということか。


「まとめると、さっきの個人の番号が魔力、“2の倍数であること”という条件が呪文で、その条件を満たすための調整の回数が少なければ少ないほどその魔法に適性がある、ということになる。わかったか?」


「あぁ。それで、オレはどうだったんだ?」


「お前は水や氷、光、闇魔法。あと治癒魔術にも適性がありそうだ。それ以外は知らん。少なくとも、風と雷には適性はなさそうだな」


「そんな細かいことまでわかるのか?」


「まぁ、簡単ではないがな。同系統の魔力通しが近づくと様々な反応を起こす。呪文を介していればそういうこともないが、今回はそれぞれの系統に調整した魔力を流し込んだ。その反応を見て、お前に適性のありそうな魔法を確かめたというだけだ」


「言葉だけ聞くと簡単そうなんだが……」


「……馬鹿か、お前。本当に魔法のことはからっきしだな」


 ため息をつかれた。


「さっきの例えを使うが、私の魔力が10。このままの魔力だと“2の倍数であること”という条件の呪文のほかに“5の倍数であること”という条件の呪文にも反応する」


「これだと、たとえ反応したところで、両方使えるのか、どちらか片方だけしか使えないのかわからないだろう」


「その辺の微調整が面倒でな……実践だと、10とか12のように何種類かの魔法に反応するような魔力に調整して使っているんだが」


 あらかじめパターン化しておけば、いちいち調整するよりかは実践で使えるということだろう。


 説明を聞く限り、簡単かどうかで言えば、そんな難しいことではないように思える。どちらかというと簡単な方だろう。

 しかし、とても面倒なのはわかった。


 普段しないような、調整をしないといけないだろうから、そう言った面では難しいのかもしれないが。


「それはそうと、さっき言ってた付与魔術はどこに行ったんだ?」


「光魔法と闇魔法がそうだ。光魔法は対象にいい効果を与えるもの、闇魔法はその逆と考えればいい」


「そこは魔術じゃなくて魔法なのね……」


「そのあたりはよくわからん。皆がそう言ってるから、私もそう言ってる。基礎魔法と付与魔術に別れてるのは、私は勝手に“直接相手に攻撃できるかどうか”と解釈はしてるがな」


「へぇ〜……」


「あと、光と闇、両方に適性がある奴は珍しいとされる。私自身両方に適性があるから、その辺は実感が湧かないが。師匠もそうだったしな」


 確かに、この狭い空間で3人も両方に適性のあるやつがいる状態で珍しいとか言われても実感湧かねぇな。


「それで、適性がある魔法があるのはわかったが、この後どうすればいいんだ?」


「あとは、魔力を調整、込めて、呪文を唱える。これだけだ」


「それだけ?」


「それだけだ。そもそも、そんな基礎中の基礎は、親から言葉を教わるようなものだぞ。出来ない方が不思議でならない」


「そういうものか」


「そういうものだ。まぁ、魔力を調整云々の方は根気よく練習することだな」


「だよなぁ……」


 親から言葉を教わるという例えと同様のものだとすると、時間をかけて慣れていくしかない気もするな。


「それで、呪文の方は?」


「魔法というのは想像の具現化。呪文は、あくまでその補助をするようなもの。要するに、呪文がなくても……」


 手のひらが薄い黄色に光り、次の瞬間には手のひらから、バチバチと甲高い音と共に、青白い閃光が発せられる。見たまんま雷だろう。ただ、規模は小さく、あくまでも手のひらにまとわりついているといった方が正しいだろう。


「とまぁ、こんな感じだ。そもそも、呪文というのは、魔法の形状、規模とかを明確にイメージしやすいように言葉にしているだけだしな」


 そして、手にまとった雷ごと手を握りしめると同時に、まとわりついていた雷も消えてしまう。

 アリアの時もそうだったが、手を握り締めると魔法が解けるようになってるのか?

 多分、違うんだろうけど、この二人は師弟だ。そういうところも似てしまったということだろう。そのあたりもイメージということなんだろう。


 それにしても……


「イメージねぇ……」


 イメージだけで、そんなに変わるものだろうか、よくわからん。


「魔法のレクチャーはこんな感じでいいか?」


「いや、あと一つ。魔力を込めるって言うのがいまいちイメージできなくてさ……」


「最初はそんなものだ。人間誰しも最初から言葉をしゃべれるわけじゃない。少しずつ慣れていけばいい」


 そう言って、お尻についた砂埃を払いながら立ち上がる。

 それと同時に、小屋の扉が開き、アリアがひょっこりと出てきた。



誤字脱字の報告、感想評価お待ちしています。


次回更新は7/12の15時頃を予定しています( * ॑꒳ ॑*)

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