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1章 12話 女の子の準備は長い

「はぁ……」


 澄み渡る青い空。白い雲。風になびく木々のさざめき。そんな中、聞こえるオレ自身のため息。


「どうしたんだ、そんなため息なんかついて」


 空を見上げながら隣で座っている少女がつぶやく。


「そりゃ、ため息ぐらいつきたくなるだろうよ……」


「なんでだ?」


「………………」


 コイツ……そんなの言われないとわからないのか?


 いくらなんでも、オレを殺そうとしたやつと二人っきりってありえないだろ、普通。


 確かに外見だけ見れば、こいつはかなり可愛いと思うし、こいつとデートなんかしたらかなり目立つだろう。


 でも、今朝の一件のせいで正直、こいつと二人っきりとか落ち着かない。


「何か言ったらどうなんだ」


「いや、悪い」


「まぁ、気持ちがわからないでもない」


 わかるなら、ため息の理由なんて聞かないで欲しい。


「しかし、仕方ないだろう。師匠が小屋の前で待ってろと言うのだから」


「確かにそうだけどよ……」


「なんだ?」


「女の子の準備って、時間かかるのはどこ行っても同じなんだなって思ってよ」


 ここで待ち始めてから、軽く30分たっている。

 まぁ、30分で準備が済んだら早い方なんだろうけど。


 神崎は2時間ぐらいかけるし……


 って、自分のことで手一杯だったから忘れてたけど、神崎はどうしただろうか。

 あいつは、あの自称神の言葉をちゃんと聞いてたし、クソジジィの方も神崎にはオレと違った反応してたし、オレみたいに波乱に満ちたスタートしてないだろう。


 そもそも、あれが夢で実際には神崎はこっちに来てないかもしれないしな。


 どっちにしろ、それを確かめる方法がない。なら、考えるだけ無駄か……


「まぁ、そうだな……」


「オレなんか、余ってたローブを羽織っただけだぞ。1分もかかってねぇよ」


 ボロボロにはなっているが、今はこの世界に来た時の服……学生服を着ている。しかし、そのままではマズイ。

 この世界に来てまだ2人にしか出会ってないが、アリアは質素な白のワンピース、マリアと呼ばれるこの少女は、ローブの下はファンタジー小説でよく見る町娘のような服を着ている。

 そもそも、アリアだって学生服のことを知らなかった。

 この姿で人前に出るには目立ちすぎる。

 男のオレからすれば、女物のローブはサイズが合わないが、この際文句を言っても仕方ない。


「それは、お前が男だからだろ」


「はいはい、そうですね」


 アリアとオレへの態度がここまで露骨に違うと……ねぇ。


「……………………」


「……………………」


 会話が続かず、二人して黙り込んだ。


「「な、なぁ」」


 そして、そんな間が嫌だったのか、二人同時に喋り出す。


「なんだ」


「いや、お前からでいいぞ」


 オレの話は急ぐほどのことでもない。答えが返ってくるかどうかわからない話だし、世間話と言われたら、実際そうだ。


「そうか。なら、ひとつお前に聞きたいことがある」


「いいぞ。オレに応えられる範囲でなら答えてやる」


「お前は味方なのか、敵なのか、どっちだ?」


 神妙な顔でそんなこと聞いてくる。


「そういや、朝もそんな質問してたな。もしここでオレが敵だっていったらどうするつもりなんだよ」


 その質問に意味はあるのだろうか。

 例え敵だったとしても“自分は敵です”と名乗るのは馬鹿の極みだろう。


「師匠には悪いが、ここでお前を始末する」


 どこから取り出したのか、手元にはナイフ。


「物騒だな」


「私は、師匠をお守りしたいだけだ。師匠もお前のことを信用しているみたいだし、今はその言葉を信じてやる」


 そう言って、手に持ってるナイフを引っ込める。


「…………なぁ、聞いていいのわからねぇけどよ。お前とアリアの間に何があったんだ?」


「どういうことだ?」


「言葉通りの意味だよ。ただの師弟にしては、お前の忠誠は重すぎると思ってさ」


 師弟の関係というのが、どういったものかよくわからない。

 それでも、師のために殺しまでする。そんなのは行き過ぎてる。

 よっぽどのことがあったはずだ。もちろん、軽々しく聞いて答えが返ってくるかどうかなんてわからないが。


「……そんなことを聞いてどうする」


「気になっただけだ。単純な世間話。どうせアリアが出てくるまですることもないんだし」


「……物好きな奴がいたものだ。面白くもなんともない話だぞ。それでもいいか?」


「別に。お前が話したくないっていうなら聞かねぇけど」


 そもそも、話す気になったことの方が驚きだ。てっきり、馬鹿にされた挙句、喋ってもらえないものかと思ってた。


「そんなことはない。でも、誰も聞きたがらない話だからな」


「そうなのか?」


「あぁ。そもそも、私と師匠の関係を知っているものも数えるほどしかいないしな」


 まぁ、アリアは敵が多いとか言ってたしな。その関係を知られるというのも困ることもあるんだろう。


「……私は捨て子だった」


 そう言って、オレの隣でゆっくりと語り始めた。


「親がいたことは覚えているが、もう顔も思い出せない。そんな子供でも必死に生きようと、あがいてたんだ。生きるためには盗みもした。そして……人を殺した」


「そっか……」


「私はいわゆる闇ギルドに所属していた。幻滅したか?」


「いきなり殺されそうになった時点でマイナススタートだよ」


「それもそうか」


 オレの隣で、静かに笑い、話をつづけた。


「んで、何がどうあってアリアと知り合ったんだ?」


「とある依頼で、師匠の仲間の一人を殺そうとした。そこを師匠に一撃で倒されてな。捕まって死ぬのかと思った時に助けてくれたのも師匠だった……というわけだ」


「ついでに、私の所属していた闇ギルドもたった一人で壊滅させてしまったんだから、凄い人だよ。師匠は」


「その後、数年間、師匠の旅に同行した。その時に魔法を教わった。魔法以外も色々と、な」


「師匠は私を闇の世界から引きずり出してくれた。魔法という今までとは別の生き方を教えてくれた。師匠がいなかったら、今の私はいなかっただろうな」


「まぁ、それでも手癖というものはなかなか消えないものだ。魔法が使えるのにナイフを使った方が早いと思うしな」


 物騒にも、苦笑いをしながらナイフを掌でクルクルと回して遊んでいる。

 その顔は、何を思っているのか。よくわからなかったが、その苦笑いはどうにも引っかかる。


 しかし、これ以上踏み込むのはどうだろう。

 正直、ここまでの話でも簡単に聞いていい話でもなかった。こいつがこんなに簡単に話したのも驚いたくらいだ。こんな話なら、朝のような事がなくてもいうのは渋ると思うんだけど……


 とにかく、こんな話を続けたら、そのうち暗い雰囲気にしかならない。そう思って強引に話題を変える。


「魔法かぁ……オレも使えるようになるのかねぇ……」


 固有魔術と精霊魔術以外は練習すればって話だったが、それでも使えるようになる保障なんてない。

 もしそうなら、世の中魔法使いで溢れ返る。基礎魔法までしか使えないやつだって当然いるだろうし、オレだってその手の人間かもしれないし……


 空を見上げながら黄昏てはみたけれど、答えは見つからない。


「もしかすると、師匠はお前にも魔法を教えるつもりだったのかもな」


 黄昏ていると、隣で同じように黄昏ながら呟いている。


「そうなのか?」


 もしそうだったら、それはありがたいことだ。頼んだら意外と教えてくれるかもな。


「私がそう思っただけで、実際には違うかもしれないがな」


 それならそれでも、別にいい。時間が出来た時にでも、アリアに頼んでみるか。

誤字脱字の報告、感想評価お待ちしています。


次回は、7/12の7〜9時頃の予定ですっ!

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