1章 11話 土下座裁判?
「まったく……前に同じことした時も散々注意したよね?」
「すみません……」
朝の一件の後、思ってたよりピンピンしてた暗殺者の女の子は、オレの目の前で土下座させられている。
そして、その上にアリアが座っているという、なんともシュールな光景だ。
「そもそも、こいつ誰なんだ? 師匠とか言ってたし、弟子か何かなんだろ?」
「名はマリア。昔、ちょっと魔法を教えてあげただけなんだけどね。それ以来、ボクのことを師匠って呼んでる変わった子だよ」
そのちょっとというのが、どういうものなのかわからないが、アリア自身その子の言うことを否定したいように見える。
俺からすれば、そんなことなく、どうみても師弟と言われても不思議じゃない関係だと思うぞ。
「で、なんで、その弟子がオレを殺そうとしたわけ?」
そんなことよりも大事なことがある。
殺されそうになったオレには理由くらい聞いてもいいはずだ。
「そ、それは……」
暗殺者の女の子は、言葉に詰まらせる。それを見たアリアが、ため息をつきながら言葉を引き継ぐ。
「原因はボクさ。ちょっと訳アリでね。この辺はあまり深く聞かないでくれると助かるかな」
「見ず知らずの相手に殺されそうになって、黙ってろって言うのか?」
これが、イタズラとかならその程度で済ませるのも問題はない。しかし、今回はそうじゃない。
処罰するにしても、しないにしても、それじゃあ問屋が卸さない。
「気持ちはわかるんだけど……なんて言ったらいいかな……」
アリアが言葉を選びながら、ゆっくり話を続ける。
「色んなしがらみのせいで、ボクにはかなりの数の敵がいる。そのうちの一人と勘違いされた……って言うの当たり障りのない説明になるのかな」
「なんだよそれ……」
要するに、この子にとって逆にオレが暗殺者に見えたってことか?
「ゴメンね。これ以上話すってなったら、ボクの方も色々覚悟しないといけないし、キミもボクの事情に巻き込むことになるからさ。キミにはこれからの人生があるんだ。マリアみたいにボクの人生に縛られることはないんだよ」
何があっても話すつもりはないらしい。
それにしても、もやもやする。覚悟ってなんだ、事情ってなんだ。大事なところをはぐらかされたせいで、さっぱりわからない。
「し、師匠!! これは、私が望んだ道です!! 決して縛られてる等……」
「マリア……キミがどう思おうとも、キミはボクが巻き込んでしまった人の一人だよ」
「師匠……」
尻に敷かれた女の子が、その上の女の子と何やら桃色の空気を作ろうとしてるのは気のせいか?
なに、こいつらそういう趣味でもあるのか?
百合がダメとは言わないが、この状況のそれはちょっと違うと思うんだけど……
「あ、あのさ。いい雰囲気作ってるところ悪いんだけどよ」
本当にいい雰囲気かどうかはこの際どうでもいいだろ、うん。
本人たちがどう思ってるのかわからねぇし。
「おっと、ゴメンゴメン」
話が脱線しそうだったので、強引に話を元に戻す。
「何個か聞いときたいことがあるんだけど、いいか?」
「それはもちろん。答えられる範囲なら答えようじゃないか」
「それじゃあ、まずひとつ。オレはお前のことを信じていいんだな?」
昨日、アリアは“ボクを信じろ”と言った。
その矢先にこんな出来事で、あんな曖昧な説明。疑いたくもなる。
「そうしてくれるとありがたいかな。まぁ、この説明で言えた口じゃないんだけどさ」
「その事情ってやつは……いずれは教えてくれるって思っていいのか?」
「あぁ。その時がくれば、ちゃんと話そう」
「なら、今はそれでいい」
無理矢理聞いても、どうせ答えてくれないだろうし。
そもそも、無理矢理聞こうにも、今のオレにはアリアからそれを聞き出す力も言葉も持ち合わせてはいない。
「……すまない」
さて、オレとしてはここからが本題。
「もう一つ。これだけはハッキリしておきたいんだが……今後、この子にオレは狙われることはなくなるんだよな?」
さすがに、今後も狙われる可能性が残ってるんだったら、これで終わらすわけにはいかない。
この子に対して、オレ自身は何もしてないのに、身を狙われるというのが続くのは勘弁願いたい。
そもそも、オレを襲った理由って言うのも勘違いっぽいし。
「それはもちろん。マリアの勘違いって言うこともはっきりしたし……もちろん、キミ自身に狙われる理由がなければの話だけど」
「それをどうやって保証するんだ? 口だけならなんとでも言える……保証が出来ないっていうなら、こいつを衛兵に突き出した方がいいと思うんだが。聞いてる感じ、初犯ってことじゃないみたいだし」
あの状況、場合によっては、オレは即死だった。死ななかったのは、本当に偶然に偶然が重なった結果だろう。
ご都合主義ここに極まれりだが、この際それは置いておくとして、大事なことは、この子はオレをいつでも殺せたということだ。
オレがいくら荒事に慣れてないからと言って、女の子が男を押さえつけたり殺そうと思えば殺せる状況に持って行けた事実。つまり、技量だけを見れば、こいつを自由にしとくのは危ないだろ……
というか、こんなことして、よく初犯の時に牢獄にぶち込まれなかったよな……
「それなら、ある魔術を使えば、保証できるよ」
「なら、早速やってくれ」
「生憎、ボクはその魔術を使うことが出来ない。固有魔法だからね。もちろん、マリアにも」
まぁ……そりゃ、そうか。出来るのなら、何も言わずにこの場でやってるか。
「でも、その固有魔術……“契約魔術”を使える魔術師が知り合いにいてね。というわけで、今から会いに行こうか」
「い、今からですか!?」
アリアの提案に、尻に敷かれたままの暗殺者が意見する。
「何か、問題でも?」
「大アリですよ!! どうやって街の中に入るつもりですか!?」
言葉から察するに、その知り合いの魔術師は街の中にいるんだろう。
そうなると、街に入れないオレやアリアにはどうすることも出来ない。
時間がかかるとは言ってたが、実際にどうするかは聞いてないし、おそらくアリアが結構非常識なことを言ってるんだろう。
ともかく、オレはよくわからないから、そのまま成り行きを見守ることにする。
「コペラに言えば何とかしてくれるよ」
「そうかもしれませんが……そこの男の分はどうするんですか?」
「どうもこうも、それもまとめてコペラに頼むんだけど」
「そのコペラって言うのは何者なんだ?」
話に出てきた人物について聞いてみる。
「ここの近くの街のルナボアの偉い人とだけ覚えておけばいいよ。数少ない、ボクの味方さ」
成程。昨日言ってた“アタリ”ってのは、このコペラって人のことか。
その街の権力者にアポ取れるって、コイツ何者なんだよ……
「そんなの、お受けしてもらえるとも思いません。第一、時間がかかり過ぎます。すぐには無理です!!」
「何言ってるの。そこを何とかするのがマリア、キミの仕事じゃないか」
もはや、アリアの発言がブラック企業のそれだが、この際気にしないことにする。
「私ですか!?」
「誰のせいでこうなったと?」
「うっ……」
「ボクは、本来手紙を託して紹介状を用意してもらうようにコペラに頼む予定だったんだけど?」
「それは……その……」
「時間がかかることも承知の上で、その時間で色々することもあったんだけど?」
「キミが、ユート君を襲わなければ、今から街に出向くなんてことしないですんだんだけど?」
「“信頼できる子だから、安心して”ってキミのこと紹介するつもりだったんだけど?」
「それで、街の案内とかキミに任せるつもりだったんだけど? 知ってるよね、ボクが人目のつくところに行くのダメってこと」
「うぅっ…………」
アリアの言葉のたびに、グサッって音が聞こえる気がする。ポキポキ、彼女の心が折れていく音がする気がする。
時々聞こえる、彼女の声がどんどんくぐもった声になって言っている。
「せっかく考えてた計画が全部パーだ。これら全部誰のせいだと?」
「うわぁぁぁぁんっ!! ずみまぜん、ごのわだぐじめがわるぅございまじだぁ〜〜」
ついぞ、オレを殺そうとした女の子はみっともなく泣き出してしまった。
これは……うん。オレが言うのもなんだけど、可哀想に見えてきた。
言葉責めって想像以上にダメージでかいんだよな……
しかも、事実を述べられているだけに、否定も出来ないし、言葉を受け入れるしかない。
「お、おい……」
「これくらいでちょうどいいんだよ。こればかりはマリアが悪いんだし」
「とは言ってもなぁ……」
正直、見てるこっちも心が痛む。
「ま、こんな子でも頼りになる子だよ。実力はボクが保証する」
「しじょぉ〜〜っ」
「ということで……いささか急だけど、街に行こうか」
「お、おう」
ところで、未だに尻に敷かれてる暗殺者の女の子が自分の師匠の言葉に涙している光景は、いささかシュールだと思うんだけど、それはいいんだろうか……
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次回は、7/11の18時頃を予定しています( * ॑꒳ ॑*)




