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1章 10話 寝起きに暗殺者

「んっ……」


 泉から帰ってきた後、再びベッドに戻り、二度寝を慣行。思ったより、寝付くことができた。

 時計がないから今が何時かわからないが、すでに日が昇って、さっきまでの朝もやはもうなくなっている。


 窓際のソファには、アリアが毛布にくるまって、未だに寝ている。これは寝る前の光景と変わらない。

 アリアを起こすのも忍びない。とはいえ、アリアがいないとすることもない。


「もうひと眠り……って気分じゃねぇな。ひとまず……」


 ひとまず、トイレと思って立ち上がろうとしたら、ナイフが鼻先をかすめ飛んで行った。あと一瞬、ほんの一瞬だけでも早く立ち上がってたら、オレに当たっていた。


「…………動くな」


 鼻先をかすめ飛んで行ったナイフに目を奪われていると、オレの背後から頭を押さえられ、喉にひやりと冷たい何かを当てられ、命令される。

 声の感じや、見えてる手や腕からして、おそらく女の子だろう。しかも結構若いと思う。


 そんな女の子に恨まれる覚え……あったわ。


 そういえば、昨日アリアの裸を見てる。昨日だけでも相当アリアに面倒をかけてる。

 実は最初から殺すつもりで、油断させるために一日だけの我慢と割り切ってたんだとしたら……


 そんなことはないと信じたい。そう思って、視線だけをソファに向ける。

 視線の先には、何も気づかずアリアが寝息を立てている。


「動くな。そして、騒ぐな。さすれば、命だけは助けてやる」


 黙って頷くと、喉にあてられていたナイフが少しだけ喉元から離れる。


「だ、誰だ、お前」


「答えると思うか?」


「聞いてみただけだ」


 そもそも聞いたところで、誰かなんてわかるわけない。この世界の人間なんてアリア以外誰も知らないんだから。

 それでも、お約束ってあるだろ。もし殺されてもダイイングメッセージとか残せ……って、そういえば、この世界の人って日本語読めねぇわ。この世界の言葉をかけないし認識できないオレ、詰んだな、うん。


「私の聞くことだけ答えろ。余計なことをしゃべったら殺す」


「わかった」


 こうなったら、指示に従って生き残る可能性に一縷(いちる)の望みを託すしかない。


「お前は誰だ」


「いや、こっちのセリフなんだが」


「死にたいの?」


「いや、すまん」


 マジですまん。つい条件反射で聞き返してしまった。


「怪しいものじゃない。信じて欲しいんだが、昨日この近くで倒れてるのをここの家主に発見された……らしい」


「らしいってなんだ」


「オレも家主に聞いただけだ。オレも目が覚めたらここで寝てて……昨日、目が覚めたんだよ」


「はぁ……もういい、次」


 暗殺者は何に呆れたのか、ため息をついている。


「お前は……敵か、それとも味方か。どっちだ?」


「それはどういう……」


 質問の意味が分からない。何に対しての敵なのか味方なのか。

 この状況では、敵じゃないって言い張るのが正解なんだろうけど、そんな考えよりも、疑問の方が口走ってしまった。一度口にした言葉は引っ込められない。


 下手すると、せっかくアリアに助けてもらったのに、ここで死ぬな……

 オレが死んだあと、アリアも殺されて……

 男なんだから、最後くらい女の子を守って死にたいって夢見てもいいのだろうけど、今の状況だと何しても無駄か。何かしようとしても、その前に首が飛ぶ。


「んんっ……んぐっ!!」


 そんなことを考えてると、二人の視線の先の毛布の塊……アリアがもぞもぞと動き、ソファから落っこちる。


「っつ!!」


「いたた……」


 落ちた時に、頭に毛布がかかり、まだ状況を理解できていない様子のアリア。


「お……んぐっ」


 状況を伝えようとしたら、いきなり口を押えられた。


「ふぁぁぁっ……ねむ……」


 毛布の中でのんきに欠伸をしているアリアに状況を伝えないといけないのに、喋ることも出来ないのに、もがいて振り払うことも出来ない。

 この暗殺者、女の子のはずなのになんでこんなに力が強いんだよ。こうなったら……


「あ、暴れるなっ!!」


 暴れて拘束から逃れようとしたが、その暗殺者はいつの間にかオレを押し倒し、馬乗りになる形で押さえつけられる。

 オレは為す術なく、取り押さえられる。ついぞ、足も大して動かせなくなってしまった。


 ただ、状況が変わったことで、初めて女の子の容姿を見ることが出来た。


 薄いグレー系の髪の色だ。薄いミルクティーのような、そんな色の癖っ気の強いショートヘアの女の子だ。

 前髪はヘアピンのようなもので分けられており、ヘアピンには白い何かがついている。おかげで前髪がわけられていて、顔もはっきりとみることが出来る。

 アリアとは違った意味での童顔で、アリアは仲のいい従妹といった感じが強いのに、この子は街中で見かけたら可愛いと思ってしまう感じと言えばいいだろうか。


 それにローブの上からでもわかる柔らかさ。こんな状況で言うのもなんだが、役得だ。ラノベじゃよくマシュマロのような柔らかさとか、夢心地とかよく言うが、あいつらの感想がよくわからない。


 原因はわかってる。

 確かに、柔らかいのも当たってる。何がとは言わない。しかし、同時に固いものも当たってる。意味深な言い方をしたが、もちろん男の象徴という意味じゃない。

 固いものが当たっているのは、オレの喉元。体勢が変わったからって彼女の持っているナイフは、以前オレの喉元にあてられている。


 出会い方と今の状況を考えなかったら、異世界物でよくあるヒロインとして成り立つと思う。故になんか残念感がすごい。


 あと、人間ってどうしようもなくなったら、状況を解決しようとか思わなくなるんだな、うん。


 どう考えても、もう無理。叫べないし、馬乗りになられたことで、無理に動いたら即座にオレの喉にナイフがずぶり。


 考えるだけ無駄ってやつだ。


「んんっ……誰?」


 アリアが何かの気配を感じたのか、毛布の中でもぞもぞしながら問いかける。


 アリアは魔術師なんだから、この状況に気付いてくれたら……


「んんーーーーっ!!」


「しぃーーーーっ!!」


 頑張って叫ぼうとすると、暗殺者の彼女が慌てた様子で、顔を真っ赤にしながら黙るように命令してくる。


「あぁ……キミ……えっと、ユート君。もし起きてるなら、こっちを見ないでくれると助かる。また昨日みたいなことになっちゃうしね」


 仰向けに倒されて、今のアリアの状況がわからないが、おそらくまた毛布と格闘してるんだろう。

 そういえば、寝るときは服を着ないとか言ってたっけ……


「えっと……師匠、もしかしてまだ寝ぼけてます?」


 えっと……師匠?


「その声……あぁ、そういえば今日だったね。もう来てたんだ、マリア」


 何これ、どういう状況?

 二人は知り合いで“師匠”って……字面のままの解釈でいいのか?

 来ることを知ってたってことは、約束してたってことだよな……


 あぁ、そういや、明日パシリという名の通販もどきが来るとか言ってたな……まさか、この子?


「えぇ、今さっき着いたところです。荷物は隣の部屋に置いてあります。ところで、そのユートというのは?」


 さっきまでの口調はどこへやら。丁寧な口調に代わり、さっきとはまるで別人だ。その子の幼げな顔から覗く二つの眼が“お前のことか?”と言ってるような気がしたので、黙って頷く。


「そこの……んっしょ……ベッドに寝てない?」


「えぇ。誰なんです、この方……?」


「ちょっと訳アリの子でね……しばらくボクが面倒みることにしたから。寝てるならそのまま寝かせてあげて」


 アリアが起きたことで、事態が解決するという根拠のない自身があったんだろう。

 女の子に丸投げで解決するという男として非常に情けないところであるのはこの際置いておこう。


「間違っても、前みたいに殺そうとして、刃物をつ、き……」


 さっきまでしていたごそごそと毛布がこすれるような音がやんだと思ったら、ほぼ同時にアリアの言葉が不意に止まる。


 マリアと呼ばれたこの暗殺者の女の子の顔が真っ青になっていくのがわかる。


「あぅ……こ、これ、は……そのっ……」


 もうすでに、オレの口を押えていた手も、喉元にあてられていたナイフもなくなっているが、抵抗することもなく事態を見守る。


「…………“シェル・ディ・ウィンド”」


 アリアがオレの上に馬乗りになっている女の子に向かって、手をかざしながら呪文を唱える。

 呪文を唱えるアリアの手のひらは淡い薄緑色に発光し……


「ちょっ、まっ!!」


 オレに馬乗りになっていた女の子が宙を舞った。

 アリアのあの手のひらから突風が飛んできたんだ。余波でオレにも風が吹きあたる。


 それにしても、こういう吹っ飛ぶ役目って男の仕事だと思うんだが……

 こういうところテンプレを外さなくていいと思うんだけど、そこんとこどーなのよ……


誤字脱字の報告、感想評価お待ちしています。



次回は7/11の7~9時頃予定してますー( * ॑꒳ ॑*)

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