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1章 9話 名もなき英雄

 まだ朝もやがかかる時間帯。あまり寝付けなかったので、小屋の近くにあった泉にフラフラっとやってきていた。


 ここに来て、恐らくオレが倒れてたのもこの泉の近くだろうと思って、周囲を少し探索したけど、元の世界のものなんて何も落ちてなかった。


 スマホすら落ちてなかった。こっちじゃ使えないだろうけど、何故か使える作品だってあった。少しばかり期待してたんだが残念だ。


 諦めて、泉の縁にあった切り株に腰掛け、少しばかり考え事をする。


「ステータス……ステータスオープン!!」


 手を大きく前に出してジェスチャーをしながら確かめてみたものの何も起こらない。


「って、やっぱ出ないか……こういうところ、テンプレを外してくるよな、この世界……」


 オレは思いつきで、異世界物でよくあるテンプレ要素がどこまで本当か確認してみた。


 ちなみに今は一人。

 だって、こんなこと言って、もしステータスプレートとか出なかったら恥ずかしいじゃん。ただ一人で訳の分からないことを、叫び出した危ないやつじゃん……


 まぁ、実際出なかったわけだけど。


「ステータスの概念自体がないのか、何か別の条件があるとか……」


 前者だったら、どうしようもない。後者なら、魔道具みたいなものを通さないとダメとか、何か別の呪文がいるとかか?

 何の手掛かりもない状態で考えたところで答えは出ないか……


「考えても無駄……か」


 アリアの言葉。妙にしっくり来た言葉を口にする。


「そうだよな。考えたって答えが出るわけじゃねぇし、そのうちわかんだろ。あとは……」


 後、試してないお約束と言ったら……


「アイテムボックスなんだろうけど……アニメに出てきたやつって、軒並み念じただけで出してたよなぁ〜」


 ステータスプレートといい、アイテムボックスといい、現実とゲームの区別くらい付けて欲しい。


 もちろん、実際に試したオレが言えた口じゃないが。

 そして、そんなもの出てこないし、使えない。


「はぁ……まぁ、実際こんなもんだよなぁ〜」


 アイテムボックスという名の四次元ポケットなんてものはない。これが普通だ。これが常識だ。


 とはいえ、おそらく乗り物なんて馬車がいいところであろうこの世界で、そう言った便利機能がないのはつらいよなぁ〜


 毒されている気がしないでもないが、実際不便なんだもの。文句の一つも言いたい。

 キャンプ道具とかを持ち歩かないといけないし、食料の問題もある。


 ゲームと違ってここは現実だ。何日もぶっ通しで歩き続けれるわけでもないし、何も食べなくても生きていけるわけじゃない。


「実際の戦争でも補給路をつぶしたら、呆気なく軍が壊滅とかあるもんなぁ〜」


 そう考えると、こういう異世界で最強のアイテムは四次元ポケットなのかもしれない。


 とはいえ、ないものねだりをしても仕方ない。


 もしかすると、ルーラが“転移魔法”っていうように、アイテムボックスも“収納魔法”とか別の名前に変えて存在してるかもしれないし。


 今後にこうご期待ってことにしよう。


「そろそろ帰るか……って言いたいところなんだけどさ」


 お約束の期待が外れたところで、帰ろうとするが、その前にひとつ。


「この意味深な剣ってなんだろな」


 泉に来た時から思っていたが、この泉の周囲には木が刈り取られたように、森の中にしては周囲に木がない。

 その代わりと言っては語弊があるだろうが、泉のほとりに1本の銀色の剣が刺さっている。

 オレの知識が正しかったら、両刃の両手剣。よくRPGで見かけるタイプのオーソドックスな剣の形状をしている。

 剣には、柄の部分に赤色の宝石がはめ込まれており、野ざらしになってる割りにはかなり綺麗な方だと思う。

 そもそも、鞘はどこへ行った? 無造作に放置し過ぎだろう。


「まぁ……普通に考えて、誰かの墓……なのかねぇ」


 誰かがここで息絶えて、そのまま放置されたということもないだろう。もしそうなら、他にも遺品があっていいと思うしな。


 それに、アリアの住んでる小屋から1本の獣道のようなものが出来ていた。

 だからこそ、オレも迷わずここに来れたわけだが。


 とにかく、アリアの小屋からの道ということは、アリアはここに頻繁に着ているってことになる。

 そう考えたら、アリアがオレを見つけれたのって偶然じゃないのかもしれないと不意に思う。


 それはそれで置いておいて、肝心なのはなぜアリアがここに頻繁に来ていたのかという点だ。


「もしかして、アリアの言ってた、あの人の墓……ってことなのか?」


 可能性は大いにある。

 帰れたのかという質問の答えを明言してたわけじゃないしな。その後の言葉を鑑みるに、おそらく帰れずにこの世界で息絶えたんだろう。


 この人がどういう人生を送ったのかはわからないし、そもそもオレの推測が違うことだってあり得る。


 しかし、何となくだが、オレの推測は当たっていると思う。


 もちろん、根拠はない。ただオレがそう思いたいだけかもしれない。


「………………」


 オレの恩人であるアリアの恩人……そんな人の墓がここにあるのであれば、こんな所にアリアが住んでるのも納得のできる話だ。


 オレは静かに剣に対し黙祷を捧げる。少しでも安らかに……


「なぁ……お前が誰かわからねぇけどよ」


 答えが返ってこないのはわかってる。それでも問いかけてみたかった。


「お前は、ここで死ねて幸せだったか?」


 無念の死だったかもしれない。そうじゃないかもしれない。


 墓標に名を刻まれないどころか、墓標すら作ってもらえない、この名もなき英雄に問いかけたい。


 異世界に連れてこられて、ここで死んだアンタは幸せだったのか。悔いはないのか。


 これから、オレもこの世界で生きていくことにした。


 この先どうなるかなんてわからない。だからこそ、先人に聞いてみたかった。


 アンタはどうだったのか、と。

「まぁ、こんなもんだよな……」


 樹々のざわめき、風で揺れる泉の波の音、それ以外の返答はない。


「さてと……帰るか」


 腰を上げ、服についた土を払い落とす。


 今度来るときは、バケツと何か拭く布切れでも持ってこよう。


 多分アリアが綺麗にしているんだろうけど、オレもそうしたいと思った。




「……迷えよ、少年。それが生きるってことだ」




「えっ……」


 立ち去ろうとしたら、背後から不意に声がして、ぱっと振り返る。


「誰か……男の声がした気がしたけど…………」


 周囲を見渡しても、誰もいない。それどころか生き物の気配すらない。


「まさか……な」


 まさか、例のあの人の幽霊がここにいて…………


「そんなわけないか。気のせいだろ、きっと」


 そう言い聞かせて、また歩き出す。


 それでも、気のせいと切り捨てた言葉……ちゃんと聞き取れてないけど、なぜか心にスッと入ってきて、心が軽くなった気さえした。



誤字脱字の報告、感想評価お待ちしています。


次回投稿は、7/10の18時頃を考えています!

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