速やかに決断、否、休息
「ところで影浦様、何故この方をお呼びしたのです?」
少しして、唐突な質問が東雲改め、刃月から飛んできた。
「あぁ、明日には暁家に着くだろうし、ここからは同行してもらっても良いだろうと思ってのことだ」
「向かう先って暁様のお宅だったのですか?」
「あぁ、鍛冶の依頼をしていたものを受け取るためと、しばらく留まるつもりだ」
そう言えば何も言っていなかったと、今更ながら俺は思い出した。
「そ、そんないきなり私達まで押し掛けてしまって良いのですか?」
「あっはははは。刃月ちゃんはまじめだねぇー。そんなこと良いのよ。堅苦し過ぎたら肩凝るぞぉー。もっと楽しく考えなきゃ。我が家は賑やかなの大歓迎だからね。しかも、この子の家よりも生活必需品等は揃っているから過ごしやすいだろうし。ただ広いだけの家じゃ退屈するわよ」
・・・さりげなく侮辱されているな、これ。間違っていないから反論できない。まぁ、俺自身は不自由していし、認めているから良いのだ。
「あとぉ、私のお家にも君らくらいの歳の子がいるから仲良くしてあげてねぇー」
「お家?」
「あぁー、私の家族は1家族だけじゃなくて3家族が固まってそれぞれの家に住んでて、それぞれの家同士の距離が目と鼻の先なの。私の家には2つ上のお兄ちゃんと1個下の妹しかいないんだけどね。従妹とかは君らくらいの歳もいるのよ」
「暁家御本家様の事でしたか。理解しました」
少し冷亜さんのペースに呑まれていそうなところがあるが、打ち解けているな。女性どう・・・、いや、
別にいいか。
「暁家本家と言うか、憧堀家の方なんだけどね」
「どおほりけ?」
刀里も二人の会話に参加してきた。てっきり女性同士の会話に入り難くしているのかと思ったが・・・。
「そう。お堀に憧れるで、憧堀家。私のお母さんのお家。名字の上ではお母さんが暁家に嫁いだ形なんだけど、実際はお父さんが嫁いできたの。だから私の家の他2家族は憧堀家の名字よ?」
「はぁ、では、冷亜様の御父上様が暁家なんですね?」
刀里が納得したように言う。だが、あまり俺的にまだ知ってほしくない情報に繋がっていきそうな雰囲気なのだ。
「まぁ、そうなるかなぁ~」
少し濁しながら冷亜さんがこちらに目線を送ってきた。俺は、ただ目線だけを左右に振って答える。
「何か語尾に違和感があるんですけど」
気付かれたか?
「ん~ほぼその通りなんだけど、ちょっと込み入った事情がお父さんにはあるのよ」
「あまり踏み入らない方がよさそうですね。刀里、やめておきましょう」
刃月が何かしらを察して止めに入る。刀里も刃月からの呼ばれ方が今までと違う事に少し不慣れ感を隠せずいるものの、それに一応従った。
しばらく話した後、刃月と刀里は眠りにつき、俺と冷亜さんは少し彼らから距離をとって話をする事にした。
「冷亜さん、自分は明後日の早朝に貫興を捕らえに行きます」
俺は、早々に自ら11年前の一件にけじめを付けに行くつもりだ。
「まぁ、予想は出来ていたけど、彼らはどうするの?」
意外にも止められはしなかった。
「俺がいない間、冷亜さんには彼らに身体の動かし方、立ち回り方を指導して頂きたいのです。彼らは、刀筋は良くても実戦経験が明らかに足りないし、実戦練習すらまともにやった事はないでしょう。彼らがやった事があるとすれば、精々『試合』っていう定められた型の範囲内だけのものでしょうから」
言うなれば古式剣道と言うやつだ。あれでは、同じ型同士の者としか渡り合えない。故に斥候としての器のある彼女が体術指南には適していると思ったのだ。
「最近私の扱い荒くない?」
何かひどい溜息をつかれた。普段の彼女からはかけ離れている。これが裏の顔ってや・・・、何でもないです。すごく睨まれている。
「何故そう思われるのです?」
俺としては一切その様な扱いをしているつもりは毛頭ない。ましてや長年に渡りお世話になっている方をぞんざいに扱うなど、自ら許さない事だ。
「この貫興って人を調べるまでの仕事を依頼されて、完全に調べきっていないのに貴女達の護衛任務をさせられ、それすらも終わっていないのに次の依頼の話とか、労働基準法に引っ掛るでしょっ!何?みんな揃って私を過労死させる気?斥候と指南の仕事は良いけど護衛任務位お兄ちゃんや氷保ちゃんでもいいじゃない。なのに、なのに私にやらせるなんて、どうかしてるわよっ!・・・・・・」
実に長くなりそうだ。訊かなければよかった。
「・・・・だいたい、私の特技は斥候でなくて、薙刀よ?斥候任務には邪魔な薙刀を使うのよ?なのに私は斥候もできちゃうのよ?どんな不運よ。秀才すぎるのもそんな良いものではないわね。あ、てことは悪いの自分自身か。ってそんな訳あるかーっ‼」
自問自答をする人見るのは久々な気がする。
と言うか、労働基準法っていつの時代の話ですか、冷亜さん。今現在、この星の表社会で働いているのはAIロボットだ。人間が働く環境などとうの昔に消えた。今や、玄奘殿の鍛冶仕事ですら仕事ではなく趣味として見られてしまうのだ。
「冷亜さん、一度落ち着いてください?彼らが起きてしまいます」
「そもそも、依頼主は貴女じゃない」
「冷亜さん、昨夜貴女が自分に言ったことを忘れたのですか?」
「うっ・・・」
あ、止まった。
「はい、そうでした。言いました。・・・けどっ、限度って言うものがぁっ、・・・」
情緒不安定か?もういいや。去ろう。明日、暁家に着いたら、玄奘殿に頼もう。
翌日、朝早々に移動を始め、昼前には暁家並びに憧堀家の領地に着くことができた。刃月と刀里は疲れ、暁家の居間で一休みをしている。
俺は玄奘殿の下に行き、明日の予定を伝えた。
「うん。刃辻君がそうすべきだと思うなら行きたいときに行けばいいさ。ただ、今回に限っては、少し話をしてから決めよう。なに、夜までには結論を出せるようにするさ。取り敢えず、刃辻君も休むといいよ。疲れが出ていない訳ではないのだからね」
玄奘殿は休息を俺に勧めてきた。
「ご配慮痛み入りますが、自分に休息は不要です。それほど疲れている訳ではありませんので。故に、今すぐでも構いません」
なるべく早くやつを仕留めたいという気持ちもあり、俺は少し焦っている。
「あー、そうかい。でもねぇ、少し、用意するものがあるから、今すぐにはできないのさ。だからー・・・あー、そうだ。刃辻君が連れてきた子らとうちの子らを会せてあげてよ。用意が出来次第そっちに顔出すから」
今のところ刃月も刀里もこちらの人たちには冷亜さんとその母であられる輝香様しかまだ会っていない。故の事だろう。
「はぁ、かしこまりました。では、一旦失礼します」
「うん。宜しく頼んだよ」
お読みくださりありがとうございます。
人物名
暁 玄奘 (あかつき げんぞう)
暁 氷保 (あかつき ひょうほ)
憧堀 (どうほり)