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祈りの巫女刀士  作者: 村ヶ端 忠孝
7/13

引き裂かれた家族

 いつまでも渋っていては仕方ない。とは思っているものの、話す順序が固まっていない。いつまでも黙っている俺に対し、影浦が口を開く。


「冷亜さん、出てきてもらっても結構ですよ?」

 その言葉が出てきたとき、俺と東雲は誰だ?と思った。影浦は竹筒に入った梅干しを食べながら目線を俺らの背後の茂みに向けている。誰がいるのかと振り返れば影浦と同じ年くらいの女性が出てきた。影浦と違って1目で女性とわかる。服装、声色、女性特有の諸々。影浦は顔だけが女性らしくあっても凛凛しい顔つきでもある故、謎だ。


「初めましてかな?暁冷亜よ。宜しくね?」


口調も女性らしいものだ。ん?


「暁?師匠、この人は」


「あぁ、俺の刀や槍を打っているのは冷亜さんの父上だ」


「そのような方が何をなさっているのですか?」


東雲が少し警戒をしている。


「護衛を依頼されたからこうしているのよ?」


冷亜は平然と東雲に近づき、肩に触れる。


「事実だ、東雲。身構えなくていい」


「わ、わかりました。暁様、失礼いたしました」


東雲は素直に頭を下げた。


「で、どうだ志野蔵、頭の中で纏まったか?」


影浦が再び俺に問い掛けてくる。少し時間ができた分整理はついた。


「はい。・・・昨日、夢で見たのはとある山の斜面に広がる集落の滅び行く様子でした」


俺は夢の内容を全て語った。


 志野蔵の夢の内容を聴き、俺は少し考える。明らかに自分の過去なのだ。

問題はこの2人もその場にいた事だ。正確に言えばこの2人は塔の少女を見てはいない・・・はずだ。志野蔵が見たのは集落の終焉だ。それは11年前に内乱が起きた際、俺は妹2人と弟を逃がした後の出来事だ。もし、彼が本当に俺の弟だとしたら、建物自体は見覚えがあっても、あんな炎の光景を見るはずがないのだ。


「志野蔵、その村の建物を以前に見覚えがあったりするのか?」


さぁ、どちらの答えか。これで確証が得られるはずだ。


「えーと・・・、昔、俺や家族が住んでいた集落に似た風景です」


決定だ。彼は俺の弟だ。だが、今は明かさないでおこう。


「なら、お前は、今は滅んだ古き戦民、『蒼戦の民』だな?」


更に確認をしておこう。


「蒼戦の民・・・何故その名を?」


「やはりそうか。まぁ、お前が言わずとも、調べたから訊く必要はないのだがな。さて東雲、お前もそうだな?」


今まで、放っておいたが、当然、彼女をその場に残したのには彼女も関係があるからだ。


「・・・」


東雲は何も言わず、目を閉じた。空気が重い。別段、シリアスな雰囲気を作りたかった訳ではないのだが・・・。


「だんまりか。では、順を追って話をしよう。まず、巳鉈殿から俺の下に2人を見てくれと頼まれた時に、特に断る理由はなく、引き受けたが、1つ気掛かりだった。・・・」


 理由は俺の技は完全な自己流になっていた。今までの人生、俺は山の中で人を知らずに生きていたからな。巳鉈殿に初めてお会いしたのは去年だ。まだ1年しか付き合いがない。刀を振り始めたのは俺が四歳の頃だ。俺は毎日欠かさず刀を振り続けた。山の獣と戦ったり、山賊に抗う事もあったさ。誰からも刀の振り方なんて教わった事がない。だから俺の刀術は独特なのだ。決まった型のない異端のものだ。そんな奴に刀を見て欲しいやつがいると言う刀士がどこにいるのだ。それでも引き受けてしまった。もう断る事は難しいとみて弟子になる人の事を調べる事にしたのだ。


「その際にそちらの暁家の詮索力を使わせて頂いた」


俺は冷亜さんの方を向いて話した。


「刀鍛冶だけでなく、斥候だったから容易いものよ?」


冷亜さんは見事なまでのドヤ顔をしている。


「でだ、調べさせてもらっている訳だが、2人、共に蒼戦の民なのに何故、軍に入っていたのか。理由は蒼戦の民は壊滅したからだ。あ、東雲の妹も蒼戦の民で、軍にいたな。そうであろう?」

東雲に問う。彼女はその首を小さく縦に動かすだけ。


「師匠、一ついいですか?」


志野蔵が口を挟む。


「何だ?」


「も、もしかして、俺と・・・その、東雲は・・・」


「あぁ、二人は姉弟だ。しかも双子の。今まで互いに知らなかったのか?」


東雲にも目をやるが、彼女も珍しく目が大きく開いている。


「何だ、知らずに同じ軍にいたのか。何か損な話だな。結論が出てしまったから後はこちらが調べた情報だけ確認してもらう。まず、2人とあともう1人の妹の三人は蒼戦の民、蒼西集落郡、渦牙羅領、渦牙羅村、郡長家、渦牙羅家の人だな?」


ここからは調べてもらったことではなく、自分の記憶と推測で二人に確認している。


「そこまで調べたんですか?ま、まぁあってはいますけど・・・」


俺の記憶だが黙っていよう。


「では、名の方だが、志野蔵弥沙里は渦牙羅刀里、東雲霧刃は渦牙羅刃月、末の妹、東雲零花は渦牙羅刀花で間違いないな?」


「はい」


「では、当主は誰になっている?調べたところでは、お前たちの両親が当主とあったが、2人、共に11年前に故人となっている。その後当主引き継ぎを行っておらず、当主不在になっていた」


志野蔵に目をやるが知らないと言うかのように首を振った。


「あ、あの」


今まで黙っていた東雲が口を開く。


「何か?」


「あ、姉上がいるはずです。もう1人の弟は既に死んでいますが、姉上については何も・・・」


・・・・・・。記憶に残っていたか。今は打ち明けたくない。貫興と遠くないうちに戦う事になるからだ。そこに彼女らを巻き込みたくはない。


「お前たちと同じで、行方不明扱いになっている。しかし、お前たちは見つかった。医療機関にDNAでも出せば渦牙羅家の者と認められるだろう。だが、長女、御刃音は未だ行方不明。故に、現段階で渦牙羅家の最高権力所持者は双子の姉にして次女、刃月。つまり東雲になる」


 嘘は言っていない。実際、あの内乱後、俺は、山奥で、渦牙羅御刃音の存在を自ら隠し、世間的には行方不明者として生きていた。故に今も行方不明者ままとして生きている。

 そもそも、俺が渦牙羅の人間と言う事を知っているのは暁家の人と、貫興くらいだろう。巳鉈殿には明かしていない。暁家は渦牙羅村にて鍛冶職だった阿嘉儀家の分家である。暁家当主、暁玄奘に会ったのは内乱から一年後の事だ。当時使っていた刀の切れ味が悪くなったため、途方に暮れていた時に阿嘉儀家の分家が集落以外の土地にいる事を思い出し、初めて暁家に世話になったのだ。


「しかし、姉上の死が確認されている訳ではないのですよね?」


「あぁ、死亡は確認されていない」


「ならそのまま当主不在にします」


東雲はそう言い張った。まぁ、中学生の歳で、主として家をどうこうしろと言われるのも無理があるか。


「まぁ、渦牙羅家の事だし、俺が決めることではないな。君達で決めるといい」


今は、今はこれで良いんだ。


お読みくださりありがとうございます。


人物名及び読み方

  東雲 霧刃⇒渦牙羅 刃月 (かがら はつき)

志野蔵 弥沙里⇒渦牙羅 刀里 (かがら とうり)

東雲 零花 (しののめ れいか)⇒渦牙羅 刀花 (かがら とうか)

阿嘉儀 (あかぎ)


その他読み方

蒼戦そうせんの民

蒼西そうさい集落郡

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