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祈りの巫女刀士  作者: 村ヶ端 忠孝
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過去と決意、そして暗部

 何のために特刀軍に入ったのか。強くあるためだ。精神的にも刀術でも。何のために強くなるのか。負けたくないから。何に負けたくないのか。過去の失敗をいつまでも悔やむ自分自身に。過去の失敗とは何か。人を殺して楽しむ狂人から弟を守れなかったことだ。強くなってどうするのか。自分の村を滅ぼされたことの復讐をするのか。否。

 その際に死んだと思われる姉や弟の仇を討つのか。否、姉と妹を失わないようにする。あの時1番上の姉に助けられ、何もできずにもう2番目の双子の姉と妹と逃げる事しか出来なかった事の償いがしたいのかもしれない。しかも、双子の姉と妹とは逃げる途中ではぐれそれっきり。また、弟がいたが弟は俺らが姉に助けられ、逃がされるより前に殺されている、俺の目の前で。残った姉と妹の所在も今は分からない。けど生きているはずだと思い、再開出来たら男の俺が力の限り2人を守らなくてはならないはずだ。

 そのためにどう強くなるのか。強くなりたいから軍に入った。軍で剣術を学んだ。それで満足していいのか。確かに強くなった。強くなって浮かれた。それで負けた。今日負けた、2人対1人で。相方より先に負けた。しかも秒で負けた。

 この人の弟子になれば強くなるのか。なれるかもしれない。しかしまた浮かれるかもしれない。じゃあ浮かれないようにするにはどうすればいい。考えろ。考えろ。考えて答えを導き出せ。ひたすら考えろ。

 考えて答えが出なければどうなる。どうにもならないのかもしれないが、それでは満足できない。何に満足するのか。解らない。解らない。

 誰かに訊いてもいいのか。この人なら訊いても良いのか。いや、自分の事だから他の誰かが知っているはずがない。でもヒントをもらえるかもしれない。手助けをしてもらえるかもしれない。この人を頼っても良いのだろうか。この人を信じてもいいのだろうか。この人は確かに強かった。なら・・・


 なら俺は。俺は顔を上げ、影浦と言う今日知ったばかりの人の目をしっかりと見た。


「俺は、俺はあんたの、あなたの弟子になれば強くなれますか?」


大口を叩いていたとか、実際は負けた悔しさと、浮かれていたという事実に今更気付いた事の悔しさで泣きそうなほどに心がボロボロだったと思う。もしかしたら本当に泣いていたかもしれない。それでも俺は、目の前の人が本当に強くしてくれるならと思い、訊いた。そしたら、


「俺の弟子になって強くなれるかは知らない。お前の言う強いがいかなるものかも知らない。お前次第だ。しかし強くなるための手伝いはしてやる。」


と言われた。俺が望んだ言葉はこれだったのか。もしかしたら臨んだ以上の言葉かもしれない。はたまた逆か。なら、俺が言うべき言葉は一つだけ。


「俺を、姉や妹を守れるような強い剣士にしてください」


そう叫んだ。すると、


「お前の過去に何があったかは知らないし訊かないがお前が俺の弟子になることを認めよう」


そう言われた。



 「ぐっあぁぁぁぁーっ」


大きな悲鳴が荒廃した街に響き渡る。とても人が暮らせえるような環境ではない場所だ。陽は沈み、辺りはもう暗い。そんな中一ヶ所だけ灯りの燈る建物があった。


「やはりただの狙撃手では彼には敵いませんか」


その一室で一人の男が呟いた。場所に合わない引き締まったスーツに、モノクル。どこか怪しげな紳士と言った格好だ。その男の前には五人の男女が縄で縛られ転がって、否、床に這い尽くし悶えていた。彼らは皆同様に何かがかすった傷がいくつもあり、まだ血が出ていた。


「話が違うだろっ、ただの剣士だって言ったじゃないかっ」


五人の内の一人が叫んだ。その瞬間、彼の足から血が噴き出た。新しい傷だ。


「次はどこを撃ちましょうかねぇ」


「あぁぁぁぁっ」


撃たれた男がもだえ苦しむ。


「先払いの仕事に失敗しておいて口答えとは。ただの剣士?いえいえ剣士を捕まえてきてくださいと言ったのですよ。勝手な解釈をしないでください」


紳士風の男は再び銃を構える。


「死ぬ前に教えておきますね。彼はとある古の民の末裔。我らにとって忘れ難い憎き相手なのですよ」


「それに巻き込んだってのかぁっ。ふざけるなっ」


「そうよっ、部族間の争いに他人を巻き込むんじゃないわよっ」


縛られている者の内の女一人も便乗し言い放った。


「のっかってきたのは貴方たちですよ?使えなければ始末するのみです」


そう言って紳士風の男は五人を銃殺した。


「己の無力さを悔やみ、恨みなさい」



 昼間弟子を受け持ったのは良いものの、俺は他人に何かを詳しく教えるという行為をしたことがない。今一度自分の強化をすると思って自分を見直したほうが良さそうだ。

時刻は既に日付を変更していた。弟子になった3人、志野蔵と東雲は、安達太良山の中腹にある影浦の屋敷に住み込むこととなった。彼らは剣術しか学んでおらず、身体の動かし方が全くと言っていいほど無知だ。それでは剣道の様にあまり立ち位置を変えない戦い方とそう変わらない。どう説明すればよいかを影浦は悩んでいた。


「俺の剣術は独学だし、絶対に正しいとは言えない。幼少期に村がなくなって、教えてくれる人もいなかったからなぁ~」


影浦が住んでいた集落は彼が11年前に内乱により滅んだ。生き残りは彼が知るところ自分1人。彼は人間の進化の過程のような人生を送ってきた。1年前、彼が18歳の時にようやく現代人のような生活になった。それは巳鉈住職のおかげとも言える。彼が剣、刀を振るうのは彼の集落の彼が住んでいた村は昔から男は剣士しかおらずその血筋によるものである。また、彼の家は代々、村長であり、集落全体の長であった事の影響も大きい。


「巳鉈殿が俺に頼んできた理由は何だ?俺の剣術は独特と言われたことがあるが」


俺の剣術は独学であるがためにオリジナルのオリジナルと言えるほどの独特さを持つ。それを良しとした上で俺に頼んできた。

 因みに俺は剣の勝負で負けたことはない。相手が剣以外の武器だったとしても負けたことはない。

 そもそも、この国にそんなに多くの戦人がいないということもある。なら何故戦うか、何と戦うのか。それは定まっていない。自分を何かしらから自分で守るためと言うのはあるだろう。そもそも、自分から戦いを仕掛けた事はない。昼間の手合わせはあくまで戦いとしていない。それ以外何があるか。それは復讐するためかもしれない。村を滅ぼし、弟妹を殺したと思われる連中に制裁を。それが目的かもしれない。しかし、内乱を起こした人物が今どこにいるか知らないため無闇に切りに行ったりはしない。

 何にしろ、他に気になったこともある。志野蔵の態度の変わり様についてだ。彼に俺の弟子になるか否かを尋ねる前は俺に対し敵対心があるように見えた。しかし、俺に頼んできたときの目は何か悲しいことがあり、それを思い出したとしか思えない。確証はないがあの代わり様は少し異常だ。尋ねないと言ったが少し気がかりだ。


「撤回して尋ねてみるのも気が引ける・・・」


などと考えているうちに影浦は寝ていた。既に午前1時を回ったころだ。


お読みいただきありがとうございます。


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