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祈りの巫女刀士  作者: 村ヶ端 忠孝
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試合と愚痴

 自分にも当てはまることだが。いくら格下に見えても切り札を持っているかもしれない。常に警戒すべきなのだ。


「では2人掛かりでお相手します」


そう言って東雲が構えた。それを見てしぶしぶ志野蔵も構える。


「礼を言う。では、始めよう。暁刀壱型『火煙』、抜刀」


俺の持つ刀、火煙は名の通り禍々しく燃える火と立ち昇る煙をイメージさせる剣だ。


「行くぞっ・・・。燃えろ、火煙」


俺は叫び、走り出す。火煙の刀身を黒煙が渦巻く。


「刀から煙だとっ⁉ただの刀じゃねぇなぁっ」


「それを言うならお前の刀もだろう?」


最初に志野蔵が切りかかってきた。刃と刃がぶつかったときに確信した、志野蔵の刀身は少し撓ることを。


「どこが普通じゃないと?」


「少し撓るだろ、お前の刀」


「さぁ、どうだろうな」


言わないつもりか。まぁ、確信したから良いのだが。


「同時でと言われたのに忘れられては困りますよ」


東雲が左から切りかかってきた。無駄がなく、キレのある一振りだ。俺は後ろに身体を退き、かわす。しかし、


「1人ずつの方がよかったんじゃねえかっ」

志野蔵の追撃があった。2本の刃が牙で噛むかのように振り下ろされる。それを前進してかわし、左腕で志野蔵の腹部に一撃を入れる。


「素直すぎる動きに加え隙だらけだ。口だけで吠えるな、刀だったら死んでるところだ」


空振りに加え、


「えぇぇいっ」


不意打ちされた少年に告げるとまたも東雲が切りかかってきた。それを刀で受け止める。火煙と火川がぶつかり激しい熱風が吹いた。


「君の刀もそれなりに何かありそうだな」


「女は表に出さない女狐ですから」


「それ自分で言わないし、意味が違うだろ」


「失言でした」


冗談を言っていそうだが決して集中を欠いているわけではなさそうだ。

東雲は連続で切りかかる。なかなかの速さだ。しかし、連撃にも隙はある。それは最初の数撃を受け止められた後、突然違う対処をされた時に反応が遅れがちになることだ。連撃の速さが速いほどその傾向がみられる。膝より下に剣先は来ない。

 だからそこに付け入る。


「はぁっ」

俺は6撃ほど刀で受けた後すぐに体制を低くし、間合いを詰めた。

そして東雲の足を腕で彼女の後方に勢いのまま押した。東雲は思い通りにバランスを崩した、地面に手をつく程に。勝負ありだ。彼女の後頭部を軽くたたく。


「さすがですねぇ、影浦殿。こうもあっさり決着を付けるとは。」


住職が出てきた。自身が怪しさの塊であるかのような笑い顔だ。


「どうですぅ、彼らは?」


「武器の性能に少し頼りすぎです。武器は基より身についた技量がなくては飾りになる」


「2人は手合わせした感想はありますかな?」


住職は志野蔵と東雲に目を向けた。志野蔵が俺を睨んでいるのは気のせいだろうか。


「それよりこの方は一体どなた様なのですか?」


東雲が聞いた。


「自己紹介はしたはずなのだが・・・」


「いえ、そうではなくてどのような間柄なのですか?」


「あぁ、そう言うことか」


いきなり現れて手合わせを願われて負かされてでは確かに疑問に思うかもしれない。


「影浦殿とは友人ではないにしろそれなりの付き合いがあるのです」


「ああ。住職殿、いや、巳鉈唯我殿の知人と言ったところだ」


一応立ち位置を伝えた。


「ここへ来た理由を聞いても?」


「君らの師になってほしいと巳鉈殿から頼まれたからだ。腕試しに手合わせしたってこと」


「師にってあんたが俺らの師匠になるってことかっ⁉」


今まで黙っていた志野蔵がいきなり声を上げた。そんなに嫌なのか。


「そうだが」


「巳鉈一陽殿、嫌です。俺はこの人の弟子になりたくありません」


随分嫌われたものだ。それともいきなり来て師匠になるって言ったからか。


「見ず知らずの人に剣を教わるなんて絶対に嫌です。だいたい、軍の方はどうなるのです?」


後者だったらしい。『軍』、彼らは特殊刀術軍、略して特刀軍に属している。巳鉈を含めてだ。彼らはこの堕落しきった社会と絶縁したい人の志願者で構成された軍だ。


「しかし私の知る限り、彼が剣術、刀術では一番強いと思うのだがね」


「確かに俺らは負けたけど、東雲三星殿の時は刀での攻撃以外を用いていました」


「ノーカンだと言いたいのか?」


「そうだ。あんたは決闘に於いて不正をした」


こいつは馬鹿だと思ってしまった。


「決闘だと?誰もそのようなことは言ってない。手合わせと言ったのだ」


「何が違うって言うんだ」


おいおい、軍に勉学の時間はないのか。


「今の勝負に於いてルールはありません。明確にルールを設定しましたか?」


当の本人、東雲が志野蔵に問う。


「して、ない」


「一応補足しておくと、手合わせはどちらかと言うと試合をすることだ。死合とは違う」


「勝負と蹴等の違いはルールがあるかないかですよ、志野蔵三陽」


「うっ、ぐっ・・・」


勉強不出来と見た。誰も悪いと言ってないぞ。責めても、


「もう少しあなたは学んでください。志野蔵三陽」


ないことなんてなかった。


「あとさっきも言ったが、身に着いた技量がなければ刀なんてお飾りだ。その技量は剣術や刀術だけでなく体術も必要だ。軍で習わなかったか?」


2人、いや3人が首を振った。

「巳鉈殿は自分で習得したのですか?」


巳鉈はちゃんと身についていたはずだ。


「私は家が格闘家なだけですよ。だから扱えるだけです。知りませんでしたけど」


「そうでしたか。では今後は軍でも体術を取り入れてください」


「そうしますかな」


巳鉈はメモをしていた。


「で、それでも俺の弟子になるのは嫌か?」


話を戻した。


「私は是非弟子にしてもらいたいです。今の軍にはこれ以上この身を精進させるものはありませんから」


やや胸を張って言う東雲。


「しかしまだ三星なのだろう?」


聞いたところだと、彼らの軍の階級は男性が陽、女性が星の級を持ち、そこに数字で階級分けをされるらしい。彼らは二人とも三の級。その上に二陽(星)、一陽(星)、極陽(星)の三段階がある。故にまだ伸び得ると思ったのだが。


「二星以上はこの年齢で昇進することができないのです」


「年齢?何歳以上が昇進可能で、且つ2人の年齢は?」


「18歳以上の方が昇進可能で私達は本年14になります」


なるほど、初耳だ。


「志野蔵はどうする?」


志野蔵は俯いた。この、どこか透かした感じのする人に対する少なからずの苦手意識と、それに負けた悔しさでなかなか受け入れたくないと思っていた。


お読みいただきありがとうございます。

登場人物の名前

巳鉈 唯我 (みなた ゆいが)

刀の名前

火煙ひけむり

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