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祈りの巫女刀士  作者: 村ヶ端 忠孝
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見定め

 人にはそれぞれの好きと嫌いなことがある。俺の場合、銃と銃を扱う人が嫌いだ。あれは卑怯だと思うからだ。隠れながら攻撃するのが特に頭にくる。敵と戦うときは正面から向き合え、臆病者。

 などと考えながら実際狙撃手数人と剣で戦っているのだが


「他人の領域に土足で入るな、礼儀知らずっ」


「領域だぁ?もうじき死ぬくせして粋がるなぁっ、時代遅れの棒振り」


「他人の未来を勝手に決めるな。そして個人の見解で物事を決めつけるな」


 だいたい、この国はもともと武士、侍の国だろ。昔ながらのものを大切にして何が悪い。時代遅れと言うならせめて勝ってから言え。俺の方が優勢だし。

 ただ場所が悪い。木が入り組んだ森の中、ぬかるんだ地面。動きにくいし、刀を振りづらい。極力自然を壊したくない。

 と言ってもそこまで悪影響にはなっていない。普段からこのような場所に住んでいるから。それでも油断をしてはいけない。相手が何をするかはわからない。


「時間が惜しい。故に五分で決着をつける。覚悟しろよ、賊っ‼」



 賑わう街。堺なく、昼夜問わず騒がしい。人は遊びに耽り、仕事もせず、ろくに稼ごうともしない。「稼ぎのない人々の金の出どころは?」と問われると「出どころなどない」、と言うより「出回らない」と返される。よく遊べるなと思うかもしれないが、理由はしっかりとある。

 それはこの国に限ったことではない。世界共通理由だ。その理由とは機械が国を動かしているからと言うことである。機械が動かしているというのも工業、農業、家事、接客業、その他端から端までの仕事と言う仕事を機械が行っている。

 故に人が仕事をする必要がなくなり、機械はお金を使わないことから払う必要もなく、更におかねが存在する必要すらなくなりお金と言う概念がなくなった。だから人は四六時中遊べるというわけだ。 2746年、この世界はそんな堕落した人々であふれている。人は楽をしようと機械を作り過ぎたのだ。

 そんなこの世界でも万人が同じように遊んでいるわけではない。都心から離れた山里。そこから延びる山道を1人の少年と1人の少女が上っていた。黒ベースの制服を着ている。特色は特になく、どこにでもありがちな西洋風の制服。少年は特に飾らず、少女も藍色の眼鏡と若干色の抜け、濃い茶色の髪だけだ。一見高校生に見えなくもないが、まだ中学生だろう。

 二人の行く先には小さなお寺があった。2人が寺門にたどり着くも、門は閉まっていた。


「ここのはずだよなぁ」


少年は口を開き傍らの少女に問う。


「伝えられた通りなら間違いないはずです」


 『柊彗寺』、門の戸の上に書かれていた。試しにと少年は戸を叩こうと手を伸ばした。するとその時、どこから音なく伸ばされた腕をめがけて何かが飛んできた。矢だ。それを少年が間一髪で腕を引き避け、


「罠とみるか試されているとみるか」


と呟くと、


『名乗りなさい』


今度は声がした。礼儀を欠いたから狙われたのかと思いつつ、


「志野蔵|弥沙里、男位、三陽であります」


一応答えた。志野蔵と答えた少年は少女にも名乗るよう促し、


「東雲霧刃、女位、三星です」


少女も答えた。すると


『志野蔵三陽、東雲三星。二名承認。開門します』


と聞こえてきた。


「間違えじゃなかったみたいだな」


「無礼者に対する矢、と言うわけだったのですね」


「無礼な行いをした覚えはないんだが」


とやり取りしている間に門が開き、


『入りなさい』


三度声がした。

 指示に従って門をくぐると突然5人の刀を持った僧侶が襲い掛かかる。


「矢の次は対人戦だとっ⁈」


「試されているとしか思えませんね」


「こっち2人だぞっ」


「つべこべ言わずに対処してください、志野蔵三陽」


やるしかないと思い、2人は戦闘態勢に。人数差もあり、攻撃をかわすのがやや難しい状況だった。


「それなりの覚悟でやらないとか。なら・・・」


2人は互いに視線を交わし頷き合うと、腰に携えた刀を手にした。


「『葉双翠』、抜刀っ」


志野蔵はそう叫びながら自身が持つ光沢のある翠色の刀を鞘から抜いた。そしてその刀は割れるかのようにして2本に分かれた。それを志野蔵は一本ずつ両手に持ち、襲い掛かる輩と対峙する。1つの鞘に短い2本の刀。それがこの葉双翠の特徴である。


「『火川』、抜刀」


そう叫んだ東雲の手には美しく流れる火のような作りの紅い太刀が握られていた。

 


 2人の少年少女が僧侶たちと戦う様子を眺める2人の影が柊彗寺の母屋にあった。


「あの2人です、影浦殿」


「彼らですか。・・・少年の短刀はユニークですね」


「2本が1つの鞘に納められていますからね」


そう、確かに面白い。普通ならばと言う言葉を使うなら2つの剣身、刀身と対となるのは1つの鞘だ。。しかし、それだけではない。


「それもあるのですが、見間違いでなければあの短刀、少し撓ってますよね」


「・・・。さぁ、どうでしょうねぇ」


「直接手合わせしても?」


「構いませんよ、影浦殿に今後をお任せする者達なので」



何か含みのある笑みを浮かべる住職だ。しかし礼は言わなくては礼儀がならない。


「感謝します」


そう言って外に出た。



 「心のない攻撃だが、手を抜いていないか、この僧侶たち」


僧侶たちと戦いながら気付いた事を志野蔵は確認するように呟いた。すると、


「正解だ、怪我をされては困るからな」


 そこにいたのは見た目では性別が判らないほどに凛凛しくあり、美形な人だ。髪は肩甲骨下くらいまである。見た目は女性に見て取れる。口調は男みたいだが声音がどこか優しく、男のものとは思えない。その声で僧侶らは身を母屋の方へ下げた。


「っ、誰だ、気配なく近づくとは」


「気配がないのは間違えだ。正確には気配を薄くしたんだ。ごく微量に放っていたぞ」


その人は志野蔵の求める答えとは別のことに答えた。


「住職ではどこですか」


東雲も少し気を立てる。


「住職なら母屋だ、挨拶は済ませてある。俺の名前は影浦刃辻だ。手合わせを願いたい」


珍しい名前だ。1人称は男のものだが、見た目と声音もあり、余計判らなくなってきた。


「手合わせですか。因みにどちらとですか?」


東雲が更に問う。


「2人同時にで頼む」


「同時にとは。舐められては困る」


「志野蔵と言ったなぁ。余裕ぶると隙が生まれるぞ」


 こうして二人の戦闘は第2ラウンドへ移行した。

始めまして。お読みいただきありがとうございます。

登場人物の名前の読み方・姓と名の境

志野蔵しのくら 弥沙里やさり

東雲  霧刃 (しののめ きりは)

影浦  刃辻 (かげうら はつじ)


刀の読み方

葉双彗  (はそうすい)

火川   (ひせん)


寺の名前

柊彗寺  (しゅうすいじ)


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