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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

牧原さんの新事実

閲覧ありがとうございます。

 道に迷いながらも、なんとか体育館に辿り着いた私。


「……やっぱり、私立の学校は広いなぁ…………」




「おわっとっと! 悪い悪い、ちょっとこっちまでボールが……って、見ない顔だな。新入生?」


 ……あ、向こうから声をかけてもらえた…………。


「は、はい! 牧原まきはらあずりと言います! バスケットボール部の見学に来ました!」

「おーそっかそっか。アタシは、高等部三年の巣原椎名すばらしいな。よろしくな、マッキー」

「あっ……」

「ん?」

「いえ……小学校でもそう呼ばれていたので……。『まきはら』って、やっぱり『マッキー』ってあだ名になりやすいのかなって…………」

「……いや、苗字もそうだけど、ブレザーの胸ポケットにそんな大量にペン差し込んでたらそうも呼ばれるだろ」

「え? それってどういう……」

「あーいや、そろそろ権利関係でアウトになりそうだからこれ以上言うのはやめるわ」

「そ、そうですか…………」

「……そんじゃ、うちの顧問でも呼ぶか。おーい『筋肉バカ』ー!」


 巣原すばら先輩がそう叫ぶと、「なにー?」という気の抜けた声とは裏腹にものすごい勢いで女の人がこちらへ走ってきた。


「げっほげほ!」

「いやむせてんじゃねーか。あとナチュラルに反応してんじゃねーよ」

「え、だめなの?」

「ダメだよ。……で、彼女、バスケ部の見学に来たんだとさ」

「おー! 新入部員だ! 私、バスケ部顧問の緒久間明梨おひさまあかり!」

「は、はい! よろしくお願いします! 中等部一年、牧原まきはらあずりと言います!」

「まあ気軽に『アッカリーン』とでも呼んでやんな。体が透明になるから」

「それどこのお団子娘!? ……まあ、とりあえずよろしくね、マッキーちゃん!」

「え?」

「やっぱそうなるわな」



 ◆



「ということで、ドゥルルル……ジャン! 一年生の…………あれ、なんだっけ。……そう! マッキーちゃんが、体験入部してくれることになったよー! ぱちぱちー!」

「ま、牧原まきはらあずりです! ふつつかものですが、野太く、且つ繊細に頑張っていきます!」

「それじゃあ、マッキーちゃんも含めて二人組もしくは三人組を作ってパス練習やっていこー! えいえいおー!」


 ジャージに着替えて自己紹介をしてから、バスケ部の練習に参加させてもらえることになりました。


「あずりさん……で合ってたっけ。私、中等部二年の一条誉いちじょうほまれ、よろしくね。私とペア組もっか」

「はい! お願いします! 一条いちじょう先輩!」


 一条いちじょう先輩と一緒に、早速パス練を始めます。


「お、なかなか筋がいいね。経験者?」

「はい。小学二年生の頃からペン習字を習っていました」

「………………ん?」

「……どうしたんですか?」

「……バスケの経験の話をしているんだけど」

「はい。ですからペン習字をと……」

「……ごめん、私の聞き方が悪かったのかな? バスケをしたことはある?」

「はい、あります。ペン習字を習っていたので、紙にボールの軌道を細かく書いてイメージトレーニングをしてました」

「……努力してくれているところすごく悪いんだけど、それ経験って言わないんだよね」

「…………え? そ、そうだったんですか……」

「……ごめんね。なんか空気悪くしちゃって」

「いえ、こちらこそすみません………………」


 ど、どうしよう。

 バスケに憧れて、ペン習字を始めたのに……。


 ううん。

「急がば回れ」。

 この言葉を座右の銘にして、ペンと紙を使って今までバスケのイメージを作ってきた。


 無駄になんてなってないはず。


 そ、それより、なにか話題を変えて雰囲気を元に戻さないと……。先輩も困っているみたいだし……。


 なにか、なにか話題は…………。


「あっ!」

「ど、どうしたの、あずりさん」

「あ、あの人達、すごいですね! えーと、一人は巣原すばら先輩で、もう一人は……」

「ん? ……ああ。あの二人。いつも練習のときは組んでいるんだよね。巣原すばら先輩と倉田くらた先輩。倉田くらた先輩がどうも不器用? らしくて、毎回大暴投。私も他の先輩から聞いた話なんだけど、倉田くらた先輩はずっと補欠でレギュラー入りなし。巣原すばら先輩は、そんな倉田くらた先輩の相手をしているの。物好きというか、なんというか。まあもしかしたら押しつけられてるのかもしれないけど」

「他の先輩方は、倉田くらた先輩とは組まないんですか?」

「無理無理。今はかなりマシになったけど、前はすぐにヒステリック起こすような人で、巣原すばら先輩以外は手がつけられないの」

「変わった人なんですね」

「あずりさんも負けず劣ら…………うーん、なんでもない」




「あ」

「おーいまたかよー」


 そんな話をしていると、倉田くらた先輩の放ったボールが私の方へ飛んできた。当たるような軌道でもなかったから、私は動かずにただ見ていた。


「悪い悪い。またマッキーの方に飛んできちった」

「あの……巣原すばら先輩、ちょっといいですか?」

「ん?」

「今、一条いちじょう先輩から聞いたんですけど、倉田くらた先輩ってその……バスケが……上手ではないんですよね?」

「あー。上手いか下手で言ったら、ド下手くそだな。まあ前よりマシになったけど。……それが?」

「下手ならやるなっていう極端な話じゃないんですけど、倉田くらた先輩ってどうしてバスケ部に入っているんですか? バスケが好き……とかですか?」

「かわいい顔してなかなか排他的なこと言うねぇ。あいつには姉がいるんだけど…………あー、あそこの体育館の窓枠修理してる女なんだけどさ」

「お姉さんここで働いているんですか!?」

「ああ。でも来年度には異動になるとかなんとか。…………で、その姉がここのOGで、当時バスケ部と生徒会を兼部してたんだよ。そんで、『お姉ちゃんに負けるのは悔しい』ってバスケ部に入ったんだよ。実力は……ご覧の通りだけど」

「そ、そうだったんですか……」


 入部にも、いろいろな理由があるんだなぁ……。


 今日は、様々な事実を知った一日でした。


 私のバスケットボール生活は、ここから始まります。


 たぶん。

 おそらく。

 きっと。

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