狂った彼女
プロローグ
屍体愛好者屍体愛好者―――――
それは、死体に性的興奮を覚える、異常性欲を感じる人間のこと。最もタブーとされる行為のうちのひとつでもある。
彼女、柊瑠那柊瑠那は今年で高校三年生。十八歳である。ルックスもそれほどよく、そこそこ男子にも人気はあった。
高校三年生―――――それは、人生でともに歩んできた仲間たちと青春をおくることができる、最後の年であろう。だが、そんな彼女には高校生活で青春なんてものは存在しなかった。青春どころか、ともに青春をおくる仲間仲間さえも存在しなかったのである。それはなぜか。いじめられていたから?ただ単純に友達がいなかっただけ?否。彼女は屍体愛好者だからである。
クラスメイトはそのことを知らない。ただ、彼女が少しおかしいおかしいということだけはわかっていた。彼女は昼休みになると、すぐに教室を飛び出し、校庭にでる。または、スマホを取り出し、何かの画像(?)を見てはうれしそうに見つめている。それでもルックスが良いため、男子には「不思議ちゃん」とみられ、そこも好感度のプラス面になっていたという。
以前、彼女のことを気にかけていたクラスメイトの男子が後をつけていたことがあった。昼休み、彼女が校庭にでるところを見かけ、後をついて行った男子はそれそれをみて驚愕した。鳥の死骸を見て自慰行為に励んでいる彼女を見てしまった。どこから死骸を集めてきたのか、三~四体はある。
それから、すっかり彼女のことをおかしい、キ●ガイだとおびえてしまった男子は彼女に寄り付かなくなってしまった。それに加え、彼は自分が見たままのことを仲の良い友達に話してしまった。それはどんどん広がり、彼女を孤立にさせるまで広がっていった。まあ、当の本人はそのことについて何も気にかけてはいないようだが。 陰でこそこそ噂はされるものの、幸い、ひどいいじめには発展しなかった。
それにしても、何故、彼女は屍体愛好者になってしまったのか。それは、中学二年生の出来事だった。 彼女は両親と三人で暮らしていた。とてもきれいで大きな家に住み、裕福であった。彼女は家族のことをとても愛していた。いつまでも一緒にいたいと思うほど、当時の彼女は幸せだった。だが、その幸せはいつまでも続くことはなかった。とある日の休日、彼女は友達と出かけていた。そして、家に帰ると、そこには血だらけで倒れている両親と、包丁を持った中年の男がいた。こっちを見ている。嫌だ、なんで??助けて!お父さん!お母さん!目の前で最愛の家族が無様に殺されている。激しい嫌悪感、吐き気、頭痛、絶望に襲われ、それ以来の記憶はない。気が付いた時には両親の死体ともう一体の死体が転がっていた。そして、自分の手には誰の血かわからないが血がべっとりとついた包丁が握られていた。さらに、身にまとっていた美しい真っ白のワンピースは鮮血で染まり、真っ白のはずが真っ赤になっていた。彼女は無様に倒れている両親を憐み、悲しんだ。ついさっきまでの幸せはどこに行ったのか。
「お父さん、お母さん、ただいま。今日ね、友達と買い物に行ったの。お土産に、ケーキを買ってきたんだ。すごく、おいしいの。みんなで食べよう??」
いくら話しかけても返事はかえって来ない。両親の死体は、この世のものとは思えないほど、美しかった。唇はかすかに赤く、顔色もただ単に生きていて、眠っているだけのようで、話しかければ目を覚ましてくれるのではないかと言うほど整っていた。
もう、この時点で彼女は狂っていたのかもしれない。おそらく、いま救急車を呼んでももう助からないだろう。もう、死んでいる。勿論、悲しい気持ちはある。だが、彼女は死体の美しさに魅入られてしまった。なんて美しいものなのだろうか。どんな宝石よりもその死体は美しく感じられ、まだ眺めていたい、もっと触れてみたい、ずっとそこに置いておきたいと思ってしまった。彼女は大変、ショックを受けてしまった。両親が死んだからではない。悲しむ気持ちよりも、その死体で快楽を得ることの快感のほうが勝ってしまったからである。やがて警察が訪れ、事情聴取を受けた。後日、裁判もした。結果は正当防衛と言うことで無罪だった。加害者の男性には感謝している。だってあんなに美しいものをみせてくれたから――――――。
こうして、屍体愛好者の柊瑠那が誕生するのであった。