008.盗賊団制圧戦
「い、一体何が起きている!」
「分かりません! 突如護り岩が崩落し、怪我人多数! 死者は未だ確認されていませんが、宝物庫に甚大な影響が――っかは!?」
「――ふっ、峰打ちだ……」
粉塵と混乱の最中、的確に敵を倒していくシルヴィア。
報告に走って行く団員を次々となぎ倒していくその姿は、まさしく修羅のようだった。
高上級スキル『剣業』。
感覚、そして精密性を極めれば極めるほどその人物の急所部位を把握出来るようになる。
『剣業』スキルを得てから145年。そして『剣神顕現』カルラ・イーグルに師事して10年。155年の歳月を生きたエルフ族シルヴィアは、迷い無く自身の剣を、自身のスキルを信じて突き進んだ。
「ヴィクトル。あんたはさっさとお姫様ん所行ってきな。ここはアタシが受け持った!」
「――助かるよ、ありがとう!」
粉塵を前に、どこに敵がいるかを全て把握しているかのように立ち振る舞い剣戟を繰り広げるシルヴィアを背に、ヴィクトルは、ルーシーの声がした方角へと一直線に向かっていく。
「て、敵襲、敵襲! 鼠が2匹潜んでいる! 動ける奴は武器を取って応戦しろ! 小娘の方に手練れを寄せろ! はやくせんと全滅するぞッ!」
粉塵が収まり始めて姿が見え始めてきた時にはシルヴィアとヴィクトルの間にはかなりの距離があった。
シルヴィアは自身を取り囲む幾人もの団員にも全く物怖じすること無く華麗に避け、峰打ちで沈めて行っていた。
「ぼくも、急がなきゃ――!」
拳をぐっと握りしめたヴィクトル。
ルーシーはこの集落の最も奥に存在する建屋の前に設置された椅子に手足を縛られている。
幸いにも団長と思しき大男は突如聞こえてくる団員の断末魔と、崩落によって潰された宝物庫のことで頭がルーシーの方にまで回っていないらしい。
「ななな、なんなんですか、なんですかこの騒ぎ!?」
状況を理解してないのはルーシーだ。
ルーシーが縛られている場所まではおおよそ50m。ヴィクトルは、慌てふためいて誰かが落としてしまったであろう木刀を手に取った。
「こっちだ! もう一匹いるぞ! 狙いは人質――」
「いかせるかよッ!」
こちらへ向かってこようとする団員さえも瞬時に峰打ちで地に伏せるシルヴィア。
だが、討ち漏らした敵は否応なしにヴィクトルに向けて駆けつける。
その数、3人。
「あの岩崩落させたのはてめぇらだな! 絶対生きて返さん!」
「――ひっ!」
テンプレじみた言葉と共に真剣を振りかぶる1人に対し、ヴィクトルは咄嗟に剣を横に薙いだ。
「ぐ……ほっ……!?」
瞬間、打ち所が悪かったのか白目を剥いて泡すら吹いて倒れたその団員を踏み越えるかのようにして次の2人が同時に襲いかかる。
「何をこんなクソガキ1人に手間取ってんだお前は……!」
「両方から挟み込んで殺せ! 最悪両腕が取れていても問題は無い!」
両方向から迫り来る2人。
ヴィクトルは剣を持って非力ながらも応戦する。
「うぉぉぉぉぉぉぉ――ってあれ!?」
渇を入れて剣を振り抜こうとするが、目の前の小石に躓いて盛大にずっこける。
「ぐはぁ!」
「いでぇ!? てめぇ……って俺の腕がぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ヴィクトルがずっこけたことによって盗賊団の2人は、互いが互いを斬り伏せて地面に倒れた。
腕がなくなったのは盗賊団の方だ。
「――な、何が起こったか分かんないけど、今を逃すとチャンスはない!」
すりむけて血が出る膝に鞭を打つようにして立ち上がった。
もう追っ手は全てシルヴィアの方に人員を割かれているために来てはいない。
「ヴィ、ヴィクトルさん!?」
「あぁ、ルーシー来たよ。とにかく、ここから逃げだそう!」
持っていた木刀とてこの原理で椅子に縛り着いている紐をほどくと、自由の身となったルーシー。
「シルヴィア! こっちは何とか終わったよ!」
ヴィクトルがシルヴィアのいる方へと振り返ってみると。
「おぅ。遅かったじゃねーか」
血に伏せた団員をまとめて縄で縛って「むふふん」と満足そうな笑みを浮かべるシルヴィア。
「これで、アタシの目的、ヴィクトルの目的それぞれ達成できたって訳だな」
不適に笑みを浮かべてヴィクトルに歩み寄るシルヴィア。
ヴィクトルも、何も言わずに笑みを浮かべてシルヴィアの元へと歩み寄った。
そして――。
パァンッ!
2人は、勝利を祝うかのように笑って手を叩き合ったのだった――。