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007.2つの戦場

 ――人生は常に波瀾万丈だ。


 それが『剣神顕現』カルラ・イーグルの決まり文句である。

 生きながらにして伝記にもなっているカルラの2番弟子が、先を進むヴィクトルのすぐ後ろにいる。


 ヴィクトルから見ても、15歳となった今日の朝から既に波瀾万丈を繰り返してきている。

 教会にて女神さまから神スキル『豪運』を得て、盗賊とイノシシに追われる少女に出会い、少女と一緒に崖から落ちて一緒に川魚を食べたと思ったらすぐにルーシーは別の盗賊に攫われ、更には突如現れたエルフのシルヴィアと共にルーシー救出&盗賊団のアジト捜索のためにこうして森の中を掻き分けて進んでいる。

 誰がどう見ても波瀾万丈と言えるだろう。


「そんで、ヴィクトル。本当にこっちであってんだろうな?」


 先ほどから険しい草と木の枝を一本ずつ折りながらも、迷い無く進むヴィクトルにシルヴィアは呟いた。


「分からない。分からないけど、ぼくの感覚的に(・・・・)こっち以外はありえないと思う」


「よ、よくわかんねぇ根拠だなぁ……」


「ぼくもそう思うよ」


 そう言いながらもヴィクトルの目は真剣そのものだった。

 シルヴィアも、迷い無く一直線に進んでいくヴィクトルをサポートすべく直剣で、彼を遮る木の枝を器用に落としながら歩みを進める。


 河原を出立しておおよそ30分。


「……マジかよ……!」


 目の前に広がる光景を見た瞬間、シルヴィアは不覚にも鳥肌が立つのを感じていた。

 自らが3日間どれだけ探してても見つからなかった盗賊団、『ビッグマウス』がアジトが、すぐ目の前に広がっていたからだ。

 たった30分程度歩いたくらいで見つけられたその場所は、巨大な1枚の黒曜石の影に隠れていたのだ。


「ちっ。あのドデカい鉱石岩の背後にあったのかよ……! そりゃ、気付く訳もねぇわ……。にしても、こんなのどーやって攻略しろってんだ?」


 配置としては、巨大な10メートルほどの黒曜石の後ろにいくつかの物見櫓ものみやぐら。その周辺に何件かの建物がある。それはまるで集落のような形だった。


「とりあえず、あそこにルーシーがいるかどうかって感じなんだけど――」


 細目になってヴィクトルが木の陰から隠れるように集落の中を見回していく。

 そんな中で、シルヴィアが「コホン」と咳払いをする。


「『私? 私はルーシー・フォン・アストレア。残念ですが、お金ならば全て鷲に取られましたよ』


『嘘をつくなよ小娘が! どこかに隠し持ってるんだろーが!』


『嘘じゃありませんよ? 突然鷲が小包を持って父様や母様への連絡手段、それと白金貨と金貨数枚をファラル河に落としちゃいましたし……』


『おいテメーら! つまりはそういうことらしい。今すぐファラル河行ってこい。グルド、キルギス。お前等は特に役に立たなかったんだからここでヘマすると後はねーからな』


『まぁ! 無くしてしまった連絡用魔法結晶を探し出してくれるんですか!? ありがとうございます! 優しい盗賊団さんですね!』


『……頭ん中お花畑かよ』


 ――と、ざっと盗賊団とルーシーさんと思われる女性の会話がこんな感じだな」


「なんでこう、絶妙に声真似上手いんだ……? っていうか、ここからあんな遠くの声拾えるんだね」


「エルフ族の耳は伊達に形状特化してないさ。特に鍛錬すれば3kmくらい先の声なら拾えるな」


「……エルフ族って凄い……」


 そんな会話を繰り広げている間に、物見櫓の4つの内2つから数人が出てくる。

 他の建物からも数人がファラル河へ向かって足を進めていく。


「随分と本陣が手薄になったな。行くなら今ってとこか? ルーシーって奴もどうやら手荒に扱われたりはしてないようだし……。奇襲で一気に蹴りをつけたいところだ」


「そういえば、シルヴィアのスキルってのは聞いてもいいのかな?」


 ヴィクトルの問いにシルヴィアは剣を構えて呟いた。


「高上級スキル『剣業』。言わずもがな剣術系スキルだけど、このスキルを磨けば磨くほどに相手の急所部位が直感で把握することが出来る。一撃必殺、峰打ち、鎧の隙間を狙った剣戟はお手の物だ。まぁ、まだ修行が足りずに刃こぼれしょっちゅう起こしたり、剣に優しい剣術じゃぁないけどな。だからこそ、アタシは人質に構わずに()を取りに行く。ヴィクトルはその間にルーシーって子を救出してくれ」


 剣の腹をツツ――と撫でたシルヴィア。


「わかった」


「こっからあのデカい岩崩落出来ねえかな。ああいう岩は、どっか一点を突けば一気に壊れることがある。ま、アタシの腕じゃそんなこと、100年かかっても無理かもな」


自嘲気味に呟くのはシルヴィアだ。


 ヴィクトルが応答して2人が一気に茂みの中から集落の中へと突っ込んでいこうとした、その時だった。

ヴィクトルはぴたりと止まって、シルヴィアの持つ弓矢に目を向けた。


「ごめん、シルヴィア。ちょっと背中の矢、一本打たせてくれない?」


「……ぁ? こんなん、どうするつもりなんだ? 別に、いいけど……」


「ありがとう。ぼくもよく分からないけど、とりあえず任せてよ」


 ヴィクトルはいけると、そう確信してシルヴィアから受け取った弓を番えた。

 キリキリ、と、少ない筋力で放った矢は、ひょろひょろと歪な弧を描きながら黒曜石にコツンと当たった、その瞬間だった。


 ピキリ、ピキリ――。


 10メートルを超える巨大な黒曜石に生じた小さなヒビはあっという間に岩全体へ伝播し、そして――。


 ガラガラド――――ッ!!!


 それはまるで、大岩の崩落だった。

 大きな巨岩が轟々とした音と巨大な土煙をあげながら崩れ去っていった。


「な……お、お前、う、嘘……だろ!?」


 ヴィクトルが放った矢の先、崩落した岩、そして一気に混乱状態に陥る集落を見て、シルヴィアは悲鳴にも似た声を上げる。


 驚愕の表情で顔を歪ませるシルヴィアを知ってか知らずか、ヴィクトルは混乱する場を睨み付けた。

 

「やっぱり出来た! この混乱に乗じて、一気にルーシーを救出しに行くよ!」


 迷い無く飛び出したヴィクトルに、「お、おぉ!」と少し遅れる形でシルヴィアが茂みの中から飛び出した。


 巨大岩の崩落によって巻き上がる土煙の中を掻い潜り、ヴィクトルにとってのルーシー救出作戦、シルヴィアにとっての盗賊団『ビッグマウス』の制圧戦の火蓋が切って落とされた。

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