002.【豪運】の力
ヒトは15歳を迎えると、その人物固有の【スキル】を貰うことが出来る。
生まれながらにして持つスキルだが、それを判別できるようになるのが15歳。
かつて世界を救った英雄とも称されるカルラ・イーグルも15歳の時に、世界に5つしか存在しないとされる神スキルの一つ『剣神顕現』を手にしてから人生が180度変わったという逸話も残っているほどだ。
そんな神スキルの一つに――。
「ぼ、ぼくが神スキルの内の一つを……?」
誰もいない教会で、1人で洗礼儀式を終わらせたヴィクトルの前に現れたのは「女神」と呼ばれるスキル譲渡の代理人。
洗礼儀式を終えると、自然と教会の鐘が鳴る。
それが女神が降りてきたという証だった。
『はい。「強運」スキルの完全上位互換を持つこの能力、そして【天の声】で、あなたの人生に幸が多からんことを――」
ホログラムのような淡い女神の姿と共に、女神は光に包まれて消えていく。
ヴィクトルの頭の上に温かい手を置いた女神の感触を、彼は忘れられずにいた。
「【天の声】……ってなんなんだ?」
スキル譲渡の洗礼が終わって教会に出たヴィクトル。
日は昇りきって、トート村の人々も農業にいそしむ中で、ヴィクトルも村長の家に戻るべく帰路に着いていた、その時だった。
『――ヴィクトル。そこの小さな石を、茂みに向かって投げてみなさい』
「な、なに!? 誰!?」
突如ヴィクトルの頭に響き渡った澄んだ声。
先ほどの女神の声ともまた違う、安らかな声にヴィクトルは肩をぴくりとふるわせた。
「【天の声】!?」
『――あなたのスキル【豪運】に付随する音声システムです。この音声システムは、あなたの為すことが好転する際に発動されるのです」
「ほうほう……ってことは、とりあえずあの茂みの中に石を投げればいいことがあるってこと?」
『――その通りです』
半信半疑に思いながらも、ヴィクトルはそばにあった拳大ほどの石を手に持った。
「……んぇいっ!」
日頃あまり物を食べていないせいか、手に力が入らなかった。
だが、投擲した石は茂みの中へと一直線に進み、「ピギッ!」という断末魔と共に落下していった。
「ぴぎ?」
断末魔の聞こえた方へと向かうと、そこには白く小さなウサギがいた。
「こ、これは……」
気絶しているであろうウサギの首根っこを捕まえていると、奥の方からガサガサと草を掻き分けてくる人物がいる。
「おぉ! コイツを仕留めてくれたのは君か!」
「……あ、えっと……」
「コイツは高級ウサギの《白兎》っつんだ。俺も長いこと追って、ようやく、ようやく姿を見つけたと思ったら逃げられちまってよ! いやー、ありがとよ! 白兎は売値相場は……銀貨1枚と銅貨5枚ってとこか。俺はほとんど逃がしたようなもんだから、君が銀貨1枚分受け取ってくれ!」
そう言って、草むらから出てきた猟師らしき男は快活に笑いながらヴィクトルに銀貨1枚を手渡した。
「……」
信じられなかった。
「…………」
こんな偶然でウサギを狩れて、褒められ、あまつさえお金を貰ったことが。
「……………………!!!」
スキル【豪運】が発揮されたのだと知り、ヴィクトルは小さく拳を空に突き上げたのだった。
IN:銀貨1枚