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「はぁはぁはぁ」
二人はミラーハウスの前まで来ていた。
「中に入ろう」
夢二は美希の手を引いてミラーハウスの中へ入った。
ミラーハウスの中は足元も周りも見えない程暗かった。夢二はポケットからスマホを出し、ライト機能で辺りを照らした。
「中にいれば、多分安全だ」
「どうして、こんなことに……、あのウサギって殺人鬼なの?もう帰りたい、お母さん」
「一緒に帰ろう。でも、金太を置いていけない。金太に連絡をとるから待ってて」
大と小の鏡の奥の自分が立ちはだかるのを避けて、中間地点まで行くと、狭い通路に二人で座った。
「俺、小さい頃にここ来たから大体は分かる。だから、大丈夫」
夢二は安心させようと言った。実際は、一度来たきりであまり覚えてはいない。膝を抱えて美希は泣きすする。
「わっ、私聞いたことがある。うらみみくんは、寂しいから、こ、子供を攫って、言うこと聞かない子はドリームキャッスルの拷問部屋に連れてかれる……って」
「そんなのただの噂だ」
「じゃあ何で光博くん殺されちゃったの!?」
美希は錯乱したように叫んだ。まるで人が変わったようだった。夢二も何だか頭が痛くなってきた。しかし、何とか気を持ち直し、スマホで金太に着信を送った。
「今は金太を探そう。金太が見つかったらすぐここから出るんだ」
着信はコール音だけが虚しく鳴り響いた。留守番電話に繋がられると、拒否ボタンを押してメールへ切り替えて文字を打った。
『金太へ。このメールを見てたらすぐに返事をくれ。もしも園内から出れてなければ、ドリームキャッスルの前で落ち合おう』
夢二はまたもや子供の頃を思い出した。その頃ドリームランドは賑わい、人々は楽しんでいた。3時に母親にアイスクリームを買ってもらい、赤い風船を右手にミラーハウスの前を浮かれて歩いていると、沢山の色とりどりの風船を持ったウサギが、じっと見つめていた。
ウサギは、夢二に何度も手招きをした。夢二は子供心に不気味に思ったのか、母親の手を握り返しウサギに背を向け去っていった。
メールを見ると、金太から返信が来ていた。
『わかった』
ほっとして、夢二は立ち上がる。
「金太は無事だ。とりあえずドリームキャッスルに向かおう」
美希に手を差し伸べた時、ミラーハウスの部屋の明かりがついた。
四方八方に、ヘンテコに変わった自分の姿が現れる。
すると、美希は小さな声で呟いた。
「ウ、ウラ……ウラミミ、くん」
美希の指さす鏡の中でウサギが笑っていた。
「きゃぁぁぁ」
美希が叫ぶとウサギは右手に斧を持って、鏡を叩き割った。
美希は腰を抜かして震えた。
夢二はそんな美希を立たせようと腕を掴もうとする。ウサギはゆっくり自分達に近づいてくる。
「早く!早く立て!美希!」
しかし美希は掴まれた腕を強く振り払った。
そして、割れた鏡の方を向くと、歪んだ自分の顔を見つめ言った。
「嫌だ、死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」
美希は鏡の破片を持ちながら、自分の喉元へあてがった。そのまま横に皮膚を引き裂いた。
美希の喉から濃い血が噴き出した。
「あ……あ……」
夢二も腰を抜かして血を流しながら死んだ顔の美希を見ていた。夢二は吐き気がして口を抑えた?
ウサギは今度は夢二を見つめてゆっくりと歩いてきた。
「うわぁあ!」
夢二はふらつきながら立ち上がりミラーハウスの狭い道を走った。鏡にぶつかり立ち止まると、後ろのウサギの姿が映って笑っている。
夢二は必至にミラーハウスの鏡を通り抜けて出口まで走った。
ようやく出口まで出ると、すぐ近くの草へ身を隠した。
「美希が、あんなっ……くそっ」
何分経ってもミラーハウスからウサギは出てこなかった。夢二はスマホを急いで取り出し、金太に着信をかけた。
しかし金太が出ることはなかった。息を荒らげながら、夢二はスマホを閉まい立ち上がる。
「ドリームキャッスルに向かわないと」