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不釣り合いなシャッター音と共に、眩い光が馬達を捉える。
「あれ?」
一瞬、光の傍に何かが写ったような気がして、夢二は声を出した。
「どうしたの?」
美希は心配そうに夢二を見た。
「いや……、今一瞬、変なウサギいた」
「ウサギ?あ、うらみみくんのこと?そんなのいるわけないじゃん。夢二変なの」
美希は茶化しながら笑った。
「確かに見えたんだよ。メリーゴランドの横で」
「夢二くん。ここは廃園だから着ぐるみが徘徊してるわけがありませんよ」
光博は眼鏡をくいっと上げて言う。
「そ、そうだな」
「もしかして幽霊だったりしてな」
そう金太は楽しげに笑った。
「ウサギの幽霊なんてただ可愛いだけじゃん」
美希は心霊現象などには興味が無いようだった。
夢二はもう一度、メリーゴランドの横を目を凝らして見てみた。しかし、皆の言う通り、何者もいなかった。静かに息を整える。
「ごめん、気のせいだな。奥まで見てみるか」
夢二がメリーゴランドへ背を向けた瞬間、突然オルゴールのような曲が大音量で流れ出した。思わず後ろを振り返ると、明かりの下で走り出す馬がいた。
「い、いやっ!なんで?勝手に走り出すの?」
美希はメリーゴランドから直ぐ離れた。
まるで来園者を歓迎するように、馬は楽しげに走り出す。
光博は写真を撮り続けている。それを金太は光博のカメラを掴みながら怒鳴った。
「おい何してんだよ!撮ってる場合じゃねーだろ」
「これはスクープだ。信じられない。噂は本当だったんだ」
だが、光博は撮るのを止めない。夢二は走り狂う馬を見つめていた。またあのウサギが笑ってこちらを見ていた。馬に乗りながら。
「あ、あそこっ、ウサギが!」
夢二は指を指した。
「何だこれは、心霊現象なんかじゃないのか。誰かのいたずらか。君たちの誰かが僕をドッキリにかけようとしてたんだね?付き合いきれないよ」
光博はさっきまでの冷静さとは違う、憤りの含んだ声で言うとさっさと帰ろうと背中を向けた。
その時だった。光博の額から鉄の棒が突き出た。
「きゃぁぁぁ」
目を見開き、カメラを持ったまま地面に倒れた光博を見て、美希は腰を抜かした。
夢二の目には、ウサギがメリーゴランドから、光博の頭めがけて、鉄の棒を投げていたのを、しっかりと映っていた。
「こ、殺される!」
金太は一目散にその場から逃げ出した。夢二は美希の手を掴んで、急いでメリーゴランドから離れるように走った。
「光博くんがぁ!死んじゃった!なんでぇ!」
「いいから、逃げないと!」