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夢二は不機嫌だった。4人で遊園地に来てるにも関わらず。
「おいおい、もっと楽しもうぜ?」
金太は夢二と全く別のテンションでそう言った。
「いや、無理だろ。大体こんな深夜に皆で遊園地なんておかしいだろ」
夜の暗闇に何も照らす光はなく、4人のいる場所にも、本来あるはずの人工的な明かりはなかった。メルヘンは時として恐怖と同居しているらしい。
ここ裏野ドリームランドは廃墟となって数年経っているが、未だ取り壊されていないまま放置されている。それは、裏野ドリームランドの、ある恐ろしい噂のせいだった。
「もしかして怖いの?夢二くん」
と、美希は茶化すように聞いた。
「まさか。怖くはない……けど」
語尾を若干濁した。
怖くないはずがない。だが、夢二は美希の前で怖がる姿を見せたくはなかった。
「夢二君の気持ちは分かります。だって、ここはあの裏野ドリームランドですから」
眼鏡をくいっと指で持ち上げながら、光博は言った。
「えっ?裏野ドリームランドってなんか怖い噂あるの?」
美希は何も知らない様子で聞いた。
「裏野ドリームランドは昔大賑わいだったのです。ですが、しょっちゅうおかしな事件の噂などがありました。それは……」
と、光博が説明しようとすると、金太が口を挟んできた。
「子供が突然行方不明になったり、事故があったり、一緒に行ったやつの精神がおかしくなったり……って色々変な事件なんだってよ」
「えー!やだやだ!こわっ。何でそんなところに行くの?」
「そりゃ、俺達4人で噂の真相を確かめるためっしょ!」
怖がる美希の声を覆うように、光博は拳を挙げた。
だが、実際夢二は乗り気ではなかった。一応仲良い3人の提案に乗っただけで、夢二には遊園地もオカルトも興味はなかった。裏野ドリームランドには、夢二が覚えてない程小さな頃に1度行ったきりで、その後には行った事はない。まさかもう一度こんな形で行くことになるとは考えもしなかった。
「まあいいや。怖かったら夢二くんに守ってもらおーっと」
美希は夢二の腕を掴んだ。夢二は照れ臭そうに俯いた。
「あー、リア充のお二人さんは放っておいて、二人で行こうか、光太」
「うん、そうだな」
二人して、夢二と美希を冷めた目で眺めていた。
スマホの時計は23時と表示されている。4人は裏野ドリームランドの入園口の柵から侵入しようと試みた。
鍵がかかっているため、柵から登るしかなかった。無事に、4人共登り終えると、廃れたワンダーランドが目の前にあった。
「うわっ俺、初めて来たわここ」
光太は呆然と人気のない遊園地を見つめていた。
「僕も……。夢二は?来たことあるか?」
「俺?俺は、小さい頃一度だけ――」
まず最初に目に入ったのは、メリーゴランドだ。
夢二の目に、あの時の景色が色鮮やかに蘇る。
牧歌的なクラシックが流れてくる。5歳の頃の夢二は母親に手を引かれて歩いた。昼でも輝くように、真っ白な馬はおどけて回る。
「ほら、お馬さんよ。パパと乗ってくる?」
それでも夢二は無表情のままで、目まぐるしく回る馬と子供の笑い声だけが鮮明だった。
「夢二!ねぇメリーゴランドだって」
美希の声に、はっとすると景色は暗闇の中に錆び付いた馬が動かずにじっと止まっている。
「うわぁ、なかなか不気味だな。夜見ると」
金太は微かに身を引いた。
確かに、静寂の中に取り残された馬達は錆び付いた涙を流しているように見える。
パシャリ。
突然の光に、うわっと全員目を瞑って身を揺らした。
光の発生源には、カメラを構えた光博がいた。
「お前、何写真なんか撮ってるんだよ!」
金太はキレ気味で怒鳴った。だが、光博は何とも思っていないように冷静にシャッターを切る。
「これはスクープだ。学校新聞に載せるよ。きっと皆食いつく」




