第9話:奈々said
『おやすみ』
頭の中で、さっきの雄輔さんの笑顔と声が止まることなく甦る。
何か……笑顔が優しかったな……。
明日になったら、私はきっと驚くくらいの自然な笑顔になれそうな気がしながら、眠りについた。
「おはよう奈々!」
「郁!おはよう!」
何となく、今までの会っていない時間が長く感じた。
それだけたくさん事件が起きたからなのかもしれない…。
「奈々ってば、詳しく説明しなさいよね!」
「うん……」
郁は優しい。
いつも私のために真剣になってくれるから。
「なにそれぇー!?」
郁が教室の私の机をバンッと勢いよく叩きながら立ち上がった。
もちろん大注目……。
「おっ落ち着いて……」
「落ち着いてらんないわ!何よそれぇ!?」
一応雄輔さんの事を話さないといけないと感じ、私は郁にちゃんと説明した。
でもちょっと納得いかないらしかった郁は、椅子に座り直しスカートの折りをいじりながら私を向いた。
「あんたはそれでいいの?」
「なんで?」
「相手は……一応御曹司みたいなもんじゃん!それに半同棲だなんて……いいの?」
「……実は……」
私は隠し事なんて郁にしたくなかった。
だから、横髪が口に入ったままの郁を見ながら、私は勇気を出した。
「雄輔さんの事……好きになったんだよね……」
「……は?」
郁はやっぱり、浮かない顔だった。
「だから、私はそれでもいいかなって思って……」
「…………」
郁は黙って口に入った髪の毛を払いながら下を向いた。
私は郁に何て言われるのかが気になり、下を向く郁をじっと見つめた。
何かを決意したかのように、郁が勢い良く頭を上げるから、私は郁の長い髪の毛に顔を叩かれそうになった。
「うん……奈々がそうしたいって思ってるなら、仕方ないよね」
「郁……」
「でもそんな大事なこと、もう少し早く言ってほしかったなぁ」
「ごめんね?」
「いいよ!」
郁は優しい。どんな私も受け入れてくれる心の広い子。
だから私は郁を頼りにしてるんだ。
そして、雄輔さんの待つ家に帰って来た私は、静かな玄関に違和感を覚えた。
「……ただいま……」
おかえり、と誰も返してくれない寂しさを感じながら、靴を脱いで一歩踏み入れた。
すると奥からメイドさん二人が、足音を一切たてずに私の元に走って来た。
「おかえりなさいませ」
「な……なんで小声なんですか?」
メイドさんの一人が小声で話していたので、私も思わず小声で質問した。
「今、雄輔様はお仕事を続けておられますので……」
「え、こんな時間まで?」
「今日は何やらしつこい奴だと嘆いておられました」
「……『しつこい』……?」
私はメイドの話を聞き、疑問に感じながら自分の部屋に向かった。
荷物を置いた私は、雄輔さんに帰った事を伝えようと思い、雄輔さんの部屋に向かった。
入り口付近に笹本さんが立っていて、何やら不思議な様子だった。
「あ、笹本さん…雄輔さんに帰宅の報告がしたいんですが」
「今雄輔さんの部屋には寄らないでくれますか?」
いつになく真剣な笹本さんに引き留められたけど、やっぱり気になる私は笹本さんを押して入り口に近寄った。
すると……
『んだとコラァア!!』
『てめぇ……誰に向かって口聞いてんだオラァ!!』『――だから話聞けっつってんのが聞こえねぇのかアァ!?』
普段聞かない雄輔さんの怒声が廊下に響きわたり青くなる私を、笹本さんは、しまったと言わんばかりに頭を抱えた。
まだ響く怒声を聞きながら整理のつかない私は、まとまらない頭で走り出した。
「奈々ちゃん!?」
笹本さんに声をかけられたけど、私の足は止まることは無かった。




