第4話:雄輔said
俺は煙草をくわえて気がついた。
こいつはまだ学生だ……。
しかも女。
俺はライターを握る手を止め、奈々を見る。
「あんた……煙草の匂いとか嫌いな奴なのか?」
「ふぇ!?」
急にふられて驚いたのか、変な声を出しながら奈々が答えた。
「ふぇじゃねぇよ……で、どうなんだ?」
「やじゃ……ないですけど」
「あ、そうか」
俺はそう言われて遠慮なく煙草に火をつけて、胸いっぱい吸った。
煙草の煙が部屋にこもり、俺は部屋の小さな窓を開けた。
一応俺の部屋だからな。
そして開けた窓に寄りかかりながら、奈々に声をかける。
「つかお前さ」
「なんですか?」
「証明写真……なんであんなにつまらなさそうな顔だったんだ?」
「……なぜつまらなさそうに見えたんですか……」
奈々は写真を見られたことより、俺の疑問に顔を暗くした。
何か悪いことを言ったのかと思い、俺は煙草を吸った。
「何となく、学生だった頃の俺と同じような顔をしてる……死にそうな顔」
「死にそうな……顔」
俯きながらなぜか寂しそうな顔をする奈々から、俺は目が離せなかった。
こいつは……ほっとけねぇ。
「私、嫌いなんです。学校も…………自分も」
「…………」
急に話しはじめて、俺は我に返った。
「毎日同じで、楽しいことなんて友達といる時くらいで」
話を聞きながら俺はこいつと重なる瑞希を見た。
瑞希も学校が嫌いな奴だった。
俺が高校二年の時に瑞希と付き合いはじめた。
あいつはいつも暗い顔をしてた。
何故か瑞希が重なる奈々を見ながら、俺は涙を流した。
「えっ!?雄輔さん!?」
「何で俺の名前……」
「笹本さんから聞いたんです…………何かあったんですか?」
「いや……何でもねぇ」
俺は涙を隠そうとして灰皿に煙草を押し付けて窓の外を見た。
すると背中に暖かな体温を感じて振り返った。
「あの……泣かないで下さい」
今日会ったばかりの、しかもこんな小柄で学生な奈々を、俺は不覚にもちょっとだけ受け入れようとしていた。
背中から回された細い腕が、何となく震えていて、あきらかに俺に怯えている。
けど手を離さない奈々は、俺が思っていた以上に心の強いやつなんだろう。
「あぁ、大丈夫だ」
俺は奈々の回している腕をゆっくり解き、奈々に向き直った。
やっぱり少し怖がっているが、一生懸命俺を見上げる目がたまらなく惹き付けられる。
ゆっくり口を緩め、俺は奈々を見ながら笑いかけた。
誰かの前でこんなに穏やかに笑ったのは……久しぶりだった。
「……!」
奈々の頭をワシャワシャ乱暴に撫でると、奈々は少し頬を赤く染めながら肩をすくめた。
俺の食事が出来たと笹本に呼ばれて、奈々を連れて食卓に向かった。
食卓には親父も居た。
「雄輔?そちらの子は?」
「ん?……まぁ……」
俺は返事を濁したが、奈々はそんな会話より食卓に並ぶ食事に驚いていた。
時折天井から下がるシャンデリアにも目を奪われていた。
「雄輔さん!……凄い!!」
興奮しきっているような姿に俺は吹き出しながら、親父の向かいに腰掛けた。
「彼女は雄輔の新しい恋人?」
親父が楽しそうに俺に聞いてきた。
女みたいに俺の色恋に口を出す親父の相手は、正直うんざりしていた。
「あぁそうだよ」
「へぇえ!?」
「えぇ!?」
ほぼ同時に奈々と笹本が声をあげる。
「雄輔さん!いつの間にそんなご関係になったんですか!?」
楽しそうに聞いてくる笹本の横で、彼女じゃないと言いたげな奈々の口を押さえながら食事を続けた。
「ふがっ!ふがふが!?」
奈々が何か言いたげだったが、俺は食事中は黙るタイプだ。
「笹本」
「はい?」
「こいつ俺の部屋に連れてけ」
「わかりました」
ニヤニヤしながら奈々を連れ出す笹本の背を見送りながら、俺はホッとした。




