第10話:雄輔said
「来月だ! 来月かならず払いに来い! 来なかったら殺すからな!!」
俺は電話を乱暴にガシャンと起き、電話の最中にベッドに投げ捨てた煙草を拾い、火をつけた。
肺いっぱいに煙草の煙を吸い、気分を紛らせる。
「雄輔さん……」
入り口の向こうから、笹本の声が聞こえた。
「笹本……?」
深刻そうに部屋に入って来た笹本は、いつも仕事後に見せる笑顔とは違う雰囲気を醸し出していた。俺は今日はきつすぎたか?
「あの……非常に言いにくいんですが……」
「どうしたんだ?」
「奈々ちゃんに……ドア越しに聞かれてしまいました……雄輔さんの電話……」
一瞬何を言っているのか、俺にはわからなかった。
この電話越しや直接家に出向いた時に見せる仕事の顔は、笹本しか知らない。
きっと皆、俺のキレた姿を見たら俺に幻滅すると思っていたから。
「あ、雄輔さん!?」
俺は一目散に奈々の部屋へ駆け出していた。
出会って間もなくて、やっと受け入れてもらえたと思っていたのに、今あいつはどんな気持ちだろう?
俺が嫌いになったのか…?
奈々の部屋の前に立ち、荒い息を静めながら、ドアノブに手をかけた。
「奈々……入るよ」
嫌にドアノブを回す音が響き、辺りの静けさを物語っていた。
奈々は部屋に用意されたベッドの上で足を折り畳み、抱え込んでいた。
顔は膝に埋めて。
「……電話の……聞いたんだってな」
「……聞きました」
「……もう俺が嫌い……?」
俺がそう呟くと、奈々は急いで顔を上げて、入り口でたたずむ俺をじっと見た。
目にはいっぱい涙がたまっているとすぐにわかった。
「雄輔さんを……私が嫌いに?」
「……」
奈々は答えない俺に、悔しそうにベッドに置いてあった縫いぐるみを投げつけた。
「私がその程度で雄輔さんを嫌いになると思いますか!?」
「奈々」
「……悔しかったんですよ……知らなかったから……」
「は?」
「私……全部ちゃんと話……聞けてなかったから」
奈々はあんな俺も受け入れようとしてるのか……?
声を荒くして怒鳴り付けるような醜い俺を……?
俺より若いのに……立派な奴。
「そうだな……奈々は俺のことがちゃんと知りたい?」
「当然ですっ!」
あまりにもはっきり言われてしまえば、俺は笑いを止めることが出来ないまま、じっと奈々を見つめた。
「なら俺も気になることがあるんだ……答える気はあるか?」
「なんですか?」
奈々はキョトンとしたまま、俺の真剣な顔をまじまじとみつめてくる。
「お前学校は楽しいか?」
「……急にどうしたんですか?」
奈々が少し顔をひきつらせたのが俺にはわかった。
「何で今返事を躊躇った?」
「え、だって……雄輔さんが急に学校なんて言うから……だから……」
少しずつ口ごもる様子を見て、やはり生徒証に貼られていた暗い表情は見間違いじゃなかった。
奈々は学校で何かあるんだろうか。
「……学校は……楽しいですよ」
「本当に?」
「本当にです」
顔が明るくなったのを見る限り、確かに楽しいみたいだった。
「私をわかってくれる友達が居ます。だから大丈夫です」
笑顔で言われたら、さすがに誰でも安心はする。
けど俺は気づいてやれなかった。
笑顔の裏に隠された、本当の心のモヤモヤを。
「雄輔さん!今日はもう部屋に戻ります!また明日」
にっこり笑顔で俺の部屋を出ていった奈々を、何故俺はこんな気持ちで見送っているのか、わからなかった。
教えてくれ奈々……。
お前は何に怯えて生きてる?




