三極の乱入1
通学路をせっせと歩き、階段を上り、教室に到着だ。通学路でいろいろと考えながら登校したせいか無駄な寄り道もせずに結構早目に着いた。
だけどクラスにちらほら、遠方から来ている奴らとかのクラスメイトの姿がすでにある。いやー、椅子に腰かけた時のありがたさ。朝がうるさかったからそのありがたさが身に染みる。
『話は聞いたぜェ。昨日居残りから逃げたんだって? やっぱお前ってホント馬鹿だよな!』
クラスメイトの1人が話しかけてきた。しかも馬鹿と言う言葉を引っ提げて。
「ほう。本人の面前で堂々と馬鹿か。ちょっと毒され過ぎているな。いいだろう。君の中の毒素を浄化してやる。前の席に座るんだ。主人公のカウンセリング一回500円の5分間。さぁ。洗いざらい吐いちまいなぁ」
やーだよーと声をかけてきたクラスメイトはエスケープ。この時間帯ならまだ『あいつ』はいないんだけど。
しかし、朝の登校時間。ホームルームが始まる予鈴。担任がこの教室に現れるまでの時間。その時間は僕の周りに基本的に誰も近づかない。それこそ隣や前の席の住人だろうとだ。
動物は危険を察知するとその土地から逃げ出す。それと同じ理屈だ。
いつもらなら座って待っているんだけど、今日は相談するために早く来たのだ。鞄を置いて、おそらくいるであろう食堂に行くために早く来たのだ。だから遭遇することもない。
僕は意気揚々と教室を出ようとすると『そいつ』が扉を開けた。
「あ……カミカミカミ子。相変わらずごついヘアピンだ」
扉の枠の向こう側。彼女は一ヵ月ほど前に転校してきたニューフェイス。ショートヘアーに、お洒落なのかヒドイクセッ毛を留めるためかはわからないが、日によって数が変わるヘアピン。今日は四つだ。この学校に制服自体ないので前いた学校で着ていたのか黒い改造セーラー服を着用している彼女は上噛神子。僕の天敵の一人だ。
「百歩譲ってカミ子は許すとして、カミカミは無いんじゃないか主人公?」
「つまり、百歩譲ってってことはカミ子って呼ばれるのも嫌ってわけなのかい?」
「当たり前……!」
『カミ子さんおはよー』
「あ、おはよ。昨日はありがとー………嫌に決まってんだろ!」
「君って僕にだけ素直になれないタイプなのか? あれだろ? トガデレ」
「それを言うならツンデレじゃないの?」
「それそれ。ツンデレ」
その言葉に周りは『マジで!?』『カミ子さんツンデレ疑惑か!?』『号外! 美少女戦士への態度は照れ隠しがタイトルだな』と野次馬、出刃亀精神全開でクラスメイトがどよめき出す。
ちなみに美少女戦士とは僕のことだ。
「そうか……すまないなカミ子。君の気持ちを汲んでやれなくて。よし、今から一時のラブロマンスと行こうか。青春の第一歩は踊り場からと言うだろ?」
「言っとくけど、アンタに一時でも心を許したこと覚えはないんだけど」
「高校生の青春は三年間だけ……でもそうだと、中学三年間だけの青春、小学校の青春、幼稚園の青春、乳児の青春……ヤバいな。生まれる前からやり直したくなってくる」
「だけど私はアンタのことを知らないって指摘されたから、一回きちんと対談しようと思うわけよ。まあちょっとした友好関係を築いてあげるってこと」
うーん。全く会話に整合性がないなぁ。まあ僕も話に合わせようとか思わないしきっと向うも思っていない。だけど接合性皆無のまま手を握られそのまま教室に連れ込まれる。あれ? 食堂に向かっていたのに何でUターンしているんだ?
「手ぇ離してくれないかなカミ子」
「嫌」
そのまま元の席に、カミ子はその前の席に座り対面する形になる。
「すまないが、僕ちょっと用事があって会いに行かなきゃいけない人がいるんだ。邪魔してほしくないと言うのが本音だ」
「大丈夫、話は聞いてる。もし『きーちゃんが自分に用事があるなら後にしてほしい』って伝言を承ってるわ。どうせ上級生のクラスにでも巡礼しに行ってんじゃないの」
三年生のところか……まさか静吉はもうゼクトの事をもう知っているのか。あり得る。あいつならあり得る。
「なんで後回しにしてくるかなぁ。こちとら困ってるってのに」
「まさかまたアンタ変な厄介ごと抱えてんの? ちょっとは断るってこと覚えた方がいいんじゃない?」
「別にやれる範疇のことをやっているだけだ。それより。君は犬と猫、どっちの方が好きなんだ?」
「いきなり何?」
「何って会話だ。僕を知るために偽りの友好関係を築くって言うんだろ? だからこうして意味もない会話から始めるというわけだ」
「言葉が結構辛辣……まあいいや。そうだな……犬の方がいいかな」
そして馬鹿正直に質問に答えるカミ子。真面目だなぁ。
「ほう犬! 犬と来たか! 犬耳が好きと言うか!」
「え? 犬耳?」
「そんな君に!」
僕は机の中に手を突っ込み、ある物を取り出し、カミ子に突き出した。
ああ、いい。突き出したそれを目にしたカミ子の絶句した表情。弄りがいのある奴の驚きと戸惑いの混じった表情の変化は口の中がしゅわしゅわと炭酸が弾けるような快感が押し寄せてくるようだ。
「あ、アンタ………それ、ッて………!?」
「僕自作の犬耳カチューシャだ。大丈夫! ちょっとしたツテで君の頭の採寸もバッチリ! さぁ! さぁ! オーディエンスたちは待ちきれない! 今ここに、一つの倫理の完成だ! それともこっちの猫耳の方がいいか?」
バン! と渇いた音が教室に響き渡る。それはカミ子が手のひらで机を強く叩いた音。口のへの字にして見るからに怒っているようだ。喜んでもらえるとは微塵にも思ってなかったから、まあ来るであろうと予想していた反応の一つだから別段驚きもしないさ。
「みんな! 聞きたいんだけど! みんなの主人公のイメージって何?」
大手を振ってクラスメイトに答えを問う。ちょっと驚いた様子のクラスメイト達は少々の間を置いて口々に僕をこう評してきた。
『変態』『変な奴』『何でもできる』『三立知識だけ』『上から目線』『美少女戦士』『結構謎が多い』『バイ』『ベジタリアン』『頭がいい』『良い奴』『天才かバカ』『自分勝手』
とまあ皆が皆好き勝手に言ってくれたけど、なんともまあ所々尖り過ぎたイメージだ。しかもそのほとんどが正しいのだからタチが悪い。
と言うか皆遠慮なさすぎ。僕泣きそう。