三極の機甲少女16
「ゼクト……君は」
「サカナも思い出しました。サカナは……かつて犬吠逆名だった……犬吠逆名の意識体クローンです」
情報が上手く読み取れないのは当然だった。
彼女の身体と意識は元々別の存在だった。犬吠逆名の意識体クローン。それは犬吠逆名を机上の空論にすべく行っていた計画の過程で起きた惨劇だった。
僕はゼクトの『肉体』に眠る情報と『精神』に宿る記憶を読み取った。
全ては崩街が起こしたせいだ。犬吠逆名は崩街に巻き込まれ、親と離れ離れになり孤独の身となった。しかし崩街に触発されて潜在的な三立が覚醒し、突発的な可能性持ちとなってしまったんだ。
可能性持ちを渇望していた三本柱によりすぐさま回収され、その身を三本柱に置いた。
これが犬吠逆名の一つの真実。
「サカナは他の意識体クローンと同じく糧となるべく生まれるはずでした」
カミ子と同じだ。拮抗した力の持ち主との戦闘。そのために実験的に開発されていたプログラムを用い、意識内での戦闘とプログラムのパンクを繰り返しその力をつけていった。
おそらくハータスの選択情報で意識体のコピーを作ったのだろう。
順調に言っていたはずの計画に一つの突然変異が生まれる。それがゼクト。オリジナルと91.0%しかシンクロしなかった攻撃的なクローン。
9%も違う逆名はオリジナルの意識を殲滅し、クローンでありながらオリジナルに成り代わり新たなる犬吠逆名となった。
「計画も継続しました。サカナはそのことに何の疑問もありませんでした。だけど他のクローンたちが言ったんです。何でオリジナルでもないサカナの糧にならなければならないのだと」
覗いた情報にもあった。悲痛な、懇願するような逆名たちが口々にそう言っていた。
「だからこそ君は守ることに執着したんだな。傷付けたくないからこそ。誰かを守りたかったんだ」
「サカナは傷付けたくなかった。同じ顔をした子たちの顔が絶望に変わるのを見たくなかった。そしての望んでしまった。その現状を壊せる力を」
「それがさっきの『竜』か」
静が言っていたハータスの死。その真相もゼクトの情報の中にあった。それはゼクトが竜となり研究所の全てを破壊した。その時に巻き込まれ、ハータスはゼクトに殺されたんだ。
殺した。そう、ゼクトはその時点で人間からかけ離れた何かになっていた。だから偶像召喚でも人間召喚でもないただの召喚で呼び出せたんだ。
もたれ掛るその体が委縮し、胸を掴んでいたその手にさらに力が入った。
「サカナは……サカナは殺したんです。多くのサカナを殺したんです。アナタを恨みたいけど……サカナも多くを殺してしまったんです。サカナは……サカナは……!」
弱弱しい。あまりにも小さい体。震えて、抱き締めたら潰れてしまいそうな弱さ。
だから僕は優しく包んだ。
「大丈夫。大丈夫だ。全部僕のせいだ。僕のせいにしたらいい。自分を責めるな。僕を責めるんだ」
「そうですヨ。ゴトゥディンのせいですヨ。殺してしまいたいほどに憎いです。けど見てくださいこの首輪を」
ゼクトは首にはめられたWRを摩る。
「アナタはサカナの主なんです。傷付けたくない」
この期に及んで彼女は主と呼んで慕ってくれている。それが枷となるなら。
「僕は主じゃない。復讐をしたいと言うなら僕はそれを受け入れる」
今の自分にできる精いっぱいだ。崩街で数え切れないほどの人を不幸にしてきた。一生をかけても償いきれないほどだ。
だけど目の前の少女の気を少しでも和らげることができるなら、この身を惜しみなく差し出そう。
「アナタを……殺したいほど憎いですケド。それ以上にもう誰も傷つけたくない。例えアナタがそう言おうとも……サカナはアナタの騎士です。アナタを守ります。一人ぼっちは嫌なんです」
「大丈夫。ずっと一緒にいるよ。一人ぼっちなんてしない。今、助けてあげるから」
もう一度彼女の頬を優しく撫ぜ、指を伝いディスプレイから必要な情報を取り出す。
彼女は復讐心と孤独心と己の使命に縛られてずっと苦しんできた。
君も醒めるんだ。長い夢から。
項目を握り潰し、ゼクトの体に残るわずかの力さえも消え失せて、彼女もまた、眠りにつく。




