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三極の機甲少女15

「ゲンジロウ……ゲンジロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」



 ゼクトはその巨体を大きく揺らしこちらに向かって走り出す。そう、彼女には前に進むしか道はない。怒りに我を忘れてこっちに向かってくる以外なんだ。


 いいさ。その行き場のない感情の全てを受け入れてやる。


 静かに槍先をゼクトに向ける。前に進みながら大きく腕が振り被られ、ゼクトの拳が槍先に触れる。そしてゼクトは静止した。


 言葉すらない。空間から切り離されたかのような空虚のような静かさ。そこにいるのに存在していないようにゼクトは静止した。


 僕は静止したゼクトをぐるりと見渡す。グルグが現界している限り刺された者は体どころか意識ごと時計の針が止まる。

 本当にこうなってはゼクトに何かできる手はない。僕の完全勝利だ。

 俗に言う試合に勝ったと言う奴だ。ただ、勝負にはまだ勝っていない。


 何でこんなにも残酷な使命を背負ってしまったのだろう。僕はギクスをゼクトに向ける。


 これは源次郎にとっての問答無用と無尽蔵。ギクスカリバーは人を斬るのではなく三立を斬る。斬られた三立は強制的に無効化される。三立を殺すための三立。対三立用三立兵器。それが『ギクスカリバー』だ。



「今から君をこれで斬り付ける。もし君が僕の偶像召喚で生まれた偶像の産物なら細胞の一つも残らずにも消滅するだろう」



 なんて言っても聞こえていないだろう。


 だけど違ったら。僕が呼びだした偶像でないなら、元からこの世に存在するのなら、竜の姿は跡形もなくなり人の姿に戻るだけ。


 大きく息を吸い、少しの躊躇いを抑えて僕はギクスカリバーをゼクトに突き刺す。


 それはまるで散り去る花弁のようだった。そう思わせるようにゼクトの装甲は柔らかく剥がれていく。そして、むき出しになった白のワンピースと白い肌、白い髪の毛を靡かせて、倒れ込んでくる。

 僕はその重たい体躯を支え、体勢を崩しながらも受け止める。



「おめでとう。君は偶像なんかじゃない。本物だ」



 こんなにも小さい身体なのになんて重たいのだろう。

 物理的な重さだけでなく、巨大な何かを背負っているような重さだ。


 胸に収まったゼクトは弱弱しく、服の胸を掴んでくる。



「何で……何でアナタが源次郎何ですか……! 何で……!」

「君が源次郎をそんなにも恨んでいるかは知らないけど、それはきっと正当な感情だ。言いださなかったことを謝ろうとも思わないし、許してほしいとも言わない。ただ、僕は君を救うだけだ」



 だからもう、終わりにしよう。

 優しくゼクトの頬を撫ぜ、ディスプレイを展開する。その情報を読み取り、彼女から今日のこと、出会いを全て消し去る。

 

 始原情報は相手の歴史、情報を検索して読み取る共通能力がある。便利だけど、知ろうとしないものは知らないままの力だ。


 だからこそおかしかった。

 ディスプレイを開いたのはいいがおかしい。展開されたディスプレイに表示されるのはエラーの文字。ゼクトの情報が読み取れない。


 そう言えば静がゼクトの情報がめちゃくちゃだとか言っていた。


 だったらもっと奥まで覗き込むまで。

 狭き門をこじ開けるように、無理やり道を作り奥へ奥へと覗き込み……そして知ってしまった。


 ゼクトとは何者か。犬吠逆名の関係は何なのかを。



『今より犬吠逆名、ネクスト・プライマルの四十回目を開始する』

『これで四十回目。ごめんね私。生まれたばかりなのに叩きつぶされるようなことになって』

『嘘……! 何で、私と同じなのに……何で違うの!』

『犬吠逆名のオリジナルが消滅! プログラム内にいるのは一人だけです!』

『構わん。オリジナルとて負ければ淘汰される存在。ハータス様に伝えておけ。イレギュラーが発生したと』

『身体の調子はどう? それにしても名前がないと不便ねぇ』

『オリジナルとのシンクロ率は091.0%です。いつもは098.8%なのですけど』

『私はハータス。お前が逆名のオリジナルに勝ったと言うクローンか』

『オリジナルとの一番の違いはアルビノの体質のようです』

『名前はないのか? なら名づけよう』

『お前の名前はシンクロ率からとってゼクトだ』



 脳に流れ込んだ情景。息も着かないまま次の情報が流れ込む。



『さあゼクト。今日もネクスト・プライマルに行くわよ』

『やめて……これ以上は……痛い』

『今日で二百回目。随分と立派なものになったものだなゼクト』

『何でオリジナルでもないアナタなの? 何で偽物の糧にならなきゃいけないの』

『犬吠逆名ってどんな存在かって? 将来皆を幸せにする存在だよ』

『ゼクト! 貴様勝手に調べたな! ネクスト・プライマルを知ってしまったな!』

『大変です! プログラム内のゼクトに異常事態が発生! このままだとプログラムがパンクします!』

『やめてゼクト! 何でこんなことするキャァー!』

『その姿は何だゼクト? まるで……竜じゃないか!』


『ここは……どこですカ? 狭い部屋に……女? いや、男の人が寝ている?』



 すべての情報が流れ込み、全てを知ってしまった。

 ずっと気になっていた。人間召喚は不可能。偶像召喚も以ての外だった。なら残った選択肢は一つだけ。


 ゼクトは人間じゃない。人間を辞めていたんだ。

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