三極の機甲少女14
「ゴ、トゥ、ディィィン……!」
這寄るような声だ。それでも僕の名前を呼んでくれるのか。
「ゼクト……こんな目に遭わせたのは僕の責任だ」
巨腕は振り被られる。その動きは豪快で、とても遅く見えた。巨大な体躯のせいで相対的に動きが遅く見えるのか、それとも体感するリアルな死への感覚のせいか。それは分からなかった。
余裕を持って避けられたわけではない。体を投げ出して、上手いこと体を転がして、一瞬の判断で最大限遠くまで逃げることができた。
間一髪、爆撃のような攻撃から何とか逃げることができた。
叩き付けた拳の所はまるでクレーターのような跡ができている。つまりその衝撃波は並大抵のものではない。僕の体を意図せずにさらに転がり、無数の切り傷を作り出す。
肺の空気が外気に触れる。痛い。言葉にもならない。とてつもなく痛いと言う言葉だけで全てが完結する痛み。
だけどこれは受け止めるべき痛み。罰を受けなくてはならない痛み。そして救わなければならない痛みだ。
「ゴトゥ……ディイイイイン」
「何だい。そんなに僕を呼んで。と言うか腰痛い」
「サカナガ……マモルゥ……アラユル……ガイアクカラ……マモル」
ああ、君は純粋だ。なんて純粋なんだろう。
そんな姿をして、片足だけとはいえ机上の空論の沼に支配されてもなお、その言葉が出ると言うなら、君の想いは本物だ。
まあ護るどころか傷付けられているけど。
護るなんて、何でそんなよくもわからない使命をかたくなに守ろうとしているかなんて知らない。だけど何でそんなに悲しそうな声を漏らしているんだ。護りたいのに傷付けているからか。その二律背反に葛藤しているのか。
大丈夫だ。今助ける。
膝が笑っている気がする。それでも僕は立ち上がる。
そう、奥の手を使う。
僕は手のひらに小さな球体を作り出す。
これこそが天童源次郎の真骨頂。誰のものでもない、己だけの召喚陣。
球体は肥大化し、直系にして二メートル、僕の身体がすっぽり入るほどの大きさになる。
それを無理やり圧縮し、圧縮し、小さな手のひらに収まるほどに圧縮する。手のひらで押しつぶし、ぎゅるりと捻り回し、両手を真横に広げる。圧縮され、捩じり回された球体は細長い棒状の形に引き伸ばされる。それを限界一杯、伸びきったところを、掴む。
陣と呼ばれていた棒状のそれから一本の槍が取り出される。これが僕の、天童源次郎の最高傑作の一つだ。
「グルグン・ザ・グルグニル。これは君を『さす』ものだ」
捻じり巻かれた装飾の槍の先をゼクトに向かって『指す』。これがグルグの第一段階。
「グウルルルル……! グッ、ウゥ!」
「やりづらいだろう? 動けないだろう? なんたってグルグに指されたんだからなぁ。グルグン・ザ・グルグニルは魅了の魔槍だ。グルグに指された者はその艶美なフォルムに魅了され余所見も、遠のくこともできなくなる。君はすでにグルグの虜だ」
ゼクトはもうは僕から離れることはできない。
後ろに動くどころか横に動く事すら不可能。ゼクトの機動はグルグに向かってのみ。
こっちに向かってくるのは危険なんじゃないかって思うかもしれないけど、グルグの能力はそれだけじゃない。
それに、もう一つ。
「螺旋陣」
残った右手をネジのように回転させ、腕の周りに帯状の陣を二重螺旋のように展開する。陣の中心を引き抜くように腕を引き、その手に握られた端麗で流麗さを感じさせる両刃の剣。もう一つの最高傑作であり、天童源次郎の象徴ともいえる。最高傑作の偶像。
両刃にシルバーの装飾が施されたこの剣の名は、
「ギャリリ……ギャリ……ギャ……ギ、ギギ……ギクス、カリバー?」
「そんな姿になっても流石に知っているのか。まあ三立に携わってこれを知らなきゃ完全にモグリのニワカだからな。ならギクスの能力も知っているだろう。もっとも残酷な結末かもしれないことを、先に言っておく」
彼女が人間かどうか。
ただ人間なのに何かの拍子で召喚されたのか。または偶像の産物なのか。それとも、最初から人間ではなかったのか。
ギクスは真実を示してくれる。
「ギクス……グウゾウ……ホウガイ……ゲンジロウ……! キサマガゲンジロウカァアアアアアアアアアアアアア!」
ゼクトの体表におびただしい数の幕放電が発生する。幕放電を掴み、槍のようにしてこっちに投げてくる。
だから無駄なんだよ。どうあがいても君の意識はグルグに向けられている。グルグに向かってしか投げられないんだ。
僕は静かにグルグを掲げる。雷の進行方向が槍先に変わり、雷槍と触れ合った瞬間、時間が止まったように雷槍は静止した。これがグルグン・ザ・グルグニルの第二の能力である『刺す』力。
グルグはあらゆるものを魅了する。この槍先に刺された全てはあまりの緊張にその身を強張らせる。それはエネルギー体である雷すら範囲内。
君はもう僕から遠ざかることもできず近寄るしかできない。槍先に触れられて動きを止めるだけだ。
僕はゼクトに近寄る。恐怖がないわけではない。だけど救うべき子から遠ざかるつもりなど更々ない。




