三極の出会い4
「まあこれでも飲んで。お互い腹を割って話し合おう」
「粗茶ですな」
「君が言うのか」
実際スーパーで買った特売のペットボトル飲料だから粗茶と言えば粗茶なのだが、真っ向から言われるといい気はしない。
だが耐えろ。今は我慢だ。大切なのは彼女が何者か。もし変なことを口走ってみろ。出方次第で速攻で追い出してやる。路頭に迷えばええんや。
「君は……サカナでよかったかな」
「いえ。サカナの名前はサカナではありません」
まさか一つのセリフの中でここまでわかり易い矛盾を言い渡されるとは思わなかった。どういうことだ? 僕の聞き間違いじゃないか? 自分自身の耳を疑ってしまう。
「えっと、君は今自分のことをサカナと言ったじゃないか。なのにサカナじゃないと言うのか?」
「サカナは自分のことをサカナと呼んでいるだけです。ゴトゥディンの言う僕みたいなものですヨ」
サカナ……サカナが一人称なのか。珍しすぎる一人称だぞ。私とか僕とか俺とか、よく聞く一人称じゃなくてかつ、自分の名前でもないなんて。サカナなんて一人称、どこの界隈でも聞いたことがない。
かなり特殊な育ちなのか。それとも魚に憧れた結果自分をサカナと自称するようになったのか……考察するだけむなしいもんだ。
「改めまして、自己紹介をしますネ。サカナの名前はゼクト。これからゴトゥディンのために尽くす騎士の名です。よろしくお願い頼みます」
「これまたぶっ飛んだ自己紹介だな……ゼクト? ゼクトって……ずいぶんかっこいい名前だなオイ! 女の子の名前には聞こえない。いや、外国では普通なのかな。えっと僕はて……主人公。主人が名字で名前が公式の公で主人公。君に負けず劣らず珍しい名前ダロウ? ところで君のその、ゴトデンと言うのは何なんだ? 騎士っての言うのは流石に冗談だろう?」
「ゴトゥディンはゴトゥディンのことですヨ。ゴ・トゥ・ディ・ン♪ 騎士は本当です。サカナは騎士です。信じられないというなら今証拠を見せましょうぞ!」
そう言うとスクっと立ち上がった。ゼクトは大きく深呼吸をしてギュッと手を握り拳を作り、両腕で円運動を開始した。
円月殺法でもやろうしているのか。ちょっと興味あるな。
「ずぃーん……せいっ!」
ビシィっと左手を十時の方角に突き出す。静寂が部屋の中を包む……え? 証拠ってライダーポーズをとるだけ? それだけ?
「よいしょっと」
しかも当たり前のようにまた腰を下ろした?
「……何今の」
「どうですか? これでサカナを騎士だと認めたのではないですかな」
どうですかって聞かれても、今ので何を認めろというのだろうか。完全に脳が思考することを拒否している状態だぞ。
「……分かった。じゃあ今から僕の言葉を復唱するんだ。それをしてくれるなら、僕は君を騎士と認めよう」
「復唱? その言葉に何か騎士的な意味でもあるのですカ?」
「意味ってより、契約みたいなものだ。じゃあ行くぞ。ゴホン……学級文庫」
「学級? 文庫? 何ですカそれ?」
「ダメだ! ストップ何をやっているんだ! 復唱だ、ふ・く・しょ・う! ほらもう一回。りぴーと、あふたー、みー。学級文庫」
「あ、はい! 学級文庫」
「もう一回! 学級文庫!」
乗ってきたノッてきた! そうだこのまま言わせ続ければ……自己満足する!
「学級文庫!」
「ラストォ! 学級文庫!」
ゼクトの口が開かれる瞬間、僕は身を乗り出しゼクトの口元に親指を引っ掻けて両側に引っ張った。
「学級う○こ!」
その言葉は高々と部屋中に響き渡った。
快……感。
「良しオッケー! 完璧! 大・満・足! 認めよう! 君は騎士だ! 誰が何と言おうとだ! それこそ! 円卓の騎士に並ぶほどの騎士だと僕が保証しよう!」
「おお、その曇りなき感情の躍動! 分かりますヨ。サカナは認められた! ゴトゥディンに認めてもらえて、サカナも大満足です!」
互いに喜びを大いに叫び合う。身振り手振りも大げさに体全体で喜びを表現している。
だけど多分、下心とかそう言った純粋さの方向は真逆だと思う。
「よし! もう朝ごはんの時間だ! でも作ってる時間無いから、備え付けのバナナがある! さあ、君にあげようバナナ! 僕はきゅうり食べるから君はバナナ!」
「ありがとうございます! なんだかとても楽しくなってきました! でもサカナはお腹あんまり空いてないんで、お腹空いた時用にとっておきますネ」
バナナを手に取ったゼクトは流れるようにワンピースの襟元を引っ張り、バナナを突っ込んであたかも『収容』するように仕舞い込んだ。
え? 胸元にバナナを仕舞うの? その異常すぎる光景に上がりっぱなしだった僕のテンションは正常値まで落ち着き、変な冷静さを取り戻すことになってしまった。
いざ冷静になってみると、自分の取った行動のあまりの滑稽さにちょっとした恥辱すら感じてしまう。




