三極の機甲少女10
「待て! その必要はない。あいつはもう襲ってこない。襲ってこないようにしたから大丈、」
「アームズアップ-ゲッチャーブレード『レイバー・デイ』!」
ゼクトは首の後ろで結わいだ髪の毛を解き両結びになる。結わいでる二つの髪の毛を両手に結合させ、手のひらから伸びるつららのような剣を喉元と腹に突き付けてきた。
「……あのさぁゼクト。巨大なつまようじを手から生やして僕に突き付けないでくれるか」
「サカナがアナタを護ります。そのために一切の妥協もない。寝ているならその寝首をかきましょう。正々堂々を盾に事を為せないこそが悪。もしサカナの邪魔をすると言うなら、アナタとて容赦しません。全てはゴトゥディンを護る為です」
おかしい。その理屈はおかしい。突き付けられた切っ先に迷いがないのも十分におかしいけど、目的のために目的を排除しようと言うのか。
主を謳っておいて刃を向ける。典型的な自己中心的な思考だ。
「君はご主人様を護るためにご主人に刃を向けるのか? 君にとってご主人様ってのは誰なんだ?」
「アナタです。ですから邪魔しないでください。サカナはアナタを傷付けたくない」
おそらく、護るって考えは本物なのだと思う。だからこそ傷付けようとしてきたカミ子をこうもしつこく排除しようとしている。
それはダメなんだ。目的を非情にまで完遂しようとすればするほど主の機嫌は悪くなる一方なんだ。
だけど、それでもゼクトは目的を完遂するために動くだろう。
それこそ今言葉にした通り、主である僕を傷付けてでも。
なら、暴走する馬にの手綱を引くのが主の役目だろう。その考えに全力では向かってやる。
「なるほど。その眼。どうしても邪魔をするんですカ。それでは仕方ありません。聞き分けのない主を正しき道に導くのも騎士の役目。少しだけ、痛い目を見てもらいます」
突き付けていた刃を収める。あれ? それで斬り付けるとかじゃないのか。
ゼクトは校舎へと近づいていき僕と一定の距離を取った。
「トランスフォーム-リ・ゲッチャーブレード『ボルト・スタディオン』」
髪の毛が右手に絡みつき身の丈の程の巨大な銃に錬金した。武器に成ったアームズアップとも雷撃を作り出したエネルギアとも違う。
トランスフォーム。変形だ。まるで体そのものを兵器へと変形させたような錬金術だった。
「かっこいいなぁ。男のロマンを体現してるみたいだ」
「ゴトゥディンには先に言っておきます。トランスフォームはアームズアップの武器をエネルギアの電気エネルギーを利用して高性能な武装へと昇華したものです。ボルト・ステディオン。装填した物体を高速で撃ちだすコイルガン。カミ子の鉄円柱を参考にしたんですヨ!」
校舎の壁を蹴りつける。壁は抉れ、コンクリートの大粒がガラガラと瓦解する。と言うか今、素手でコンクリの壁を壊したのか? その時点で人間じゃない。
ゼクトは大粒のコンクリートのかけらを手に取り、銃口に詰め込む。バチバチと音を立て、銃口をこちらに向けられる。
僕は反射的に地団太を踏み、地面に割れ目を作る。
天童源次郎のオリジナル陣、境界陣は偶像召喚にうってつけだ。境界と言うこの世とは違う所から召喚すると言うニュアンスが実に良い。
歯車が噛み合うような感じが実に偶像を生み出すのに最適だ。
境界陣を作り、呼び出すのはもちろんユーフォリムス。僕は足元から浮き上がり一気に上昇する。
銃口から撃ちだされたコンクリートだったそれは音を置き去りにして校舎の壁に突き刺さり、バランスを崩した校舎の一部は音を立てて瓦解した。
「ひょえ~。あんなの当たったらひとたまりもないぞ」
カミ子に負けず劣らずのとんでもないな。いや、物量のカミ子に比べて一撃の重さがゼクトにはあると言ったところか。
物量とリーチの差でカミ子の方が強いと思っていたけど、人知を超えた人間兵器になりつつある。自分から内面だけでなく外面まで人間ではない何かに向かっているようだ。
腕そのものにはめ込まれた機械がそれを物語っている。
そしてそれが彼女の思う強さなのだ。ゼクトはそれを望んでいるから体を兵器へと変貌させている。
人間を捨て、強さを追い求めるような姿。だからこそ確かめなくてはならない。
彼女が本当に人間なのかどうか。
「トランスフォーム-リ・ゲッチャーブレード『デンジナガル』!」
声の方向。すぐ真横だ。目をやると……うわぁ、壁を走ってるよ。
壁を駆け上がり、同じ高さまで来たと同時にこちらに飛びかかってくる。
「普通に壁を駆け上がるのか。人間離れが早すぎる」
忍者か何かかと思いもしたけど、忍者にしては重装備過ぎる。
その手は最初に見た鋼のガントレット。ただしやけに豪奢なブースターのようなものが付属している。明らかに噴射による攻撃性の向上だろう。
けど、当たらなければ意味はない。
言現。その使い手は世界広しと言えどそうと居ない、誰もが憧れる呪文であり致命的なの弱点もある。
それは言葉にしなくては発動しないことだ。言葉にしたら、何の三立を発動するかなんて丸わかりだ。
と言っても、そんなの今みたいな闘いの中での弱点であって普段は闘うなんてことはまずない。
あってないような弱点だけど、今に至っては致命的な弱点だ。




