三極の機甲少女9
「なんだ……これ」
僕は今、ゼクトの下へと向かっている。
向かっていると言っても、僕は彼女がどこにいるかは知らない。もちろん最初にカミ子と戦ってもはや原形をとどめていないグラウンドに足を運んだけどすでにもぬけの殻。
というわけで僕は当てもなくゼクトを探しに回っていた。
ゲンガーのやつとどこかでお話しているのか? もしかしたらゲンガーのやつ、僕の姿を利用していやらしいこと、もといバカなことをしているのではないのだろうか。
何て思っていた自分自身をバカと罵りたい。
校舎に降り掛かっている血痕。飛ぶ先々で横たわる肉片。あからさまに違う異様な雰囲気。
これらの肉塊は渡した偶像召喚の一部だ。嫌な予感がプンプンする。僕は肉片の目印を頼りに二人の足取りを追う。
「これはヘカティオンの上層鎧……ゴーレムパレスの腕装……うっ! ジャウアヴォグの指まで……! どうなってやがんだよ」
身に秘めた嫌な予感が前に進むごとに増大していく。何があったんだドールゲンガー。
そして目的の人物は思った以上に早く見つかった。
そこは第一校舎と第二校舎に挟まれた中庭。体中に青あざを作り、頭部から血を流して、見る限り無傷と言えるところがないほどに傷つき、足を引きずるドールゲンガーの姿。
あまりにも痛ましいその姿。僕は、間違った判断をしたのかもしれない。
「ふ、ざけるなマスター。話が違うじゃないですか。彼女は……彼女は……!」
景色が断絶した。目の前で立っていた自分の姿が一瞬で潰れた。これは比喩表現などではない。
空から降ってきた巨大な分銅のような巨大な鋼のオブジェ。それが一瞬のうちにのしかかり押しつぶし、文字通りすり潰したのだ。
分銅と地面の隙間から流れ出る引きずった血痕の後と鉄の臭いが僕の悪心を撫ぜる。
口を押さえてその場にヘタレ込む。むせかえるような臭いと自分自身の姿をしたドールゲンガーが潰されて、嫌にも自分を重ねてしまう。
「戻れ……ドールゲンガー」
血痕の後は何もなかったように消え去る。
WRを破棄することで偶像は消すことができる。破棄されたWRは一時的に僕の脳内に保管されることになる。
つまり僕が召喚した偶像はいつでも消し去ることができるんだ。逆言えばこれができなければボクが召喚した偶像ではない、できないからこそゼクトは偶像召喚で召喚されたのではないと思ったんだ。
だけどこの惨状。ただの人間が、僕の偶像をこんなにも惨殺することができるなんて思えない。
そう、思いたかった。
「あ、ゴトゥディン! どうしたんですカこんなところで」
膝をつけて地面を見ていた時、上から声が聞こえた。
分銅の上。ちょうど突起の部分から足と結合し、立っているゼクト。これも武装錬金の一部なのだろうか。もはや武装ではなく武器そのものではないのだろうか。
ゼクトは分銅を解除したのか、一瞬で分銅は消滅し、飛び降りて同じ目線まで降りてきた。
僕は声を荒げ、問いかける。
「何で、何で僕を殺した! 主なんだろ? 何で今、僕を押しつぶしたんだ!」
「何を言ってるんですカ? 今ぶっ潰したのは偽物じゃないですカ」
「偽物……! 違う! あれは僕だったのに君は!」
「偽物ですヨ。匂いも、雰囲気も口調も違う。なにより本物のゴトゥディンなら護ってほしいなんて言わない。ゴトゥディンはそんなことを言う弱い方ではありませんので」
僕は押し黙った。その言葉は的確に僕を表している。
確かに……言わない。僕はずっと護られるのはごめんだと言い続けた。カミ子に襲われている状況でさえ護ってほしいとは一回も言わなかった。
そして僕自身、護ってほしいなんて決して言わない。
短い間でもゼクトは人をよく見ている。
それよりとにかく、今は話を切り出そう。
「ゼクト。もう僕を守らなくていい。守る必要はなくなったんだ。カミ子はもう僕を狙わないんだ」
「何故ですカ?」
「カミ子に勝ったからだ。もう僕を傷付けることはない」
「勝ったって、そんなわけないでしょう。ゴトゥディンの軟弱さはサカナが身をもって知っていますので」
こいつ、僕のことを信用していないな。
まあいきなり勝ったとか言われて信用できないのは無理ないか。
「それなら彼女は今どこにいるんですか?」
「どこって保健室で寝ているが……待て。どこに行く気だ?」
居場所を伝えると同時にゼクトはどこかへと向かい始めたので呼び止める。
「もちろんカミ子の所です。まだ生きているんですヨネ? 息の根を止めない限りあの者はゴトゥディンを狙うでしょう。だから殺しに行くんです。あの首を刈り取ってあなたに献上しますヨ」
ゾクン、とまるで背中と服の皮膚の隙間に日本刀を差し込まれたような感覚。混じりっ気のない、護る為の殺意。
僕のために害ある物を殺すこと。彼女にとってそれが正義なのだと聞いて取れてしまった。
行かせてはならない。僕は急いでゼクトの前に立ちふさがる。




