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三極の機甲少女7

「何なのこれ? 何で手を握って」

「『我業(がごう)の現言』」



 カミ子は訳も分からない様子でえ? と間抜けに言葉を漏らす。



「僕の三立の一つだ。能力は単純明快。僕の言葉に付き従うようになる。ただそれだけ」



 嘘。そんなの嘘に決まっている。そんな三立僕の中に一縷にも存在しない。


 これは言ノ葉錬金の応用だ。言霊の力を使って願望した三立を創り上げた。もちろん現言として口にはした。けどカミ子に聞こえることなんて無い。なんせ土の中で現言を行ったのだから。


 もちろん、無色透明の龍に嫌われているせいで言ノ葉錬金を使うとすごく痛い。土の中で悶えながらそのまま土葬されるんじゃないかってくらい痛みを感じていたけど、今となっては過去の出来事だ。


 今は新しいおもちゃを使ってカミ子で思いっきり遊ぶことにしよう。



「ただ手を握るだけじゃ、つまらないよな。しゃるうぃーだんす?」

「しゃる、だんす? うわっ!?」



 茶化す様にステップを踏む。カミ子は何の抵抗もないまま為すがまま。糸繰されたマリオネットかの様に僕のステップに呼応して踊ってくれてる。



「ああ、何と言う至福。可憐な少女とダンスを舞える。僕は果報者だ。世界で一番の幸せ者。君はどうだい? 僕と踊れて、いい気分かい?」



 聞いたって、まあ返事はおおよその見当はつくけど。



「くっ、アンタに操られて踊るなんて……屈辱! こんなの、死んだ方がマシ!」

「ああ酷い。何て言い草だろう。僕は悲しい。こんなにも君と踊れることに幸福を感じているのにそれを分かち合うことができないなんて」



 実際幸せを感じているのは本当だ。

 さっきまで戦々恐々と戦っていたのに、今はこうしてあのカミ子と踊れているなんて、いやぁ十五分前までは考えられなかった。

 今までの当てつけ的な意味でも幸せだ。


 もちろんカミ子は納得できないご様子である。



「コロス……絶対コロシテやる……!」

「ちなみに言うと、我業の現言には発動条件があるのが面倒なんだ。条件は『自分に屈服した相手にしか使えない』だ。つまり、君は心の底では俺に勝てないと思ってしまっているんだよ」



 これは本当だ。込められた言葉に意味や役割があるように、我業の現言という三立には込められた能力がある。

 本当は無条件で従わせるように設定しても良かったけど、そう言う設定を付け加えるからこそ、カミ子は僕に負けたと思っているのがわかる。


 だからこそ愉悦。彼女がこうにも付き従ってくれると言うことは負けを認めているから。ああ、何とも、心地の良い感覚だ。一人の少女を、自分の支配下に据え置くような感覚だ。

 

 負けず嫌いの少女が表立っては負けを認めていずとも、心の底では負けを認めていると言う内心を覗けてしまうのは何とも痛快なのだろう。


 気付けばカミ子の表情も絶望に染まったものになっていった。




「そ、そんなわけない! アンタに負けを認めたなんて! そんなの絶対にありえない! 私は負けてない! アンタを絶対にたたきつぶして、」

「あり得ないことはないんだ! これは純然たる事実。君は負けたんだ。さっきの猛攻で僕が立ち上がって、君は思ったんだ! ああ、こいつには勝てない、と! それもまた純然たる事実! 認めるんだ。屈服した自分の本心を!」

「うるさい! 絶対に認めない! 私は無色透明の龍の、天童源次郎の後を継ぐ! そのために同じ想像召喚の枝分かれを習得したんだ! 皆のために、こんなところで負けるなんてのは許されない!」



 ブチン! 確かに聞こえた。僕の中で分千切れる何かの音。


 カミ子の言葉は有頂天で浮かれ切った僕の心の糸をぶち切り、青筋を立てるに相応のブローだった。その言葉だけはダメだ。

 

 皆のため? 誰が頼んだ? 誰が望んだ?


 ステップを止め、強引に手元に引き寄せる。



「きゃ、何をする!」

「螺旋陣」



 僕は右手を横に突き伸ばし、ある物を召喚する。

 それを摺り寄せたカミ子と僕の体の隙間に突き刺し、カミ子の眼前に置いて見せつける。



「嘘……何でアンタがそれを? 螺旋陣って確か源次郎のオリジナル陣で、もしかしてさっきのユーフォみたいなのって」

「ああそうだ! 俺が天童源次郎だ! 俺の遺志継ぐだ? 傲慢なんだよトンチキが! 誰に向かってものを言ってんだ? 無色透明の龍を正しい方向に導く? 無理に決まってんだろ!」

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