三極の機甲少女6
その言葉が口火を切ったのか、カミ子の攻撃は吹っ切れを見せた。
「いいわよ。やってやろうじゃない! 死んだって、後悔するなよ!」
指先だけに敷かれていた陣があふれ出す水のようにカミ子の前に大量に出現する。
その数はいくつか。数えても数えても、際限なく出現する陣に数の把握なんて不可能だった。
「一斉掃射! モルド……ダイレル!」
止め処ない、荒波のように鉄円柱が飛んでくる。腕だけではない。胸、足、腹。ありとあらゆる場所に撃ち込まれる。
「グバ……あァ!」
視界は黒く塗りつぶされ、もはや立っていることすら困難。と言うより弾丸が僕を立たせていると言ってもいいくらいだ。
痛い、なんて感覚すら塗りつぶされている。どこが足でどこが腕かすらも認識がおぼつかない。
だけど、どれだけ撃ち込まれても、頭だけは守らなければならない。そう頭さえ、思考さえできれば何とかなる。
頭を守り切れるか否かがカミ子に対しての作戦の成功を左右するんだ。
「これで、ラストォ!」
もはや感覚のない両腕を使って何とか頭を守ってきたが、真下からの弾丸が撃ち出され僕は顎ごと真上に勝ちあげられる。
腰が砕け、膝が曲がり、空を見上げる形で倒れ込む。
そして倒れ込むその途中で目に入った、空に敷かれた巨大な陣。あの大きさゆうに五十メートルはある。まるで天蓋のような召喚陣だ。
あの大きさ。隕石にも劣らない質量の鉄円柱を召喚するのか。カミ子は俺を消し炭にするつもりか。この一撃でケリをつけるつもりか。
思考しろ。ここが決着の全て。天下の分け目だ。
その間、僕は決して笑みを絶やさない。目の前にコロナを落とされても決して目を逸らさない。と言うより体中の骨と言う骨がブチ折られているせいで動きたくても動けない。
まさにまな板の上の鯛と言う奴だ。
そして、直系五十メートルの鉄円柱は召喚され、巨大すぎるせいでゆっくりと感じられる射出に今までにない音を立てて、落ちた。
トラックは無残にも形を変え、衝撃波が一帯を薙ぐように発生し、カミ子自身体を屈めてその場から飛ばされないように必死で踏みとどまっている。
次第に衝撃は落ち着き、カミ子はトラック突き立てられた鉄円柱にゆっくりと目を向けた。
「……勝った。これで、私の汚名は消える。やった。主人公に勝った……! 勝ったんだ……! 私は……誰にも負けていない!」
勝利の咆哮ともいえる絶頂の叫びが大きく響き渡る。本当に歓喜に満ちて、事を為したことへの喜びを体全体で跳ねることで表している。
ああ、なんて滑稽なんだろう。その喜びに水を差すことが、何よりも楽しみだ。
そう、僕は死んでなんかいない。
「そうだ……君の勝ちだ。汚名返上おめでとう、カミ子」
勝利の美酒を堪能するカミ子に水を差す様に僕はゾルリと鉄円柱の着弾地点周辺の地面から這い出る。
本当に死ぬかと思った。だけど死んでいない。
消滅情報。今まで負った傷、そして五十メートル級の弾丸を喰らえば普通は死ぬが、その死すら消去して僕は無事だった。
言ってしまえばカミ子の再生情報の真逆。あっちが怪我した前の状態を再生するなら、僕のは怪我をした結果を消滅させる。
「さぁて、カミ子の表情はと」
驚きを隠せない驚愕とまるで人外を見ているような、畏れをも思わせる表情。
いい表情だ。何とも爽快な気持ちにさせてくれる。
「な、あ、アンタ! 今の受けて、動けるなんて」
「はっ! 本当に人を殺せる攻撃をされるなんて思いもしなかった。だけど君は勝った。僕を倒した。おめでとう! 君は使命を果たした。有言実行。事を為した。最高の賛辞を君に送る! 祝福しよう!」
「勝ったって、アンタ……傷が治って? 何で!?」
何でって言われてもなぁ。そう簡単にネタ晴らしするつもりもない。
徐々に僕の口調は饒舌になる。
消滅情報は基本的に生物に対しては弱った相手にしか発動しない。しかし自分の身体なら話は別だ好き勝手に消滅させることができる。
ただ、やみくもに消滅させてはいけない。自分が自分自身でなくなるのと、もっと恐ろしいことが起きるからだ。
「嘘。そんなわけない。私の全霊を撃ち込んだのに」
それでいい。動揺しろ。今度はこっちが反撃だ。
大丈夫。傷付けるつもりは更々ない。無血制圧。それが僕の目標。
だけど、今から僕はすっごい痛い思いをする。なんせ僕を嫌っているやつ、言ノ葉錬金の力を使うからだ。
さぁ、こっちが責める番だ。ただし傷つけるつもりはないから攻撃じゃない。暴力ではない、友好を用いて攻撃する。
「さぁカミ子。復讐劇を遂げた君に激励の拍手を送り! ぱちぱち! そして礼節を弁えながらも握手を迫ろう! お願いします!」
「だ、だったらもう一度撃ち込んで……あれ?」
差し出した手にカミ子は友愛を込めて握り返してくれた。
実にきれいな手だ。さっきまで粉塵が立ち込めていた中で闘っていた張本人とは思えないほど柔らかくてしなやかな、女性的な手。ネイルとかしたら映えるだろうなぁ。
手を取ってくれてありがとうカミ子。だけどカミ子自身、何で何でと不思議そうな顔をしていた。




