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三極の機甲少女5

「逃げる? バカ言ってんじゃない。物事には順序ってものがある。アンタに勝つにはゼクトって言う障害が邪魔をしてくる。壁を完膚なきまでにたたきつぶした後、言われるまでもなくアンタをぶっ潰してあげる。それまで待ってなさいって事」



 つれない言葉を言ってくるな。だけど逃がすつもりはない。



「でもその邪魔は今ない。そして僕がやる気を出して決着をつけようと言っているんだ。君と僕の、たった二人でだ」



 挑発するんだ。興味を僕に向けさせるんだ。



「その口調、随分とプライドを取り戻したみたいだな。さっきまでしっぽ巻いて逃げてたのが嘘みたい」

「見たらわかるだろう? 僕が乗っているこれ、何だと思う? UFO。ゆー・えふ・おー。ごめんだけど嘘をついてた。底辺なんて嘘っぱちだ。切り札は……取り戻した。君と決着をつける準備は整ったというわけだ」



 恐怖なんておくびにも見せない。見せるつもりなんかない。恐れる要素がどこにあるか。いや、恐れる要素は多々あるにはあるけど。

 睨み付けてくるカミ子。今までなら逃げなきゃ逃げなきゃって内心で喚いていただろうけど、今は僕の為すべきことを為すという目的のみが渦巻く。


 腰を据えて、睨み返すこともできる。



「確かに、アンタのその眼。さっきまでの怯えた獲物の目じゃないな。本当に、私との決着を付けようって眼だ。分かった。決着を付けようじゃない」

「なら下に降りよう。この先にある陸上のトラックフィールド。そこの開けた空間でケリを付ける。それでいいか?」

「上等。ついてきなさい」




 カミ子はまた踵を返し、向かおうとしていた方向に鉄の箒を召喚し、またがって先行する。


 もともと見えていたフィールドがちょうど真下にある。僕はユーフォリムスに指示を出してゆっくりと降下する。

 カミ子は足場が付属した細い鉄円柱を真下に向けて召喚し、エレベーターの要領で降りていく。

 お互い地面に足を付けて、退治する形になる。


 ああ、本当に今から決着をつける。そんな雰囲気が空間を支配していくようだ。

 のどを通る生唾すら、とても大きな存在感を持っているほど、辺りに緊張の糸が張り巡らされた。



「さぁて主人公……アンタ、ゼクトとの闘いを邪魔してまで私と決着をつけたいって言うのなら、どうなるかわかってんだろうな」



 ドスの効いた言葉。それだけで人を殺せるような重圧感がある。

 しないだろうけど、実際こいつはもう文字通り指先一つで人を捻りつぶせる力がある。怖いものだ。彼女がこちらに手を向けただけで人は死ぬ。

 その様は魔法使いと言うよりもはや超能力者だ。


 僕との決着をつけることができる喜びの半面、邪魔をされて怒り心頭気味のカミ子を前にして、僕はおそらく世界最大の個人武力を持つカミ子を目の前にしても、自然と落ち着いている。

 この緊張がいい状態を作ってくれているのかもしれない。


 僕は大きく息を吸って、吐く。



「僕たちの邪魔をしてきたのはゼクトの方だろ?」

「……それもそうだな」



 先に止めるのをゼクトではなく神子にしたのには理由がある。

 問題解決のための魔法の言葉があるからだ。と言ってもさっきからもうすでに口にしているけど。



「決着を付けよう。今度こそ。真正面からぶつかって」



 カミ子にとってそれが全てだ。

 負けた事実をもみ消せないなら挽回する。もみ消せないならそれを上回る勝利で目立たなくする。心底から完膚なきまでにたたきつぶすと言う思考があるはずだ。


 今ここにゼクトはいない。したがって邪魔されることはない。


 ゼクトのこともある。いらない遠回りはせず、もったいぶらずに速攻でカミ子との因縁に決着をつける。



「……さっきまでベソかいてたアンタが本当に言うようになったな。そのユーフォと言い、三立を隠してたんだ。手加減……してたってわけ?」



 遠目でもわかる。青筋立ててピクピクとご立腹の様子が。火山火口の目の前に立って、あ、これ噴火するな、と見てわかる地雷だ。


 ああ、愉悦。

 余裕が出てきたからこそ思い出してきた。

 こいつとはこの一ヶ月間。弄り弄られの関係を繰り返してきたんだ。この感覚。あえてカミ子を怒らせてその様子を見ながら逃げ回っていた時のことが脳裏に浮かぶ。



「そうだな。可愛そうになってきたんだ。いつまでも僕に踊らされ続けて。本当に滑稽だった。三立を隠して弱いふりして、それをばらした時にどんな表情をしてくれるか。最高の表情だ。本っ当にたんまんなぁいなぁ。キャピ☆」



 見開かれ、鋭く斬り付けるような眼光。拳銃を模した手をこちらに向けられる。


 良い展開だ。それを待っていた。僕は受け入れるように手を広げる。



「そうだ。決着を付けよう。君が僕に鉄円柱を撃ち込む。倒れるまで撃ち込む。それで倒せたら君の勝ち。立っていたなら僕の勝ちだ! 撃ってこい! 撃ってくるんだカミ子ォ! 君ごときの攻撃で、この主人公を倒せると思うなぁ! 僕に、壊れることへの快楽を刻み込めぇ!」



 広げられた腕に弾丸が撃ち込まれる。後ろに吹き飛ばされた腕に引っ張られて体が大きく薙ぐ。


 折れたんじゃないか。

 ひしゃげたんじゃないか。


 痛みが傷を認知すると同時に脳を支配する。



「ガギャァ……! そ、んなじゃ僕は倒れない!」



 そうだ。こんなの、撃ち込まれたのがたった一つじゃまだ足りない。全然足りない。俺は的だと言わんばかりにもう一度大の字になって、催促する。



「そうだ。倒れてないぞ。手加減してるのか? 弱いんだよ。そんなので僕が倒れると思っているのか! もっとお前の本機を見せてみろよ。弱いんだよ! 雑魚が!」



 煽れ、もっと煽れ。口が開く限り、煽りまくれ。


 この痛みが……たまらない!

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