三極の機甲少女2
サーベルで斬りつけたのに斬れていない。拳銃で撃ち抜くのではなく直接殴りに行って打撲を負わせると言った具合だ。
不完全を押し付けられて事を為せと言われてもそれが難しいのが世の理。策も無しにあの二人に突っ込むのは愚の骨頂。肉を抱えてサバンナを歩き渡るに等しい行為だ。
「まずすべきことはあの二人を引き離すこと。そうすれば一人に集中して対応できる。お前が召喚された理由はわかったか?」
「!? ん? !???」
やっぱりもう少し賢い設定にしてから召喚すべきだった。
「僕が一人につくから、お前は残った一人についてくれってことだ。まずカミ子の方に付く。お前はゼクトの方を頼む。簡単に言えば御守りだ」
「ゼ、ゼクトさんに付けとですかい!? それはご無体な。あの爆撃音を発生させている一人に付けって、無理も無理ですマジ無理です。それは……そうだ! 遠方から指示出しますんでそれで、」
「召喚獣がご主人様に反抗するな! だからゼクトについてもらうんだ」
あの子は僕を守ることを最優先としているはず。同じ姿をしたゲンガーが傍にいて、守ってほしいと言ったらきっと傍にいてくれるはず。それを利用してカミ子を何とかするまで持ちこたえてほしい。
「でも……怖いよぉ」
「僕の見た目でそんな怯えた表情を見せないでくれ。しょうがない」
バカな上に臆病者とは救いようがない。僕は呆れながら寝ている静吉の傍に寄る。
「すまん静吉。決してやましい心があってじゃないんだ。これは学園を……強いて言えば世界を救うためなんだ。許してくれ」
返事は求めていない。事後承諾もできないので謝りながら僕は制服のボタンを外していく。
静吉のことだ。あれをきっと見えないところにカッコつけも兼ねて隠しているはず。露わになったワイシャツの上から体を撫ぜ、ゆっくりと引き締まりのある肉体の溝に指をはべらせていく。
指から伝わる熱量が童心の音を引き上げていく。
申し訳なさと自制を言い聞かせた何とも言えない表情で肉の間を弄る。絶対あいつは体に触れた場所に隠しているはず。そう信じたい。
「うわぁマスターやらしい」
「うるさい。こちとら探し物を無心で探すのに精いっぱいなんだ」
「何探してるんですか?」
「インスタントシールだ! さっきまで静吉はインスタントシールを使って思現をスキップして三立を発動していた。あれがあれば僕の偶像召喚を書き込んでお前にも偶像召喚ができるようになるはずだ」
数少ない、いまだに頭の中にストックされている偶像の内。さらに数少ない守ってくれそうな戦闘向きの偶像をもったいないがお守りとしてくれてやるってことだ。
「臆病なお前でも少しは安心するだろう」
「おぉうマスター。何という心遣い。でもそんな体を触りまくって見つかるんですか? 意外に脱がした服のポッケに入ってるんじゃないですかねぇ」
「まさか。静吉に限ってそんな普通なところに置いておくなんて……」
驚くほど簡単に見つかった。上着のポッケの中にお目当ての品があった。
少し言葉が詰まって、肩にポンと手が置かれて。
「マスターに自発的スケベの称号を寄与します」
「ただの色魔じゃないか! ええい。よし、インスタントシールのいくつかに偶像召喚を……書いた。これでお前の意思次第で召喚できる。数少ない、覚えている偶像たちだ。大切に扱えよ。無駄にしたら殺す」
「アッハハ~♪ ますたぁったら冗談が過ぎるんだからぁ~ん(はーと)」
これが冗談を言っている眼だと思えるんならおめでたいことだ。貴重な偶像なんだ。もし使えないようにしたら容赦なく消滅情報で消してやる。
「じゃあ、乗り込むぞ」
手招きをしながら保健室から出る。グッバイ静吉。安らかに眠れ。
反応が遅れてワンテンポ後にゲンガーが出てきてついてくる。
「ちよぉーっと待ってくださいな。乗り込むって、どうやって? 真正面からぶつかっても勝てないって言っておきながら乗り込もうって。そんなの簡単に返り討ちにされるのがオチなんじゃないですか?」
その通りだ。真正面から攻めたところでやられるのが目に見えている。
ならどうやってと聞かれて、そんなもの簡単なことだ。
「言葉の通り二人の間に割って入るんだ。真正面からは無理。ならば上から突っ込むまで」
「は? 頭イカレたんスか? 人は飛べないんですよ。マスターはバカですバゴィ!? マスターが殴ったァ!」
こいつのバカさ加減はどうにかならないのだろうか。
とにかく僕は中庭の開けた空間に足を運び、地面を足で叩く。
「境界陣」
ベキリと音を立てて足元に割れ目が生まれる。
「出て来い! ユーフォリムス!」
できた割れ目から出てきた円盤型の物体。いくつかのユニットを率いた刺々しいデザイン。そのまんまUFOとも言える飛行物体。
数少ない記憶に残っている偶像召喚。飛行物体と言うことでそのまま移動手段に使える、今扱える三立の中でも屈指の性能を誇る代物だ。




