表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/72

三極の選定天子14

「父さん……ん? ちょっと待って。今、プログラムって、始原情報? 何で君が始原情報を使えるの!?」

「なんでだろうなぁ。サァテ静吉。お前のおかげで僕は且つての僕を取り戻せた。まるで健康ランドに行って体中の垢と言う垢をそぎ落としたような清々しい気分なんだ」

「そ、そうなの?」



 そう、お前には感謝してもしきれない。だけど、けじめをつけてもらわないといけないな。



「『口鬼静は」

「ん?」

「最も絶望的な幻想を目の当たりにする』」



 僕は詠唱した。それと同時に辺り一帯がお花畑に様変わえう。

 何だ。これが静吉の絶望的な風景なのか。



「なに、ここ? あれ? きーちゃん? きーちゃんどこ行ったの?」



 今の僕はお前には見えない。お前はまさに僕の作り出した異空間にいる状態。言ってしまえば小型のプログラムの中……痛い。



「いてててててててえ! クッソ! 体が引き裂かれるほど痛い! ほとばしるきらめきが眼前に迫ってる! 桃源郷に舞い降りたような痛みだ!」



 僕は花畑でのたうち回る。この三立を使うのは厄介だ。使う度に体を地面に横にして魚のごとく跳ね回るほどの痛みが走るのだから。


 まあ、死ぬほど痛いだけで死ぬことはないから我慢すればOKなのが救いだ。



「いったいなぁもう! まあいいや。さぁて、見ものだ。静吉見せてもらうぞ。お前の一番の絶望ってやつを」



 観察対象静吉。未だに戸惑いを隠せずにいた。



「きーちゃん? これどういうことなの? ウチは今どこにいるの? 情報を見ても何もわからない。本当にここはどこ?」

「静吉。ここにいたか?」



 唐突に現れたそいつ。そいつって……僕じゃないか。おいおい。絶望の幻想を目の当たりにするって、僕が関わってるのか。



「きーちゃん! よかった。いきなり景色が変わって、これは君がやったことなの?」

「教える義理は無いな。それより静吉。お前に話がある」



 結構冷たいな。幻想の僕。



「話しって、何よ」

「もうお前には着いて行けない。もうお前と一緒にいられない」



 唐突な提案。言われた静吉の表情が固まっている。



「一緒にって、え? どうしてそんな、いきなりそんなこと言うの?」

「お前は僕に隠し事をしてた。いつものことだけど、今回の隠し事はあまりにも大きすぎる。僕はお前を信用したかったけど、もう信用できない」



 ズバズバと言う幻想の僕だけど、まあ今回は色々と明かされるにはちょっと受け入れがたい内容ばっかりだったのは事実だ。

 静吉がハータスの娘とか、ネクスト・プライマル計画に組み込まれていたとか、存在の三本柱の真実とか。



「信用できないって、確かに君は今までウチを完全に信用したことはなかったけど、けどウチは君のことを大切に思ってきたのは事実よ。それは絶対の真実なのよ! 一緒にいることができないなんて言わないでよ!」



 静吉の叫びが悲痛だ。なるほど、これが静吉の一番の絶望ってことか。



「約束したじゃない。今まで一緒だったんだからって、これからも一緒だって」

「……さよなら。静吉」



 幻想の僕は踵を返し、静吉に背中を向けて歩き出す。

 静吉は必死になって止めようとしたけど、その手は空を切る。



「待って、待ってよきーちゃん! おいてかないで! きーちゃん!」



 のどを壊しそうなほどの悲痛な叫びと南海でも伸ばす腕。しかしその腕は決して届かず、むしろ距離はどんどん遠ざかって行っている。


 そして幻想の僕は遥か彼方まで離れていき完全に姿が見えなくなった。



「何で、どうして……きーちゃん? 嫌だ。嫌! 私を一人にしないでよきーちゃん!」



 彩られた一面の花畑はまるで重油を浴びせられて鈍重なにごりの光沢を放つように茶色く枯れる。静吉は枯れ切った花畑に倒れ込み、動かなくなった。



「花畑は静吉の心理状況を表しているのか……ん?」



 うわぁ花畑からイバラが生えてきた。刺々しい、まあイバラなのだから刺々しいのは当たり前だけど、イバラが辺り一面から生えてきたと思えば静吉を護るように包み込んだ。


 イバラに護られるその様。分かりやすいほどの拒絶反応。僕にあんなことを言われてそんなにも絶望したのか。



「そろそろ潮時だな」



 この薄暗い嫌な雰囲気の空間も見飽きた。

 僕は足で地面を叩く。それと同時に僕によって作られた空間は地面に落ちて砕かれたガラス瓶のごとく崩壊していき、そこな今まで通りの多目的室に戻った。



「ふぃー五分程度だったけど面白いもの見れたな。大丈夫か静吉?」

「き、きーちゃん……! そこに、いるのね」



 倒れ伏せている静吉が力の入らない腕で何とか状態を起こし、虚ろな目で僕を見た。絶望に染まっていた表情に一縷の光が差し込んだ、そんな希望に満ちた表情だった。



「何、したの……きーちゃん」

「お前が僕の最盛期を再生したつもりだろうけど、そこから連鎖反応が起きたんだ。僕ですら予想外の事態。抑え込んでいたのではなくて支配していたんだ」



 倒れ伏せる静吉を抱え上げ、壁にもたれかける形にする。



「きっかけは再生しようとしてハータスが表に出たせいで、身に秘めた全てが解放された。ハータスを長年身に宿していたせいでお前たちの一族にしか扱えない始原情報を後天的に使えるようになってたらしい。そして静吉が可能性持ちとしての三立、偶像召喚を使える僕を再生した。つまり」

「偶発的に机上の空論を支配できる技量を手に入れたって……わけね」



 流石始原情報を扱えるだけあって気持ちいくらいに言葉を続けてくれる。



「そうだ。僕のかつての数値とハータスの数値が合わさって机上の空論が使えるようになった。始原情報、可能性持ち、机上の空論を扱える三極の狂走頁になったってわけだ。そして今お前に見せた幻覚。『口鬼静は最も絶望的な幻想を目の当たりにする』と設定した。それが無色透明の龍。願望錬金の完成形『言ノ葉錬金』だ」



 意味付けられた言葉が現実のものになると言うシンプルな、言霊のような錬金術。

 過去に生み出した机上の空論である願望錬金の召喚。それが無色透明の龍であり完全ある机上の空論。


 世界が渇望した本物の魔法だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ