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三極の選定天子12

「きーちゃん? 大丈夫?」

「……大丈夫に見えるか? 最高に最悪の気分だ」



 再生されてしまった。でも再生されたせいで副産物が生まれてしまったんだ。こんなの望んでいない。こんなことを知りたくなかった。



「そう言うことかよ。ははっ。マジかよ。冗談じゃない」

「ど、どうしたの?」

「どうしたのって、これが笑わずにはいられるかよ。お前にはわかんないのか……そうか、見えないように『選択されてる』みたいだな。いいか。全部、仕組まれていたんだ。ネクスト・プライマル計画は新しい世界に移り住むものなんかじゃない。静吉と僕……僕に成り済ました黒幕が別世界でアダムとイブになる。そう計画されていたんだ」



 なんてことだろう。なんて、歴史の闇だろう。崩街に隠された真実。あれは僕の意思とは別の意志が働いていたなんて。

 そう、あの時に見つかっていなかった願望錬金を召喚するために、崩街は起きたんだ。



「こうやってあんたと会話をするのも久しぶりだな。ん? 今更言い訳か? 馬鹿にするのも大概にしろよ。僕は、信じてたんだぞ。ずっと頭の中に居座りやがって。自分の娘を何だと思ってやがる」

「何を、言ってるのきーちゃん?」

「お前にも関係あることだ。見せてやるよ静吉。今から、崩街を起こした張本人を受肉する。境界陣!」



 僕は空中を裏拳で叩く。すると空間にひびが入り卵の殻のようにボロボロと崩れる。その中身は混濁した裂け目が出現する。


 僕はその裂け目に腕を突っ込む。



「さぁ出てくるんだ……ハァタァアアアス!」



 僕は勢いよく中で生成されたそれを引きずり出す。バリバリとひび割れを広げながらデロリと生まれたそれは一人の人間。

 人間を召喚するのは机上の空論じゃないか? 違うんだ。こいつは人間じゃない。この世にいるはずのない人間。偶像上の人間だからこそ召喚できるんだ。


 上背のある男。若さが抜けた三十代の青年と言った男が生み出される。

 男は息を荒げ、滑稽に這いつくばるように壁にすり寄る。僕は男の傍まで歩き、蹴ってこちらを向かせた後、そのどてっぱらに蹴りを入れて壁と板挟みにする。



「よぉ。八年ぶりだな。ハータス」



 この男。僕の師匠であり静吉の父親。ハータス・ブレインストロング・静道。死んだはずの男だ。



「貴様……! 源次郎! 師に対して暴力を振るうか!」

「師だ? ずっと人の頭に住み着いていてよく言えるな! この裏切り者が! 僕を騙しやがって! 信じてたのに!」



 見えてんだろう。僕が今さっき、アンタと一緒に過ごしていた時間に感傷を浸っていたのを。


 あぁ、信じたかった。信じられなかった。静吉も僕は計画のために利用されたと言ってたけど、そんなの信じたくなかった。だけど、もう知ってしまった。


 あー痛い。死ぬ程痛い。倒れてしまいそうだ。こいつを召喚するためにちょっとした無茶をしたせいで体中に痛みが走る。


 僕はもう、胸の奥から沸き上がる怒りをぶつけるしかなかった。


 だけどこの光景に一番驚いているのは静吉だ。僕じゃない。



「父さん? 何で? え? きーちゃん。どうやって、呼び出したの?」

「静か! 父がわかるだろう! 今すぐ源次郎を止めるんだ! 父の言うことが聞くんだ!」

「黙れクソ野郎が! 教えてやるよ静吉。こいつは僕の脳内に自分の情報を植え付けていやがったんだ! ハータスの始原情報、『選択情報(セレクトプログラム)』を使ってな! 情報を選択し、コピーや行動の制限をできる始原情報! 崩街を引き起こした無色透明の龍はこいつが僕の脳内を誘導した結果召喚されたってことだ! クアハハハハ! ギャハハハハハハハ!」



 ハータスに認められ、三立を学び、世界中が僕を机上の空論に最も近い魔法(三立)使いとしてまつりあげて、脚光を浴びた。しかしそれは同時にのしかかる多大な重み。観衆の声に応えなくてはならない重責が小さい頃からあったし、それに応えろとハータスにも言われ続けた。


 だけど、途中で気づいたんだ。やっぱりどんなにあがいたって机上の空論には到達しえない。人は右手で右手を掴むことはできないんだ。人類が問答無用と無尽蔵に到達するのは不可能なんだと気づいてしまった。


 その時僕がいたった結論。ならば召喚すればいい。人類が本物の魔法をその身に宿せないというなら、本物の魔法を使える生物を生み出せばいい。そのための偶像召喚だった。


 その結果、机上の空論である無色透明の龍が召喚され、崩街が起こった。僕は無色透明の龍を召喚したのは自分の意思だと思った。だけど、違ったんだ。



「僕も知らなかった。こいつの中身はド変態野郎だ。目的はお前と添い遂げることだったんだ。僕がネクスト・プライマル計画で世界を召喚して廃人になると予想して、抜け殻になった体を乗っ取る気だったんだ。そのことをお前に知られるわけにはいかなかった。静吉。お前の始原情報でハートアスの、こいつの情報を見ることができないだろう?」



 そう、始原情報はここの能力だけでなく、始原情報としての能力も備わっている。


 それは情報の読み取り。対象の過去から性格、今考えていることなど個人情報ダダ漏れの覗き見上等な下卑た共通能力。この能力のおかげで静吉は様々なことを話さずとも、体験せずとも知っている素振りを見せていたんだ。


 流石にそのあたりは情報操作を生業として繁栄した一族と言える。



「そ、そんなこと……あ、あれ? 見れない。父さんの情報が見れない」

「見られないさ。ハータスが見られないようにしたんだからな。幼いころのお前に自分の情報を読み取れないように選択したんだ。用意周到なこった。今思えばおかしかったな。崩街を起こして以降、全く勉強してなかったのに座学どころか知らない知識まで僕は知っていた。アンタが脳内にいたなら他愛もないことだな。なぁ、ハァタァス?」



 すらすらと言葉が出てくる。今の今まで自分が知っているはずのないことが頭の中を駆け巡っている。頭がパンクしそうだ。感情の暴走。栄養ドリンクの飲み過ぎで気分がハイになって神経が過敏になっているような感覚。


 これは、止められそうにない。

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