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三極の選定天子5

 ゼクトの体からパチパチした音が聞こえる。ゼクトの体から幕放電のように時より目に見える、静電気が発生しているのか?


 もしかして急に動けるようになったのも体に電気を流して無理やり動かしているのか? 

 むしろ電気を流して運動能力を上げているのか?

 だからさっきのゼロ距離射出を受け止められたのか?


 ゼクトの雷にカミ子の自動で発動した陣。明らかに彼女たちの持つ三立との接点がない。



「まさか……意思に関与することのない三立?」



 言現を用いていたゼクトが今そう言った素振りも見せずに体に電気を流している。

 行現を用いていたカミ子が今そう言った素振りも見せずに鉄円柱を呼び出していた。


 もし意志に関与することのない三立が発動したのなら、魔法(三立)使いとして確実にワンランク上がったと言ってもいい。


 フラッシュバック。嫌なことは脳裏にずっと擦り付いている。二人は確実に近づいていっている。かつての僕に。無色透明の龍を召喚した当時の僕に……!



「ゼクト。ここにいると邪魔が入る。外で決着を付けるわよ」



 壁を破壊し、小さな召喚陣から召喚された細い鉄円柱に腰掛け、滑るようにカミ子は外へと出ていく。ゼクトもまた、着いて行くように壁から飛び降りた。


 追いかける? ここから追いかけるにはかなりの回り道をしなくちゃならない。今すぐ向かいたいところだけど、すぐには向かわない。それよりも詰め寄る相手がいるからだ。



「何してんだよ静吉……! 何でお前! あんなことを言ったんだ!」



 二人はお互いに高め合っている。貪り合うように求め合い、相手を潰すと言う絶対的意思の元にその力を蓄えている。


 僕はそんな二人を止めようと静吉に助けを求めた。静吉だってさっき二人を止める算段があると言って出ていったのに、何であんなたきつけるようなことを言ったんだ。



「答えろ! 静!」



 答えを求める。一刻も早く聞きたかった。言い訳の言葉を、弁明の言葉を。



「だから……部屋にいてって言ったのに」



 その言葉はあまりにも望むものではなかった。その言葉には歯がゆさと悔しさと後悔が込められているのが手に取るようにわかる。


 頭に熱が昇る。僕は痛みも忘れ、静吉に掴みかかるように詰め寄ろうとしたけど、その手が静吉に届くことはなかった。

 

 突然に身体が床に落ちる。何だ、この身体の重さは。まるで、体の動かし方を忘れたような、そんな感覚が体を覆った。



「身体が……おもてぇ……! 何をしたんだ、静吉!」

「君には全てを知る権利がある。これは君を不幸にした世界を捨てるために必要なことなんだよ」



 ………………………………………………は?

 こっちの質問に答えずに何を話したかと思えば、本当に何を言っているんだ?



「世界を捨てるって……はは、まさか『異界創成』を言ってるのか? わかってんだろ。世界を生み出す魔術は机上の空論だ! そんなの不可能に決まってるだろう!」

「君は世界に虐められている。そんな世界なんていらない。君とウチとで新世界に行こう。今ここにネクスト・プライマル計画の真の発動を宣言する」



 話を聞いていないし全く本筋が見えてこない。

 僕と静吉で新世界に行く? 世界に虐められた? 世界を捨てる? 何を持って僕は世界に虐められたのか。何を持って世界を捨てるのか。


 僕にはわからない物語が静吉の中にあるというのか。



「ネクスト・プライマル計画の発動って、それは三本柱の立案した企画だろ。真の発動って。お前の父親が関わっていると言っていたけどそれが関係するのか」

「関わっているんじゃないの。今のネクスト・プライマルは父さんが立案したのよ。今は亡き父。ハータス・ブレインストロング・静道がね」

「!? ハータスだと!」



 その名前を知っている。え? 静吉の父親?

  それに今は亡きって。どういうことだ。

 あの人のもとを去ってからもう八年経つし、でもちょくちょく情報誌とか三立誌にも名前が出ていたはず。

 死んだ? いや、それより。



「ハータスに……娘がいたのか? お前が、ハータスの娘だって!?」

「驚くのも無理はないわよね。確かに静道は私の父親であり、君の父親でもあったからね」



 ハータス・ブレインストロング・静道。その名前は確かに僕の父親、いや、里親の名前であり三立の世界における研究職第一人者、三本柱がこの世界に三立を交付して以来ずっと牽引してきた者の名前だ。


 僕は両親の顔を知らない。捨てられたのか、それとも死んでしまったからなのかも知らない。

 僕は物心ついた時から孤児院で暮らしていた。それでも別に不幸だとかは思っていなかった。


 ジャングルジムのてっぺんに居座って他の子たちを見下ろしたり、食事の時みんなから野菜をもらいに回って先生に怒られたりしながらそれなりに楽しい日々を送っていたのも懐かしい。


 だけどある日現れたハータスにあることを聞かれ、僕はハータスの養子となると同時に彼の弟子となった。


 いや、何僕とハータスの出会いを思い出して感傷に浸ろうとしてるんだ。違うだろ主人公!

 ハータスが死んだって言うのもショックだけど……ショックだ。気にしちゃダメだと自分に言い聞かせても無理がある。


 だけど、だけど大事なのは今この時だ。

 静吉から与えられた情報の統合。室も量も半端じゃない情報の多くから最優先で拾い上げられた疑問。それを投げかける。



「お前は、三本柱の何なんだ」



 ハータスがネクスト・プライマルを立案したってんなら、娘である静吉もそれ相応の立場があるはずだ。


 僕の問いかけに静吉はあっさりと応えてくれた。



「存在の三本柱は全てのV持ちを呼び戻す。全VCALL(ゼンブイコール)。父さんが無き今。ウチが存在の三本柱の当主。それが口鬼静。今まで黙っててごめんね」



 ごめんと言う言葉が添えられた、正真正銘の懺悔の告白。


 ごめんだと? 謝るだと? 自分の中で渦巻く感情が抑制しきれない。内から湧き出るのは失望にも似た感情と、怒りと言う熱。その熱は喉を通って声として吐き出す。

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