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三極の戦乙女10

 なぜ直っているのか。ゼクトが何かしたのか? だけどその疑問はこの後起こすゼクトの行動で違うものだとすぐわかった。



「さすが……ですなぁ。このままじゃ勝てない。わかりました……カミ子。全力でアナタに挑みます!」



 カミ子から距離を置き、今一度僕のもとに戻ってきたゼクトは気合を入れてか、拳同士をカチ合わせる。ガチンガチンと何度もたたき合わせ、大きく息を吸っては大きく吐き出し、その碧い目を見開き、ゼクトは『詠唱』した。



「アームズアップ-ゲッチャーブレード『カトリーナ』」



 声と共に、結われた一筋の後ろ髪が右手に絡みつく。

 髪の毛はワイヤーのように形を成し、姿を変える。

 その腕に巻きとられた髪の毛の変わり果てた形。見ているだけでもわかる。剛健なる鋼のインゴットによって生成された肘まで伸びるガントレットになった。


 その光景に僕だけではない。カミ子も言葉を失っていた。



「嘘だろ。ゼクト。まさかアンタ」

「『言現(げんげん)』を使えるのか?」



 思現、行言。そして三発現最後の一つ言現。思現のように思考での発動でもなく、行言の行動による発動でもない。発語による三立の発動方法。


 行言よりも扱えるものは少ない、自分の吐いた言葉に三立の意味が込められ発動、しゃべるだけで三立が発動する俗に言う『呪文』として扱われている超特例の三発現だ。


 そんな超希少な三発現に僕とカミ子は時間が止まったかのようにゼクトのガンドレットに見惚れていた。


 すらりと伸びた甲冑を思わせる銀の装甲。どうやってかはわからないけど髪の毛を媒体に金属に変換する意味の分からない技術。おかしい。髪の毛と鋼の成分が違い過ぎる。


 見た感じ錬金術の領域だが、だからこそあり得ない。


 固まった時間にメスを入れるのはゼクトの突進。一直線に向かう足取りにカミ子は我に返ったのか今一度盾を張る。



「今更そんなものが通じるかァ!」



 振り被られた右腕が盾を殴りつける。盾にひびが入り、盛大に砕け散る。

 

 何て攻撃力。なんて突破力だ。

 そうか。最初に鉄の蓋を叩き割ったのは会の装甲を纏っていたからなのか。確かにあの攻撃力ならさしものカミ子でも正面からやり合うのは骨が折れるだろう。


 もしかしたら、これでゼクトとカミ子の戦力差がかなり縮まったかもしれない。


 ゼクトは今一度振り被るも盾の向こう側にはすでにカミ子の姿はない。あるのは一直線に伸びた細い鉄棒だ。



「カミ子のやつ。逃げたのか?」

「あの方に逃げるなんて考えはないはず。今度いつ襲ってくるかわかりません。サカナは匂いで追います! ゴトゥディンは安全な場所を見つけてじっとしていてください!」



 ゼクトもまた、鉄棒の伸びた先に駆け出す。


 一人になってしまった。護るって言ったくせに一人にするのかよ。いや、護られるつもりは更々ないけど。

 

 とにかく、ゼクトの言うように安全な場所を見つけた方がいいかもしれない。少なくともあの興奮状態のカミ子と真正面に組み合うなんてのはごめんだ。


 だけど隠れてゼクトがカミ子を倒してくれると願いながら待っているのは正直、するべきではない。



「そうだ。カミ子を正すって啖呵を切った以上、何かをしないと」



 さっきまで震えていたのは無しだ。都合の悪いことは忘れろ。今からすべきことをするんだ。


 でもその前に気になる点がある。僕に付いた青あざ。怪我をしたってどう考えてもおかしい。プログラムの設定に不備でも起きたのか?


 それに倒壊した校舎がいきなり元に戻るのも変だ。時間を置いたらステージは自動修復される設定なんてないはず。

 それともゼクトの錬金術か? もしくはゼクトとカミ子以外で三立の要素が絡んでいるのか。


 確かめるためにどうしようかと壊れていた廊下を見渡すと、先ほどまでなかったはずなのに壁に文字がデカデカと書かれていた。



「なんだこれ。『プログラムに異変あり。至急多目的室に来て……静』って、静吉のメッセージ!」



 何でこんなものがいきなり書かれているんだなんて驚かない。静吉だからそれぐらいはしてくれるだろう。


 やっぱり異変があったんだ。そうだ。プログラムの設定は多目的室のパソコンでできる。そこに行けば何かわかるかもしれない。

 いつまで尻もちを着いているんだ僕は! 震えよ止まれと僕は太ももを叩き、無理やり立ち上がる。


 何か、嫌な予感がする。擽るようなざわつきを胸に僕は静吉が待つ多目的室へと走り出す。

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