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三極の戦乙女8

 ゼクトは飛び出した。地面を叩き割るようなスタートダッシュ。ダックインの前傾姿勢。頬の隣に構えられた右手がバネのようにカミ子に伸びる。


 ゴキン! と鈍い音が鳴り響く。

 しかしそれは肉を叩く音ではない。骨が、拳が鉄を殴る自爆した音。ゼクトの拳の先にあるのは先ほどのシルバートレイのような鉄円柱を小型にした盾。

 空中に召喚してゼクトの攻撃を防いだんだ。



「さすがに、硬いですナ」



 いや君さっき割ったじゃん! 割って教室にカッコよく登場したじゃん! え? 何で割れなくなったの?



「随分だなゼクト。人が楽しんでるところにいきなり乱入? 無粋にもほどがある。それとも前もって打ち合わせをしてタイミングよく助けに来たってわけ? ねぇ主人公!」



 怒声のあて先は僕だ。怒声と言うこともあってカミ子は大層ご機嫌が斜めだった。打ち合わせしたなんてそんなわけないだろう。今の僕とゼクトの会話を聞かなかったのか? 完全に予定外の展開だよ。



「今思えば不自然だったわね。いきなり本気でやるとか言って。もしかして口鬼静も一枚噛んでる? なるほど。勝つ算段ってのは二対一ってわけ。いや、表面上は二体二で本当は静吉もアンタ側で三体一。誰かが脱落したら終わりって設定も、もしもの時に口鬼静が自爆して勝利を収める。面白いじゃない。ほんっとに抜け目ないがことで」



 言葉の端々に毒を含みんでいる。謂れもない憶測だ。こいつ思った以上に思い込みが激しい。

 自分で問題提起をしては自己完結して怒りゲージを上げていって……直情であり激情なんだよな。



「どきなさいゼクト。私は今本気の本気で怒ってるから手加減できそうにない。弱い者いじめはしたくないから、手を引きなさい」

「弱い者いじめですか。まだ会って、話して間もなく、互いを知り尽くしてもいないのにどこをどう見てその考えが出てくるのでしょうか? もしかして見た目で判断してるんですカ? 随分と短絡的な思考をお持ちのようで。感服しますよ」

「会って間もないんなら弱いかなんて見た目の判断だけよ。不意打ちみたいに殴りかかってきたけど、もし殴る蹴るだけが攻撃手段だっていうなら絶対私には勝てない」



 すごい言葉の応酬だ。まるで殴り合い。女の舌戦って怖い。



「それもあなたの勝手な思い込みですヨ。もしかして怖いんですカ。サカナに負けるのが。自分より弱いゴトゥディンをいじめたいからそんなことを言ってるんじゃ、」

「主人公は弱くなんかない! こいつは強い! この私が認めてるんだ! 弱いはずがないだろ! 言葉に気を付けろゼクト!」



 言葉を遮りまた怒声を放つ。しかしその怒声は先ほどの物とは違う、ゼクトが弱いと貶めていた僕に対して庇う思いやりの怒声。

 ゼクトは驚いた表情にはならなかったが言葉は途切れた。しかし何が嬉しかったのか、口元をほころばせた。



「失言でした。アナタの言う通りです。ゴトゥディンは弱くなんかないですナ。ゴトゥディンは、とても強いお方です」

「その通り。わかってるじゃないか」



 その言葉に神子も口元をほころばせた。何を共感したのか。

 二人の空間にある一つの思想が生まれたような気がした。友情的な物かもしれない。だけどどうにもその思想を理解したいと僕は思えなかった。


 しかし共感はすぐに終わりゴングは鳴った。カミ子は掌をゼクトの腹部に向け鉄円柱を撃ち出す。それはさながらパイルバンカー。モロに食らったゼクトが僕の近くまで吹き飛んできた。



「大丈夫か!」

「喰らう直前に後ろに跳びましたから平気です。それより下がっててください。来ますヨ」



 来ますよとはカミ子の弾丸だった。しかしその軌道はゼクトではなく僕に向けられたもの。つまり僕への攻撃だ。


 これは避けられない。対応するには時間がなさすぎる。だけど弾丸は僕には届かなかった。



「残念ですナ。ゴトゥディンを傷つけさせませんヨ」



 なぜ届かなかったか。ゼクトが掴んだからだ。華奢で爪楊枝のような細い人差し指と中指に弾丸は挟まっていた。


 声をかける暇もない。ゼクトはすぐにそれを放り投げ、もう一度地面を蹴り、カミ子に飛びかかる。


 カミ子の手が下ろされ、天井から数本の鉄円柱が出現しゼクトの侵攻を鉄格子の檻のように遮る。


 勢いを止められないゼクトは轟音と共に体を叩きつける。

 とても痛そうだ。さっきの僕と一緒だ。勢いづいた体が壁に打ち付けられるのと一緒で痛みが半端なさそう。

 他人事とは思えない。


 カミ子は手を緩めなかった。今度は上だけでなく下右左の多方向に陣が出現し弾けるスーパボールのごとく鉄円柱は打ち出される。


 ゼクトは崩した体勢を整えようとはせずそのままの体勢で転がり、またこちらに戻ってきた。



「あんまり無茶するな! あいつは鉄を召喚するんだ。ただの白打じゃ勝てない!」

「そうですね、前言撤回です。今のサカナじゃ勝てません」



 ゼクトは息は切らしていない。肩も上下していない。だが汗は流れ落ちている。真摯に受け入れる現実。正直ゼクトが戦える人種だってことだけで驚きだが、戦える人種だからと言ってカミ子レベルには程遠い。


 遠近両用機動も確保。何でもござれの万能型。距離をとっても、迎え撃っても、突っ込んでも、縦横無尽に飛び出す鉄円柱。


 あまりにも物量の差がありすぎる。



「勝てないなら逃げたほうがいい。君が乱入してくれたおかげで逃げる算段もいくつかある」

「そうですネ。逃げましょう。ただしゴトゥディンも一緒にです!」



 そりゃ君を置いて逃げつつ盛りなんて……ん? なんだ? 体が宙に浮いたぞ。一瞬理解できなかった。目を丸くしてしまった。だけどそれ以上に間抜けな光景だった。


 細い腕。小さな体。しかしそこに収まる僕の体。女の子の憧れ。誰もが夢見る甘い蜜。それは夢か現か。僕はゼクトに屈辱的にお姫様抱っこをされていた。

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