三極の戦乙女6
振り返ればすでに弾の装填、陣を敷いて鉄円柱を発射準備は完了していた。
しかし先ほどのような指先にあった鉛筆ほどの大きさ陣のようなひ弱なものではない。
手錠をかけるように手首を合わせ、掌をこちらに向けている。
「何その手? かめはめ波?」
「一種の賭け。これで決める。さっきのみたいな小っちゃい弾丸じゃない。逃げ道は無し。今から召喚するのは最大最硬。直径二十メートルの鉄円柱」
「にじゅっ!?」
「これでアンタが何もなく倒れるなら。もう何も言わない。でも何かあるなら、アンタならこの状況を切り抜けられるはず」
二十メートルって、二十メートルの鉄円柱ってバカじゃないか! そんなもの撃ち込んだら僕どころか学校そのものが壊れる。とんでもない質量兵器だ!
やっぱりこいつ移動砲台どころじゃない。個人戦艦ともいえる圧倒的手数と質量じゃないか!
とにかくそんなバカでかい鉄円柱が射出されるとなると無事でなんていられない。教室を巻き込み、窓の鉄円柱と板挟みで押しつぶされるのは必至!
どうする。どうする主人公! 思考がここから逃げるための算段を緻密にシミュレートする。
その間ゼロコンマの一秒も満たない一瞬。いくつもの道筋とパターンを脳髄から掘り起こす……無理だ。どうあがいても僕にできる手段と言うものが限られている。
スプーン、ドライバー、ガスバーナー、コンパス。今の手持ちじゃあいつの砲弾に太刀打ちなんかできないし、窓際に立っているせいで距離も空きすぎている。
検索結果。どうあがいても無理。
どう動こうがカミ子が鉄円柱を射出する方が早い。どう動いてもだ。
そうだ。話術で切り抜けよう。得意のハッタリをかまそう!
「い、いいのかカミ子? そる、それでお前は勝ちを得られるのか? もし僕がこのまま本気を出さないまま……まま勝ったとして! 君は勝ったと胸を張れるのかい!?」
「言い訳は結構。なら三立を発動してこの状況をどうにかしな」
寝耳に水! 言葉選びを間違えたか? もっと、気の利いた言葉を選べないのか僕は! もう、呂律も回らなくなってきた気がする。
「わからない……君もわかっているはずだ。僕がどれほど虚弱で、脆くて弱い存在か。勝った負けたで何の意味もないことくらい、わかっているはず」
「ムカつくなアンタ。自分が弱いって吠えて慈悲をもらおうとするその態度。あまりにもいら立たせてくる」
そりゃそうだろう。自覚しながら吠えているのだから。冷静になってもらっちゃ付け入るスキなんてできやしないんだ。こうなりゃとことんヘタレて喚き散らしてやるさ!
「そりゃそうだろ! 僕と君はアリとクジラほどの差だ! 嘆く以外ないだろ!」
「私はアンタに負けた。そして負けたなら今度は勝つ。ただそれだけよ。そうしなきゃ敗北の汚点を払拭できない……そうだな。一ヶ月私のわがままに付き合ってくれたお礼に聞きたい? 私が何でここまでしつこい理由を」
「っ! ぜひ聞きたいな」
願ってもないチャンス、幸運だ。
巨大な陣は展開されたままだけど、猶予ができた。向うから勝手に話をする気になった以上、聞いているふりをして逃げる算段を立てられる。
「私が三立を学び始めたのは八年前。存在の三本柱が立案した『ネクスト・プライマル計画』に参加したときから」
「ネクスト・プライマル?」
聞いたことがある。八年前、無色透明の龍の事件が起きた直後に三本柱が世界中の子供たちに三立の学ぶ設備と資金を提供した三立の大規模育成計画。
カミ子はそれに参加していたのか?
「世界中から集められた、約三千万人の子供たちは常に闘いの日々だった。知力、策力、生産力。ありとあらゆるものを競い合い自らの三立の点数を引き上げてV持ちになるために戦いあった。その中でも一番手っ取り早く相手より優秀であることを証明ができたのが『戦闘力』だった」
心臓が脈打つ。戦闘力と聞けばわかる。八年前と言うことはカミ子が六歳から七歳の時。戦闘力を競うとなれば、どれだけ血生臭い幼少期を送っていたかが容易に想像がつく。
「まあ、僕の方が壮絶だったけどな」
「初めの半年でほとんどが切り捨てられた。そして驚くほど早く三千万人の頂点が決まった。それが私。ありとあらゆる競いに勝ち続け、誰もが認める魔法(三立)使いになれた。皆が皆私を認めた。私こそ次世代を作る因子だと!」
勝ち続けた。三千万と言う分母からたった一人勝ち残った分子。あらゆる競争に勝ち続け、頂点に立った。
なるほど。それが、君の勝ち負けにこだわる理由か。随分と傲慢な考えだ
「世界を変えるとでもいうのか?」
「違う。私は正しき導を作りたいだけ。あの力は正しい使い方をしたら絶対にいいものだと言うことを証明する。それほどまでに羨望し、目指すものが私にはある。そう、私は無色透明の龍になる」
その言葉を聞いた時、目の瞳孔が一気に開いたかのような冷たい感覚が体を包んだ。
「バカ野郎。無色透明の龍になるだと? お前、自分で何を言っているのかわかっているのか!」




