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三極の戦乙女3

 勢いに乗ったその体を止める術はなく、勢いをそのままに僕は鉄円柱に体ごと突っ込み、鈍い音とともにその場に倒れ込む。



「ぐ、ぉおお……! い……ってぇえ……! クソッ……! いいいっっっっっテェエ! クソッたれぇエ……!」


 

 この身に走る鈍重な痛みはヤバい。僕は奥歯で噛み砕くようにこらえる。

 痛くても、体は動く。怪我をしない設定なのだから。


 僕はふらふらと立ち上がり、眼前の鉄円柱を改めて目の当たりにする。どうにも完全に道を塞いでいる。まるで鉄格子に閉じ込められた囚人の気分だ。



「か、はぁ。油断した。結構自信あったんだけどな。君ならあのまま外に出てくって思ったのに」



 喘ぎながらも回れ右。すでにそこには退屈そうな表情のカミ子がいた。



「昨日今日でやられたことを愚直に繰り返すかっての」

「ははは。君はもうすでに僕の行動を読み取れるようになったか。大したものじゃないか。僕ってば、一人の女の子を魅了しちゃうなんて罪作りー」

「減らず口を叩けるなら大丈夫そうだな。それじゃ再三警告したけどもう一度言う。本気になりなさい。それとも、抵抗しないまま無様に肉塊にされたいの?」



 肉塊にされたいのとは恐れ入った。なんて暴力的なんだ。

 だけどカミ子にはその力がある。


 だいたい無理があんだよ。一人の人間が超強力な遠距離砲台に挑むなんて。



「君は僕のどこをどう見て本気じゃないって言うんだ? 自分で言って悲しいけど僕は落ちこぼれの中でも最底辺の部類に入る人間。数少ない三立の学園に入れたのも跳び抜けた座学があってからこそ。それに引き替え君は高度な三立を会得していて、途中編入を経てこの学校に入って。エリート中のエリートであるV持ちの一員の君。天と地の差。君が一万円札なら僕は便所紙だ。僕は君から逃げるだけで手一杯なのに、何で君はそこまでして僕が本気じゃないって言えるんだ!」

「アンタが本気じゃないからに決まってんだろ」



 それは一刀両断の言葉だった。何の捻りもない。分かりやす過ぎる答え。


 ははは。渇いた笑いすらこみあげてくる。出会った初日。あの日。わざと負けておくべきだった。それならこんな思いをせずに済んだのに。


 ああ、間違いだ。口にはしないがこの女のことは大っ嫌いだ。

 むちゃくちゃで、自分の欲求に忠実でウサギをしとめるにも手を抜かない獅子のごとく剛健で……狙われたらこうも骨までしゃぶり倒されるなんて思いもしなかった。



「冗談がきつい。僕が本気だろうとなかろうと無限柱弾(ロッカーパイル)には敵わない。この世に君に勝てる生物なんているわけがないんだ」



 無限柱弾。カミ子の三立、純鉄召喚の別名であり彼女の強さの根幹でもある。


 純鉄召喚。鉄を召喚すると言うとても単純でシンプルなものがなぜここまで攻撃的なのか。それは召喚する際に高速射出しているからだ。

 例えるならカタパルト、パイルバンカーの類。

 彼女の意識の範囲内、陣の敷けるあらゆる場所に高速射出する鉄円柱を無限に召喚することで異様なまでの攻撃性を誇っている。

 

 陣を作り出しそこから召喚する。

 それだけの召喚術をカミ子は高速射出と言う一つのギミックを加えることにより移動式の意志持つ砲台と化している。


 生身の人間に太刀打ちなんてできない。何より恐ろしいのは弾薬は全て想像で賄える。つまり弾数制限と言うものが存在しない。


 やろうと思えば戦艦だって一人で沈めることができるであろう恐ろしいほどのカミ子のスペック。だからこそ彼女はこの時代にそぐわない『最強の魔法(三立)使い』と呼ばれているんだ。


 そんなやつに勝てるわけがない。できるとしても逃げるだけ。何でカミ子はそれを分かってくれない。



「そうだな。今までどんな奴でもぶちのめしてきた。どんなにでかい奴でも、腕っぷしに自信があった奴でも勝ってきたけど。けどアンタに負けた。執着する理由はそれで充分」



 ダメだ。話を聞いてない。勝てないって言ってんのに全く見当違いな答えが返ってきやがる。ああ、こんなことなら本当に出会った当初で負けといた方が得策だった。僕の人生の中で上から二番目の失敗だ。


 この異様なまでの勝ちへの飢え。普通じゃない。尋常じゃない。細かいことを気にしすぎ!



「君、将来禿げるね」

「喧嘩売ってるなら喜んで買うけど」



 ごめん冗談だ。気を悪くしたなら謝るからこれ以上の追撃はやめて慈悲をください。

 なんて言ったらスパッと却下されるんだろうなぁ。


 あぁ……胃が痛い。



「まあアンタに勝てる勝てないかは今から決めること。今回はアンタが言いだして賭け事になったんだから真面目にやんなさい。それとも、最初から負けるつもりだったの? そういうのは、その………困るな。きちんとやってもらわないと」

「自惚れないでよね☆ アンタなんかに負けないんだから! 私が負けても、主人公は負けないからね! プンプン☆」

「声真似やめろぉ! にしてもこの状況で悪ふざけなんて余裕あるじゃない。じゃあこんな長々してる話もアンタにとって勝つための算段の一つなわけ?」

「勝つ算段なんかないさ。代わりにあるのは逃げる算段だけだ!」

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