三極の戦乙女2
「なるほど。利害の一致ってわけ。だからケンカを売るのをやめろとは言わないってわけ。でもちょっと待って。足を止めてくれない主人公。さりげなく階段の方に向かうのをやめてくんないかな」
僕は足を止め、歩みを止めた。
後ろを向いてるけどわかる。カミ子はおそらくこちらに拳銃に模した指を突きつけてる。
怪我をしない設定を利用して、階段の横に立った瞬間に相手が心配するような飛び方で階段を転げ落ちて、そのまま逃げる算段を立てていたんだけど。流石に無理があったか。
「なるほどなるほど。もう一つつけておこう。なるほど。やっぱ気づくよな普通は。一ヶ月も追って追われてをしてたんだもんな。単純なカミ子でも察しちゃうよな」
「単純は余計だしこの状況で私と真っ向面からぶつかってアンタに為す術なんかないだろ。普通逃げるだろ? 悪いけど逃がす気はないから」
「でもさ、別に逃げるつもりはないんだよね。ただ、準備期間が欲しいってだけだ!」
僕は手を横に伸ばす。確かに階段の傍まではいけなかったけど別の扉、隣の教室の前には立てた。扉を殴り開けて教室に身体を投げ出す様に飛び込む。
廊下からバキン! と弾ける音がいくつも聞こえる。鉄を撃ちだしてやがる。だけど構ってなんかいられない。
「たしか鍵が開いている窓はと………!」
逃走ルートはいくつか作ってある。この教室もそうだ。前もっていくつかの窓の鍵を開けてある。
僕はそのうちの一つを開けて、窓の縁に足をかける。
「待ちなさい主人公!」
間髪入れずに教室に入ってくるカミ子。その指にはすでに陣が敷かれている。
「悪いなカミ子。戦略的撤退だ。悔しかったらついてくるんだな!」
さっきのおかえしにあっかんぺー!
窓を飛び越え、体が空を包む、のもほんの一瞬だった。
ここは三階の窓。ただ跨いで降りたら地面に激突してしまう。三階から飛び降りたらケガはしなくとも相当の痛みが来る。
痛みは一瞬で体の自由を奪う。動けなくなってしまうとただでさえ攻撃範囲お化けであるカミ子の格好の的になってしまう。
僕は一階に飛び降りるために窓から飛んだのではない。飛び越えた瞬間に壁の縁を掴んで宙ぶらりん。そのまま身体を揺らしてその勢いで下の階の開いている窓に突っ込んで着地する。
窓から飛び出したのは下の階に飛び移るため。先ほど開いている窓を確かめたのは三階のどこが開いているかじゃない。あらかじめ開けておいた二階の窓はどこかを確認していたんだ。
そのまま廊下に出て僕は少しだけ一息ついた。
今回のルールはいつもと少し違う。
いつもは僕は逃げて、カミ子が追って、設定した目的地点に到達したら終わり、言うなれば鬼ごっこルールなのだが。今回はプログラムに続行不能と判断された時、もしくは負けを認めた時に終わるよう設定をしてある。
力量的にも物量的にも圧倒的なカミ子に対抗できる手段を僕は持ち合わせていない。元も子もない言い方をすれば真正面から勝つのはまず無理だ。
つまり地力以外の要因を用いてカミ子に負けを認めさなければカミ子に勝てやしない。
何より面倒なのが時間制限がないことだ。今まではこそこそと学校内にテキトーな罠を仕掛けて何とか逃げ切ってきた。
プログラムは基本参加者の持ち物は投影することができる。これがあるからこそ今まで前もって自分で用意した物を学校の色々な場所に置いておいて活用して何とか煙を撒き、制限時間いっぱいまで逃げ切ってきた。
が、今回はほとんど用意してない。数日前に学校側がほとんどを撤去してしまったからだ。何の因果かこんなタイミングで僕の手持ちがほとんどないという最悪の事態。
どうせ撤去するならあと数日待ってくれても良かったのに! と言うか人の物を勝手に処分するとかサイテー!
「ちくしょー! こうなったら学校の備品使ってカミ子を雁字搦めにして恥ずかしい格好にしたあと写メってネットに晒すぞって脅すぐらいしか、」
それは突然降ってきた。轟音と共に天井が崩れ、その破片や瓦礫が降ってきた。
咄嗟の対応だった。体を投げるように前に飛ぶ。廊下に身体を打ち付けながらも何とか回避できた。晴れ時々瓦礫。あまりにも珍しすぎる天気予報。
天井が崩れた。なぜ崩れた。簡単だ。撃ち込んで、壊したからだ。
何で僕は一息なんてついたんだ。ここはプログラム。
何を壊したって現実世界に影響なんてないんだ。
倒れている僕は急いで体勢を整える。急いでこの場から逃げないと。僕は地面を蹴り走り出す。しかし走り出してすぐ、勢いがついた辺りで足の先に小さな鉄円柱が現れ小石に躓くように盛大に足を引っ掛ける。
このままだと、また体を床に打ち付けて倒れる。
「グぉッ………! まだぁ!」
転ぶわけにはいかない。体が自然と反応し、手で地面を叩く。身体がまたしても宙に投げ出され、弧を描く。僕はハンドスプリングの要領で体勢を立て直した。
よし。ナイス僕。
勢いをそのままにこのまま走り抜けてやろう。なんて思うのは甘い考えだった。
今度は先ほどのような転ばすためのちんけな鉄円柱ではない。完全に行く手を阻む、電柱ほどの大きさの鉄円柱が何本も出現する。
「嘘、冗談だろ! 勢いが……! 止まらない!」




