三極の幕開け3
少しして何とか静吉が落ち着いてくれた。
セカンドキスで慰めろとか冗談じゃない。いくら綺麗だとは言えそうやすやすとファーストキスをやってたまるか。
とにかく話を元に戻そう。
「話を再開する。一応この二人連れて来たのは理由ありきなんだ。その説明はきちんとする。と言うより静吉は話してあるのか? カミ子に今からプログラムで僕たち四人でタッグ戦をすると」
「言ってない……その場で言って、グスン。便乗しようって魂胆だったから」
「話してないって……お前って奴はどこまで無責任なんだ。と言うかそろそろ泣き止め」
「そう思うなら抱き締めてよきーちゃーん」
無責任な言動といい抱き締めて慰めろといいこいつ幼児退行してやがる。
「わかったわかった。慰めてやるから。よーしよし。きーちゃんが一緒にいてあげるからねぇ。と言うわけなんだよカミ子」
「何の話?」
首を傾げるカミ子。何の話と疑問を投げかけてくるのも無理もない。なんたって何も聞かされてないんだもんなぁ。
言ってしまえば一人で予約を入れていた店に三人で来店するようなものだ。こりゃ最初から説明する必要があるようだ。
僕は逐一最初から身振り手振りを交えて静吉の悪びれの素振りもない理事長の企みと魂胆を人間召喚だとか偶像召喚だとかはもちろん話せないのでうまい具合に話をねつ造して暴露する。
「つまり、私を使ったその子の転入試験をプログラムで行う。私を巻き込む見返りに主人公との決着を理事長公認で決行すると」
「そう言うこと。静吉曰くどうやら窓から突っ込んできたこの子に三立の才能か何かを感じたらしいんだ。この学園に取り入れたいとか何とか。つまり僕も巻き込まれたってことなんだ」
「私と主人公の決着に不純物を混ぜ込もうっての? 私がそれを許可すると思ってんの?」
嫌なら結構。断ってもらっても結構と言いたいところなんだけど……そうは問屋が卸さないと静吉の顔が言っているんだよ。ぐずぐずの泣き顔だけど。
「許可するかしないかって問題じゃないと思う。ウチの言葉は理事長の言葉。別にカミ子ちゃんの邪魔をしようって訳じゃないから。それこそ、理事長公認できーちゃんも本気で頑張らなくちゃいけないから、チャンスって思えるんじゃない? ぐすん」
いつまで泣いてるんだよ。いい加減抱きついてくるのを止めろよ。
「……ふーん」
「何だカミ子。その意味ありげな含みは? 僕の話に何かおかしいところでも」
「今の話を聞く限り、主人公がその提案を聞き入れるメリットがないと思うんだけど」
「あ、え!? その……ほら! 君も言ってたじゃないか! 僕は困っている人を放っておけない質だって!」
「だけど人をおちょくるのは大好きだよな」
「うるさい! だから、この子も学校って組織に入れたら色々便利というか、立場上好ましいというか……! とにかくこの子のために一肌脱ごうかなぁってね!」
「そのために今まで私から逃げていたのを止めてまで決着をつけるって言うの? と言うより試験なのにいきなり実技の、しかもプログラムを用いた闘争? まずは筆記からじゃないか? それに今のさっきで唐突過ぎるし、何か企み的な意図を感じるな」
今までになく疑り深い。まあこの一ヶ月の間、カミ子との決着を避けるためにあらゆる手を使って逃げてきたし、信用ならないって言えば信用ならないけど。
確かに僕だって疑問に思う所はある。
今カミ子が言った通りなぜプログラムを使った闘争を理事長は提案したのか。僕と一緒にゼクトが優秀であることを証明しろと言っても、ゼクトが三立を使えるかどうかは未知数だし、まずは使えるかどうかの実技演習をするべきだろう。
なのにいきなり世界最高峰の魔法(三立)使いの二人を相手にプログラムでの闘争をして優秀であることを証明白だなんて、今どき時代遅れだしはっきり言って異常だ。
そこにどんな理事長の意思があるか。ぜひ知りたいものだ。あまりにも不可解すぎるからな。
だけど大事なのは今現在だ。このまま根掘り葉掘りカミ子に色々と聞かれたらどこかでボロが出そうで怖い。何でもいいからどこかで納得してくれ。
「アハ、あハはは」
「意図なんてどうでもいいじゃない」
「静吉? 泣き止んだのか?」
「カミ子君。言ったでしょ? これはチャンスだって」
ぬるりと静吉は僕の体から離れていく。去り際に僕の胸板を摩っていったのがセクハラなのか気がかりだけど、どうやら元気になってくれたようだ。
「どういう形であれ学校公認できーちゃんとの決着を付けられるのよ。それが今の君にとって一番の悲願じゃないの? それとも、負けっぱなしがいいっての?」
「……そんなわけない。主人公。私はアンタに負けた。それは汚点だ。いいよ。やってやる。アンタたちの望むとおりにその子を巻き込んで、主人公をぶっ潰してあげる」
その眼に光をともす。見るからにカミ子の身にやる気が満ちている。
そうだ。今のカミ子の原動力は僕に対しての敗北に対しての恨みだ。今静吉が言ったように有無を言わさずに条件を飲めと言ったらカミ子の性格上引くはずがない。
ナイスだ静吉! 僕はグッと親指を突き立てる。
「ぶっ潰すなんて、サカナがさせませんヨ。なぜなら騎士ですから」
「あ、君。今まで静かだと思ったら」
「黙ってろと言われたので。どうやら話は済んだようですシ」
「まあ話は済んだんだけど……」
済んだからこそ問題がある。
タッグ戦だろ? ここには四人いるだろ? 僕とゼクトが組むだろ? 必然的に残った二人……カミ子と静吉が組むことになるってことだろう?
二人は……日本どころか世界的にも高位の魔法(三立)使い。はっきり言って勝ち目無し。
「あ、あの~。お二人さん。本気で僕と戦うって言うのかな?」
「あ? もちろんに決まってるだろ。これでやっと私の汚点を払拭できる。く~。腕が鳴る!」
右手で拳を作って左手をバシバシと叩いている。
ヤバい。見るからにやる気一杯だ。そんなにやる気を出されるとこちらとて困る。戦ってもらわないと困るのだけど、やる気過ぎるのも困る。
「し、静吉は?」
「ウチ? まあ、理事長の辞令とは言えカミ子君の闘いに手を出すのも気が引けるし。邪魔にならない程度には頑張るかな」
静吉の方は大丈夫そうだ。問題は……やる気満々のカミ子か。




