三極の始まり1
これは『世界を幸せにするための魔法の偽物』だ。
一昔前、世界中で信じられてきたオカルトの類を復興しようって運動が盛んな時期があったのが事の発端。だが所詮オカルト、魔法なんてものは幻想に過ぎなかったのだろう。結局は見つからずじまいだった。
この世界は魔法なんて夢物語に憧れた世界。
魔法はしょせん幻想。この世界は幻想を手にすることはできず絶望し、現実と幻想の大きな壁に挫折した世界。
それでもなお、研究し、探し、すがり祈った。そんな情けなく、諦めの悪い世界。
何かの偶然か。世界の最重要ポストに位置する生活や産業の基盤『科学』の領域ではなく、ましてや幻想でありこの世界の祈願である魔法、言うなれば『オカルト』の領域でもない。いわば第三の領域『三立』。魔術と錬金術と召喚術の三術からなる『魔法の偽物』を編み出してしまった。
魔法らしき三立が立証され、世の中に広まり浸透した。
だけど世界は傲慢だった。魔法の偽物が生まれたなら、魔法もできるはず。
「世界はさらに『問答無用』と『無尽蔵』を求めたのだった」
「アンタ何語ってんだ?」
心地のよい夕暮れの風が流れる。
夕暮れ、そう夕方だ。
学校での勉学の時間を終了した放課後。今もなお勉学に勤しむ者もいれば部活に精を出す者。帰り道に友達や他の学年の先輩後輩、羨ましいやつとなると恋人と寄り道をする奴と多種多様の時間。
日中の束縛から解放されて自由を謳歌する時間だ。
そんな時間をこの僕、主人公は屋上で一人黄昏るなんてことで過ごしていたんだけど、来客だ。
「三立の浸透した文だよ♪ これはとっても重要だと思うなぁ。言うならば物語の導入ってやつ? この世界は特殊な力があると言うことを読者に印象付けるための第一歩! カミ子ならわかるよね(はぁと)」
「かっこはーととか言うな私の声真似をするな気持ち悪い! アンタはどこまで人をおちょくれば気が済むんだ!」
「ならば素でいいのか? 以前に君は女顔のくせに洋画に出てくる幾多もの戦いを潜り抜けた伝説のアーミーに当てられた吹き替えみたいな声がムカつくと言ったじゃないか」
「どっちもムカつくんじゃボゲー!」
わがまま甚だしい。
何をしに来たんだこの女史は。
人の声を批判するためだけに屋上に来たのではないだろうけど、無駄に格好つけた一人っきりの時間を邪魔されたくないからとっとと要件を言って帰ってほしい。
「それとも……愛の告白!? 確かに放課後の屋上って最高のシチュエーションかも」
「ふざけろ。勝手に補習を抜け出して、アンタを呼びに行けって頼まれたの。アンタに振り回される私の気持ちがわかんのかって聞いてんの!」
「わからないな。僕は君じゃないんだ」
むしろ僕のことを振り回しているのは君だろうと言ってやりたい。普段どれだけ面倒事に巻き込まれているか。きっとわかってくれないだろうなぁ。
「それに頼まれたなら断ればいいものを。先生の頼みをほいほいと承諾する辺り、本当に損をしていると言うか。と言うより、先生の頼みだから来たってわけじゃないだろう? むしろ自発的に来てるだろう?」
「まあな!」
いい返事だ。うら若き乙女がバイオレンスな感情を抱いて一人の男に付きまとうなんて、悲しくなってしまう。ロクな青春じゃない。
もっとこう、女子高生チックに放課後に寄り道デートとかやっておけよ。誘ってくれるなら付き合ってあげるから、荷物持ちでも何でもやってあげるつもりだから。
だけどこの女史。そんな考えは針の穴ほどもあらずだ。勢いよく指を指してきた。そして高々と宣言してくる。
「決着を付けるぞ主人公! この前のリベンジ! 再戦! 負けっぱなしは性じゃないの。今度はアンタをズタボロのコマ切れにしてやる」
「本当に君、物騒。うら若き乙女が何とも物騒な」
そう、この一ヶ月。彼女に毎日のように言い寄られている。朝昼、ひどい時には晩にも。もちろんデートのお誘いのような甘酸っぱいものではない。
お盆に積みあがったコップを地面にたたき割るような物騒で体が強張るような痛々しいお誘いだ。
そのせいで毎日休まるときが無い。特に学校ではまともにご飯にもありつけない精神状態なのでほとほと困っている。
安らぎは時として多大な成果を生む。ずっと緊張していてはロクな結果にならないのは明白だ。
だけど彼女のしてくることは緊張を作り出す。
すくすくと育つための草木の水やりを大手を振って妨害してくるような。
パスタを食べるのにフォークを使わせてくれずにスプーンのみで食べることを強要してくるような。
カワイイ我が子を寝かしつけるために子守歌を歌うも吐いた歌はまるでラップ音のような。
とにもかくにもすべてがロクな結果にならないような内容だ。