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あの事
『うん。だけど、あの事って…?』
大野さんは、少し困惑しながら私に聞いてきた。
「私、最初の頃…大野さんとさっき会った人に重ねてしまったんです。初めて、あなたを見た時…そっくりで…。
だけど、人を二度と好きにならないと決めていたんです。」
『どうして…?』
大野さんは、静かにそう聞いてきた。
「もう、傷つきたくなかったんです…。だけど、大野さんといる内に…気になってしまって…気がついたら好きになってしまったんです…。その人と似ているからではなく、大野さんを好きなんです。」
大野さんに誤解されたくなかったから、私は自分の気持ちを全部伝えた。
『…ありがとう。藤原さんは、もう傷つかなくて良いんだよ。これからは、俺が守るよ。』
「大野さん…。」
私が名前を呼んだ瞬間、抱きしめられた。
『…藤原さん、好きだよ。付き合って下さい。』
「…はい。」
大野さんの首筋に顔を埋めながら、私は小さく返事をした。
そんな私達を、沈みかけた夕日が照らしていた。




